猪俣淳の不動産投資コラム

シリーズ連載: 猪俣淳の「不動産投資の正体」

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出口戦略について少し話しましょう

数年前に購入した物件を売却するか、しばらく持つかというご相談が多いです。

年明け3日ですでに4件の個別相談をしていますが、米中韓欧と不確定要因山積みの年明けですからお気持ちはわかります。

写真は例えば・・・ということでその仕組みを解説しようと思って、ブログを書く前にざざっとレポート用紙にまとめたものですが、ごちゃごちゃしていてわかりづらいですよね。

不動産投資を専門にされているプロの皆さんでも出口戦略を正しく理解されている方は少ないのではないでしょうか。

曰く「一等地でちゃんと貸せているから売る必要ない」、「短期譲渡だと譲渡税率が39%なので長期保有になるまでは売るべきではない」はては、情緒的な問題にいつのまにか入れ替わってしまうケースも。

もちろん、出口を取らない方がいい場合も沢山ありますし、売却して手元に入った資金を消費にまわしてしまうのであれば、それはまた別のハナシになってしまいます。

ちなみに、「ボロくて空室だらけ→売却」「ピカピカで満室→保有」というのも逆の場合が多いです。

ボロくて空室だらけの物件は、嫌気がさして手放したくなりますが、そこでもうひと頑張りしてピカピカに磨き上げ、価値をあげて売却したほうがいい投資になります。そして、人情としてはそうした努力の結果ピカピカになった物件は手放したくなくなるはずです。

それは、情緒の世界であって(それを否定するわけではありません。私も浪花節的なニンゲンですから)少なくとも戦略的あるいは投資的な思考ではないということです。

現在の売値も、譲渡所得税率も、再投資先もそれぞれ要素の一つにしかすぎませんから、「その条件であればどうなのか」という判断をすべきです。投資であれば。

詳しくは、出口戦略の本に書きましたが、例えば5年前に下記条件の物件を買って、それを売ろうかどうかという判断をするとしましょう。

物件:木造新築アパート
価格:8000万円(土地50%・建物50%)
表面利回り:7.5%(年間賃料600万円)
購入経費:550万円
自己資金:1350万円(頭金10%+経費)
借入:7200万円(3.5%30年返済)
所得税・住民税率:33%(個人)

初年度の税引後キャッシュフロー(ATCF)=79万円
5年後(現在)のATCF=73万円

5年後(現在)も賃料が変わらずに、利回り6.5%で売れるのであれば、売値は600万円÷6.5%=9230万円ということです。

その場合の売価から売却経費・譲渡所得税・ローン残高を差し引いた売却手取り額は、長期譲渡の場合で約2100万円、短期譲渡の場合で約1750万円となります(同じ5年間保有していても、売却した年の1月1日現在で5年保有しているかどうかという判断になりますので、購入してまる5年経っても短期譲渡という場合があるのです)

内部収益率(IRR)は、長期の場合で14.10%、短期の場合で10.51%となります。

税引き後キャッシュフローベースの自己資金利回り(ATCCR)で考える場合、この段階で73万円のATCFを得るために投資内部に2100万円なり1750万円なりを投資している(=投資基礎)ことになりますから、ATCCRは3.48%ないし4.17%になっているわけです。これ以上で運用できる投資が市場にある場合はそちらに入れ替えた方がいいという判断が出口戦略のキャッシュフローの部分の見方です。

5年前と現在では、金利・年数といった融資条件がより良くなっていますので、当時よりも利回りが低い投資をしてもATCCRのパフォーマンスは良くなる場合が多いと思います。

そして、もうひとつIRRでの見方で考えるとき、「出口をとらずに保有し続ける」という判断は、先ほどの投資基礎を再投資して、引き続きその投資から得られるATCFを受け取り続けるという判断ということになります。

先ほどの事例の短期譲渡を採用し、6年目から毎年1%づつ賃料収入が低下し、さらに5年経過した10年目に表面利回り7%(あと5年後にはその分古くなって0.5%利回りが高くないと売れなくなってしまったという設定です)で売却すると、売却手取りは1960万円。

最初1350万円の自己資金を入れて投資をスタートし、1年目79万円→10年目47万円と税引き後のCFを受け取り、10年目に売却して1960万円の手取りを得る・・・計算するとIRR=8.11%と、2.4%ほど低下してしまいます。

なぜそうなるか?

これは、5年目に1752万円を内部で再投資してその後のATCF,売却手取りを踏まえて計算するとIRR=5.22%と当初より投資効率が悪化し全体の投資のパフォーマンスの足を引っ張ってしまうかたちになってしまうからです。

整理すると

5年保有でのIRR=10.51%
10年保有でのIRR=8.11%
6~10年目の投資内部の再投資のIRR=5.22%

長期譲渡での場合も同様に試算すると、

5年保有でのIRR=14.10%
10年保有でのIRR=8.11%
6~10年目の投資内部の再投資のIRR=1.24%

要は、投資内部の再投資のIRRを試算して、それよりもパフォーマンスに優れた投資先があるのであれば入れ替えを検討すべき・・ということです。

ちょっとわかりにくかったかもしれませんが、不動産投資に関する知識を専門に学んでいらっしゃるプロフェッショナルの皆さんなら、なんとなく理解していただけると思います。

健闘を祈ります。

【このコラムの著者】

猪俣淳

猪俣 淳(いのまた きよし)1961年生れ横須賀市出身
株式会社アセットビルド 代表取締役

不動産・建築分野で30年以上働き、不動産管理・不動産売買・建築・投資・金融・保険の各分野における26の資格を持ち、みずからも収益物件の購入・売却・運営・資本改善を行う実践不動産投資家。
著書に「不動産投資の正体」「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)など多数。
新聞・雑誌への寄稿(ビジネス専門誌・一般週刊誌・海外も含む業界誌)、年間70件を超える全国での講演活動、ラジオ・TVなどへの出演もある。
また、IREM-JAPAN(米国不動産管理協会日本支部)の理事を兼任し、日本で数人のファカルティ(講師)資格を持つ。
ブログ「不動産投資にまつわる100の話」(人気ブログランキング最高位1位)。

保有資格:
一級建築士・米国認定不動産投資顧問資格(CCIM)・米国認定不動産経営管理士(CPM)・同講師(ファカルティ)資格・同MPSA試験採点官(グレーダー)資格・不動産証券化協会認定マスター・不動産コンサルティングマスター・不動産アナリスト・日本FP協会認定AFP・ファイナンシャルプランニング技能士・相続アドバイザー・相続対策専門士・宅地建物取引主任者・管理業務主任者・賃貸不動産経営管理士・賃貸住宅査定主任者・震災建物応急危険判定士・住環境測定士補・防火管理者・貸金業務取扱主任者・損害保険リテール資格・生命保険募集人資格・ハウジングライフプランナー・住宅メンテナンス診断士・住宅インスペクター・事業承継スペシャリスト

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