猪俣淳の不動産投資コラム

シリーズ連載: 猪俣淳の「不動産投資の正体」

LIFULL HOME'S 不動産投資コラム

「フルローンは危険か?」(1)
~B/S(貸借対照表)の視点~

物件価格全額の借入を「フルローン」、諸費用や改修費も含めた分まであわせて借りるのを「オーバーローン」といいます。物件価格に対する借入額の割合を投資分析用語ではLTV(Loan to Value)と表現します。計算式はLB(Loan Balance=借入残高)÷V(Value=物件の価値)。
「自己資金を温存できるフルローンは投資拡大の要諦である」「いやいやフルローンはキケンだ」と様々な意見が飛び交っていますが、本当のところはどうなんでしょうか。また、金融機関はなぜフルローンを出す(場合がある)のでしょうか。
この問題はB/S(貸借対照表)とP/L(損益通算書)の視点で捉えるとわかり易いでしょう。

B/S(貸借対照表)の視点
不動産の価格には、1.実勢価格(時価)、2.公示価格(公示地価)、3.基準地価(都道府県基準地標準価格)、4.相続税評価額(相続税路線価)、5.固定資産税評価額とそれぞれ異なった視点や尺度の土地の価値評価があり、「一物五価」などと呼ばれています。
6.収益還元価格を加えると「一物六価」と言っても良いと思います(広義には1.実勢価格に含まれるかもしれませんが)。
そして、相対取引である不動産の売買においては、
・早急に現金化したいという売り急ぎ
・トラブルを抱えた入居者や隣人
・建物や敷地に関する問題
・地域的な問題
といった理由から、実勢価格や評価額とはかけ離れた(安い)金額で物件の売買が成立することがあります。
市場の相場価格が1億円のものを何らかの理由で2割安い8,000万円で購入できたというケースであれば金融機関から見ればフルローンで8,000万円の融資をしても、2割の頭金が入っているのと同じ状態といえます。

逆に、
・所有地の隣でありそれを取得することによって大幅に既存の不動産の価値があがる
・企業等で事業展開においてどうしてもその立地でないと困る
・早急に物件が欲しいという焦りからの買い急ぎ
・他諸事情
ということで、実勢価格や評価額とはかけ離れた高い金額で売買されることもあります。
市場の相場価格が8,000万円のものを何らかの理由から1億円で購入したのであれば、頭金を2,000万円入れたとしても、8,000万円の融資は金融機関から見ればフルローンと変わらない状態といえます。

金融機関が融資を行う場合、「いくらまで出すか」という評価は、諸取引事例を元にした実勢価格や、相続税路線価にいくつかの補正をかけた独自評価であったりします。
売買価格の何割という融資基準の金融機関も当然ありますが、それでも評価と併用しながら、売買価格との乖離があれば、低い方を採用するということが多いでしょう。
なぜか。
金融機関から見たLTVは、万一債務者がローン返済を滞ったとき、融資したお金を回収できるかどうかということを担保する意味合いが大きいからです。
一時期、「担保評価額の何割までなら売買価格は関係なく融資をする」という金融機関がいくつかありましたが、この方式は廃れてしまいました。

土地建物で1億円の評価が出るが、利回りで考えると相場は5,000万円でしか売れない物件というケースでは、物件価格相当のみならず購入諸費用(仮に500万円)や改修費(仮に500万円)まで融資しても評価割れは起こしません(5,000万円+500万円+500万円=6,000万円・・・評価に対するLTV=60%)。
こういったケースにあてはまる物件は、下記の2つの条件を満たすものである場合が多いといえます。
1.物件規模のわりに売買価格が安い=①家賃が安く②利回りが高い
2.売買価格のわりに物件規模が大きい=①土地が広く②建物が大きく新しい

1.の条件は、収益物件の価値を決定する直接還元(DC)法に基づけば、「V(物件価格)=I(営業純利益NOI)/R(期待利回り)」ですからI=営業純利益が少なくて、Rが高い。つまりRの構成要素であるr=リスクプレミアムが、立地条件や他の要因で高いとみなされ、g=NOIの成長率が低い、あるいはマイナスとみなされる物件ということを意味します。

2.の条件は、地価が安くとも敷地面積が広ければそれなりの評価額は出ますし、RC造など単価が高く面積規模の大きいもの、また比較的築年数の新しいものであれば評価が出やすいといえます。特に建物評価は地域差が出ませんから、担保評価を押し上げる大きな要因になります。例として挙げれば、賃料単価が安く、高利回りでないと買い手が付かない「立地条件の劣るRC物件」などはこれにあてはまる場合が多いと思います。

こういった物件では、物件を維持管理する、あるいは空室を解消するためにかけるコスト負担が賃料収入に対して過大になりがちですし、特に設備の故障や配管・外装系の緊急的な出費があった時に、十分な資金余力がないと経営に行き詰ることが考えられます。

こういった物件を自己資金が無くて、フルローンやオーバーローンを選択した投資家が取り組んだ場合、十分なキャッシュフローが蓄積できない状態で破たんするケースは珍しくありません。
その場合、この融資を出した金融機関はどういう対応をするでしょうか?基本的な流れは、抵当権を実行して物件を差押え、競売に付して貸付残高を回収ということになります。ここで、直面するのは融資した6,000万円を回収しようと思っても、いくら評価が1億円あろうとも市場で取引される価格はやはり5,000万円にしかならないという事実です。
あたりまえの話のようですが、これで多くの融資を不良債権化してしまった金融機関は実在します。

