猪俣淳の不動産投資コラム

シリーズ連載: 猪俣淳の「不動産投資の正体」

LIFULL HOME'S 不動産投資コラム

「フルローンは危険か?」(2)
~P/L(損益通算書)の視点~

P/L(損益通算書)の視点

フルローンやオーバーローンといった、物件価格に対して融資額が相対的に多くなる場合、その返済が物件から生じる営業純利益(NOI)に対して過大にならないかということに注意する必要があります。
営業純利益(NOI)は満室時賃料から賃料が相場よりも高いとか安いとかいった賃料差異を調整して、さらに空室損失や滞納損失を差引き、物件を運営していくうえで必要な様々な運営コストを差し引いた正味の収入を意味します。なぜ、営業純利益(NOI)で見なければいけないか。

フルローン・オーバーローンをテーマとして取り上げる場合、多くの方が「高利回り物件」を条件として挙げますが、その高利回りのほとんどが「表面利回り(=満室想定賃料÷物件価格)」を前提としているからです。B/S的な視点で触れた一見高利回りに見える投資も高い空室率と、高い運営費負担率であれば表面利回りとNOI利回りの間に大きな差を生じさせます。

「安く(=高利回りで)買えれば、フルローンでもお金は残る」。確かにその通りですが、その安く買えたら・・のレベルが想像しているものとはかけ離れる可能性が高いということです。また、ローン返済額は先述の通り融資期間によって大きく変わりますので、融資期間が長いか短いかといった条件でキャッシュフローの残り方に差が出るということはいうまでもありません。

そして、金融機関の融資規定の大きな柱として「万が一融資が焦げ付いた時に回収できるかどうか」という意味合いをもつ「LTVの規定」と、もうひとつ「そもそも、焦げ付かないような財務状況にしておく」ための返済比率の基準が設けられていますので、これをクリアすることができるかどうかということにも注意を配る必要があります。

例えば、

・物件価格5,000万円(賃料単価@約3万円/月・全28戸RC)
・表面利回り20%(満室賃料1,000万円/年)
・空室率30%(常時空室が8~9戸:実効総収入700万円)
・運営費比率30%(年間運営費300万円)

であれば、年間の営業純利益(NOI)は400万円です。(NOI利回り8%)

物件価格の全額5,000万円と不動産取得税も含めた購入諸費用500万円の合計5,500万円を年利2%で借りた場合、25年返済であれば年間返済は約279.7万円ですから、営業純利益(NOI)400万円-年間返済約279.7万円=税引前キャッシュフロー(BTCF)で120.3万円が確保できます。

建物価格4,000万円・築30年であれば減価償却が約153万円、青色申告特別控除が65万円、初年度の金利負担が108万円ですからNOI400万円からこれらを差し引いた約74万円が課税所得です(同居の親族に専従者給与を支払う場合はこれからさらに差し引くことができます)、74万円の課税所得に対して税率30%の投資家であれば、約22.2万円の所得税・住民税を支払うことになりますので、税引後のキャッシュフロー(ATCF)は120.3万円-22.2万円=98.1万円ということになります。

もしも、このオーバーローンを組むことができた投資家が現預金で2割の頭金と諸費用相当額にあたる1,500万円を持っていた場合、その現預金をどう運用するのかということをポートフォリオ全体で検討する必要があります。

例えば、上記の例で投資家がその1,500万円を年利0.2%の銀行預金で運用しているのであれば(銀行預金も投資のひとつです)、年間の受け取り利息は30,000円(税引後24,000円)ですから、この投資家の受け取る年間の税引後キャッシュフローは98.1万円(不動産)+2.4万円(預金)=100.5万円ということになります。投資額1,500万円に対してのリターンが年間100.5万円であれば、自己資金の利回り(CCR=ATCF÷投資資金)は6.70%。
表面利回り20%の投資であっても想像していたよりも少なく感じるかもしれません。

