3月11日にWHO(世界保健機関)がついにパンデミック(世界的流行)宣言をしました。その後も新型コロナウイルスの感染拡大はさらに加速しています。
本コラムでも諸先輩方が新型コロナウイルスに関わる記事を公開されています。若輩者の筆者には、アカデミックもしくはグローバルな見地から新型コロナウイスを分析する能力はありませんが、筆者ならではの草の根レベルの視点から、いま賃貸の実際の現場ではどのようなことが起こっているかをお伝えし、今後、新型コロナウイルスが拡大した場合に考えられる賃貸市場のシナリオについて解説します。
大きな影響を受けている民泊・マンスリー物件
賃貸市場ですでに大きな痛手を受けているのは、民泊やマンスリーなどの、インバウンドや、旅行、企業活動などに関わる事業です。
海外からの観光客はほぼ消滅、国内旅行やイベントも激減しています。企業研修や出張の中止などによるキャンセルもあり、事業者は厳しい状況に陥っています。
この状況に対して事業者側も、必死に稼働率の挽回に取り組んでいます。
大手事業者のホームページでは、50%や70%といった大幅な値引きを謳い、テレワークの増加による新たな需要を取り組もうとしています。また、北海道の民泊事業者の団体では、民泊物件をコロナ感染者の隔離施設に利用しようと道に提案するなど(日本経済新聞・3月17日)、少しでも損失を抑えようとする動きも出ています。
それでも、これらは当面の対応策でしかなく、今後新型コロナウイルスの収束が長引くと、さらなる打撃は避けられないでしょう。
足元の不動産賃貸の入居状況は?
一方、圧倒的に多くの不動産オーナーが所有しているアパート・マンションなどの住居系賃貸住宅への影響についてはどうなのでしょうか。
2月に、筆者が所有するアパートの中国人入居者が退室しました。昨年の夏に入居したばかりで、まだ半年しか経っていなかったので、新型コロナの影響か!と管理会社に確認したところ、その入居者の場合は他県への転勤が退室理由でした。
その後まもなくその部屋も次の入居者が決まり、春の異動シーズンのなか、退室した他の部屋も全て次の入居が決まっています。新規入居者は全て日本人ですが、全体的な入居者の動きとしては例年と変わらないという感触を得ています。
不動産投資仲間や不動産会社にも、新型コロナウイルスの影響についてヒアリングをしていますが、回答の概要は次のとおりです。
・新築、中古とも入居に特に影響は出ていない
・入居の取扱い件数は昨年の水準を維持(ヒアリングしたうちの4割の会社)
・昨年よりも入居の取扱い件数が増加(ヒアリングしたうちの6割の会社)
・学生の新規入居も昨年並みか昨年以上
・外国人入居者は、今はかえって怖くて国には帰れないため動かず
・外国人入居希望者からの問い合わせは減少
・外国人留学生の就学ビザが降りず、来日のめどが立たずに困っているケースがある
筆者の感触どおり、日本人入居者の動きは良好で、外国人入居者については影響が出ているというのが、足元の入居状況のようです。
ただし、少数ですが、予定されていた転勤が中止になり入居がキャンセル、同じ理由で退室の予定が引き続き入居継続というケースもありました。
新築物件やリフォームには影響が出ている
他方、春完成の新築物件には、特に中国で生産している住宅設備などの入荷が出来ず、影響が出ています。
春は、新築物件も多いため、筆者も多くの物件を視察しています。
下の写真は、あるハウスメーカーの見学会時のキッチンです。30戸の新築賃貸マンションですが、やはり中国で製造しているIHクッキングヒータの入荷が遅れていて、見学時現在では入荷日も未定とのことでした。
今春、投資用新築アパートを購入した不動産投資仲間からも、設備機器がなかなか現場に入らず、引渡し日が予定よりも遅れたという話を聞いています。
万が一、設備が間に合わずに完成が遅れると入居者にも迷惑をかけるため、入居のキャンセルや損害賠償、賃料減額などが発生する可能性がでてきます。
また、退室後のリフォームにおいても、便器、洗面化粧台などの住宅設備や、クロス・床材などの資材の納入に影響が生じています。材料が届かずリフォーム工事ができないと、次の入居もできずに空室期間が長くなり、賃貸経営の悪化にもつながります。
新型コロナウイルスが長引いた場合の今後のシナリオは?
賃貸業界では、足元の影響はまだ少なく、新型コロナウイルスが短期に収束すれば一安心といえます。ただし、今後も長引いた場合には、次のような影響が考えられます。
新卒採用数の落込みによる、新入社員の入居減
実は、今春の入居が好調だったのは、昨年までの企業の好業績と人材不足から、今春の新卒学生の就職率が過去最高と絶好調だったことも大きな理由です。しかし、今後も現在の状況が長引くことにより企業の業績が悪化すれば、来年の新卒者の採用数にも影響します。新卒採用が著しく減少すれば、今後の新規入居にも影響があるため、注意深く状況を見る必要があります。
雇い止めによる非正規雇用入居者の退室
旅行業界から製造業に至るまで、多くの業界で新型コロナウイルスの影響を受けています。今後ますます状況が悪化した場合、非正規雇用者を中心として多くの退職者が出る可能性があります。そうなると退室者も増えていくでしょう。
収入減少による退室の増加や賃料の下落
一方、正規雇用者にとっても、会社の業績が悪化すれば、収入に影響が出てきます。
給料が減ったりボーナスがカットされ、手取り収入が減少すれば、いまの賃料の支払いができなくなり、退室や家賃の値下げにつながる可能性が出てきます。
外国人居住者の減少による入居率の低下
日本への外国人旅行者の数は年々順調に伸び、さらにスポーツのビッグイベントや入管法改正、IR法の施行により、今後ますます来日外国人が増加すると期待されていました。しかし、新型コロナウイルスによりその目論見が崩れると、外国人入居者の割合が高いエリアでは入居率悪化の可能性があります
風評被害による入居者離れ
新型コロナウイルスの感染が拡大するにつれて、社会に不安が広まると人の心もすさみ、すでに他の業界でも差別や風評被害も出始めています。
万が一、所有しているアパマンの入居者に感染者、特に重症者や死亡者が出た場合の影響も懸念されます。室内だけでなく、建物の消毒が必要になるかもしれません。また、感染者本人もですが、おおごとになると他の入居者が退室してしまう可能性もあります。最悪の場合、「新型コロナウイルスのマンション」というような噂が広がり、新規の入居者に避けられることもあり得ます。さまざまなケースを想定して、事前の注意喚起と発生した場合の対応方法を検討しておきましょう。
本当に怖いのは来春以降~いまから不動産オーナーがやっておくこと~
さまざまな懸念がありますが、特に来春には新規入居の影響が現れます。
今後、入居率に大きな影響が生じてくると、体力のない不動産オーナーの中には、苦境に陥るケースも出てくると予測されます。
反対に、金利の低水準が続くなか、今後収益物件の価格も下落すると、体力のある不動産オーナーには、優良物件を安く買えるチャンスも増えるでしょう。
実は、いま地銀を中心として、金融機関のアパマンへの新規融資の意欲が徐々に高まっています。
不動産オーナーがやるべきことは、今のうちに入居率向上や借入金の圧縮などの体質改善を行い、体力をつけておくことです。そうすれば、少々の逆境にも屈することなく、反対に新たな不動産投資の可能性も広がります。