そこで、この反省を踏まえ金融機関は「実際に売買された価格」あるいは「金融機関の規定による評価額」どちらか低い方を拠り所にすることが多くなりました。万一貸付金の回収を行うことになった場合、より融資する側にとって安全度の高い方法を取るようになったということです。

これを悪用して、金融機関に提出する売買契約書の写しに記載された売買価格を実際の価格よりも高い金額に書き換えたり、契約書を融資申請の為だけに別に作ったり、覚書や合意書で差額の返還を約したりして、フルローンやオーバーローンを引きだすという手法を取っている投資家や仲介業者がいるということを聞き及びます。

これについては、これを行った投資家は法的には「有印私文書偽造罪(刑法159条1項)」「有印私文書行使罪(刑法161条1項)」と、これを行わせた仲介業者は「有印私文書偽造罪の教唆」および「有印私文書偽造罪の共謀共同正犯」になります(いずれも3カ月以上5年以下の懲役)。また、金融機関に対する「詐欺罪(刑法246条:10年以下の懲役)」にもあたりますので、発覚した場合はかなりのリスクを負うことになることを申し添えておきます。

「より融資する側にとって安全度の高い方法」に話を戻しましょう。
例えば、5,000万円の物件に6,000万円(=LTV120%)の融資を行う場合、現預金で2,000万円持っている投資家に対する貸付であれば、総資産7,000万円(不動産5,000万円+現預金2,000万円)に対して6,000万円の融資なので、総資産に対しての融資額は6,000万円÷7,000万円=約86%ということになります。

物件価格5,000万円+現預金2,000万円=総資産7,000万円(あ)
融資額 6,000万円(い)
・・・・・・・(い)÷(あ)=約86%

2,000万円分の担保余力のある他の物件を持っている場合も同様です。
評価4,000万円の物件で、ローン残高が2,000万円の場合、総資産は5,000万円+4,000万円=9,000万円、負債は6,000万円+2,000万円=8,000万円。全体のLTVは8,000÷9,000万円=約89%という計算になります。

物件価格5,000万円+他の物件4,000万円=総資産9,000万円(う)
融資額 6,000万円+融資残高2,000万円=負債総額8,000万円(え)
・・・・(え)÷(う)=約89%

「自己資金が無くてフルローンを組むのと、自己資金はあるが出さずにフルローンを組むというのでは意味合いが違うし、取り組みやすさが違う」というのはここから来ています。

また、金融機関によっては数年後のLTVが何パーセント以下になっていればOKという審査の仕方をするところもあります。例えば、5,000万円の物件に5,000万円の融資を受けようとすればLTV=100%ですが、仮にこの融資の金利が2%であれば5年後の残債は以下のようになります(物件価値は変わらずと仮定)。

融資期間30年  43,602,181円 (LTV=87.2%)
融資期間25年  41,892,498円 (LTV=83.8%)
融資期間20年  39,306,643円 (LTV=78.6%)
融資期間15年  34,968,185円 (LTV=69.9%)
融資期間10年  26,247,921円 (LTV=52.5%)

5年後のLTV90%を求める金融機関であれば30年返済で構いませんし、80%を求めるところであれば20年返済を求められるはずです。

ただし、融資期間が短くなればなるほど返済額は多くなりますから、その分投資から生じるキャッシュフローを圧縮することになります。

融資期間30年  43,602,181円 (LTV=87.2%)年間返済 2,217,716円
融資期間25年  41,892,498円 (LTV=83.8%)年間返済 2,543,126円
融資期間20年  39,306,643円 (LTV=78.6%)年間返済 3,035,300円
融資期間15年  34,968,185円 (LTV=69.9%)年間返済 3,861,052円
融資期間10年  26,247,921円 (LTV=52.5%)年間返済 5,520,807円

従って、フルローンを受けて投資をしようとする場合、残債の減少と、キャッシュフローの減少という二つの相反する条件を受け入れる必要があるわけです。

「フルローンは危険か?」(2)~P/L(損益通算書)の視点~に続く

【このコラムの著者】

猪俣淳

猪俣 淳(いのまた きよし)1961年生れ横須賀市出身
株式会社アセットビルド 代表取締役

不動産・建築分野で30年以上働き、不動産管理・不動産売買・建築・投資・金融・保険の各分野における26の資格を持ち、みずからも収益物件の購入・売却・運営・資本改善を行う実践不動産投資家。
著書に「不動産投資の正体」「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)など多数。
新聞・雑誌への寄稿(ビジネス専門誌・一般週刊誌・海外も含む業界誌)、年間70件を超える全国での講演活動、ラジオ・TVなどへの出演もある。
また、IREM-JAPAN(米国不動産管理協会日本支部)の理事を兼任し、日本で数人のファカルティ(講師)資格を持つ。
ブログ「不動産投資にまつわる100の話」(人気ブログランキング最高位1位)。

保有資格:
一級建築士・米国認定不動産投資顧問資格(CCIM)・米国認定不動産経営管理士(CPM)・同講師(ファカルティ)資格・同MPSA試験採点官(グレーダー)資格・不動産証券化協会認定マスター・不動産コンサルティングマスター・不動産アナリスト・日本FP協会認定AFP・ファイナンシャルプランニング技能士・相続アドバイザー・相続対策専門士・宅地建物取引主任者・管理業務主任者・賃貸不動産経営管理士・賃貸住宅査定主任者・震災建物応急危険判定士・住環境測定士補・防火管理者・貸金業務取扱主任者・損害保険リテール資格・生命保険募集人資格・ハウジングライフプランナー・住宅メンテナンス診断士・住宅インスペクター・事業承継スペシャリスト

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