1,500万円の現預金を引き出して、上記投資に自己資金として引き当てれば、ローン借入額は5,500万円から4,000万円に引き下げられ、年間返済額は約279.7万円から約203.4万円になって税引前キャッシュフローはNOI 400万円-年間返済額203.4万円=196.6万円。 
先ほどと同様の計算をすると(金利支払いは108万円→79万円になって29万円減りますので税金は8.7万円アップします)30.9万円の税金を支払った後の税引後キャッシュフローは年間165.7万円となり、自己資金の利回りは11.04%と1.6倍以上改善します。

また、営業純利益(NOI)と年間返済額(ADS)との差を投資の安全度として図るDCR(=NOI÷ADS)という指標がありますが、当然ながら借入の割合が大きくなれば大きくなるほどこの指標は危険側に変化します。

融資期間25年
借入額5,500万円の場合は、NOI(400万円)÷ADS(279.7万円)=1.43
借入額4,000万円の場合は、NOI(400万円)÷ADS(203.4万円)=1.96   

融資年数が短くなった場合の比較も参考まで。

融資期間20年
借入額5,500万円の場合は、NOI(400万円)÷ADS(333.9万円)=1.20
借入額4,000万円の場合は、NOI(400万円)÷ADS(242.8万円)=1.64

融資期間15年
借入額5,500万円の場合は、NOI(400万円)÷ADS(424.7万円)=0.94
借入額4,000万円の場合は、NOI(400万円)÷ADS(308.9万円)=1.29

融資期間10年
借入額5,500万円の場合は、NOI(400万円)÷ADS(607.3万円)=0.65
借入額4,000万円の場合は、NOI(400万円)÷ADS(441.7万円)=0.90

融資期間15年だと5,500万円の借入では税引前でもキャッシュフローが赤字、10年だと4,000万円の借入であっても赤字ということがわかります。

これらの数字は、もともとの利回りや空室損、運営費比率、そして借り入れ条件などによって内容が変わってきます。

フルローンが危険かどうか、あるいはフルローンを引き出すのが自分の目標・目的を鑑みて良いことなのかどうかということは、数値化した投資判断によって明らかになります。

また、フルローンが引き出せるかどうかは投資を構成する要素の一つにしか過ぎません。

現預金を見せ金にして投資を拡大していくのか、全体のキャッシュフローを求めるのか投資方針はひとそれぞれですが、こういった視点をもってフルローン・オーバーローンと付き合っていくことをお勧めします。

【このコラムの著者】

猪俣淳

猪俣 淳(いのまた きよし)1961年生れ横須賀市出身
株式会社アセットビルド 代表取締役

不動産・建築分野で30年以上働き、不動産管理・不動産売買・建築・投資・金融・保険の各分野における26の資格を持ち、みずからも収益物件の購入・売却・運営・資本改善を行う実践不動産投資家。
著書に「不動産投資の正体」「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)など多数。
新聞・雑誌への寄稿(ビジネス専門誌・一般週刊誌・海外も含む業界誌)、年間70件を超える全国での講演活動、ラジオ・TVなどへの出演もある。
また、IREM-JAPAN(米国不動産管理協会日本支部)の理事を兼任し、日本で数人のファカルティ(講師)資格を持つ。
ブログ「不動産投資にまつわる100の話」(人気ブログランキング最高位1位)。

保有資格:
一級建築士・米国認定不動産投資顧問資格(CCIM)・米国認定不動産経営管理士(CPM)・同講師(ファカルティ)資格・同MPSA試験採点官(グレーダー)資格・不動産証券化協会認定マスター・不動産コンサルティングマスター・不動産アナリスト・日本FP協会認定AFP・ファイナンシャルプランニング技能士・相続アドバイザー・相続対策専門士・宅地建物取引主任者・管理業務主任者・賃貸不動産経営管理士・賃貸住宅査定主任者・震災建物応急危険判定士・住環境測定士補・防火管理者・貸金業務取扱主任者・損害保険リテール資格・生命保険募集人資格・ハウジングライフプランナー・住宅メンテナンス診断士・住宅インスペクター・事業承継スペシャリスト

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