人口増加が続いていた東京に変化が表れています。コロナ禍のなかで人口が流出に転じ、東京一極集中は終わったという見方も報じられています。
東京は今後も人口流出が続き、賃貸市場としての魅力は薄れていくのか、それとも人口流出は一時的な現象なのでしょうか。
人口変動の要因
総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、東京の転出超過が2020年7月から4カ月連続で続いています。
長く続いていた東京への人口流入ですが、コロナ禍の2020年5月に初めて転出超過となりました。6月はいったん転入超過になりましたが、7月に再び転出超過に転じて以降、4カ月連続で転出超過となっています。
転出超過に転じた5月から10月までの6カ月間の転出超過の累計は12,789人に達しており、「東京離れ」が本格的に始まったのではという観測もあります。
不動産投資において立地選びをする際に、人口変動のチェックは重要です。
人口変動の要因には、「自然増減」と「社会増減」があります。
「自然増減」は、生まれた人と死亡した人の差を言いますが、わが国では少子化が進み、2005年に初めて出生者数が死亡者数を下回り自然増減がマイナスとなりました。現在も全国的にマイナスの状況が続いており、2019年の統計では沖縄県以外の全ての都道府県がマイナスとなっています。
一方の「社会増減」は、各都道府県に転入してくる人と、他の都道府県に転出していく人の差を言います。当然ですが、各都道府県の社会増減を合計すると、プラスマイナス0になります。
わが国では、1年間に延べ200万以上の人が都道府県間を移動しており、各都道府県が人の奪い合いをした結果、転入超過と転出超過という形で勝敗が分かれます。
一般的には、都市には人が集まるので転入超過となり、地方は転出超過になる傾向があります。しかし、都市や都市圏のなかでも差があり、例えば三大都市圏を見ると、東京圏はプラスが続いていますが、大阪圏は横ばい、名古屋圏はマイナスといった状況です。
不動産投資の入居ターゲットは主に10代後半から30代ですから、立地戦略を立てる上で社会増減の把握は重要です。特に、短期・中期の投資を考えると、社会増減の重要性は高いと言えます。ただし、不動産投資は長期的な展望も見据えながら行う必要があり、自然増減の重要性も認識しておかなければいけません。
東京の転出超過をどのように捉えるか
コロナ禍で、東京が転出超過となった理由はいくつかあげられます。
①リモートワークが普及し、狭い都心の部屋から郊外の広い住まいへ移動した
②学生が大学などに通学できないために実家に戻った
③失業や収入減少などにより、賃料の高いエリアから低いエリアへ移動した
④持ち家志向が高まり、郊外の一戸建などへ移動した
その他にも、一部ですが、地方移住の動きも見られます。
なお、人口移動報告は国外との移動は対象になっていません。実際には、日本に住む外国人が一時帰国したまま再入国できなかったり、新たな来日予定の外国人が来られなくなったりする事例も多く、東京の賃貸物件は比較的大きな影響を受けています。
東京の魅力は揺るがない
今後もコロナ禍が長引くと、しばらく東京の転出超過は続くと予測されます。
ただし、これが中長期的に大きなトレンドになる可能性は低く、東京の賃貸マーケットとしての魅力が大きく崩れることもないでしょう。
それには次のような理由があります。
転出超過の影響は小さい
2018年の住宅・土地統計調査によると、東京には持ち家と賃貸住宅がそれぞれ約306万戸、334万戸あります。
仮に5月から6カ月間の転出超過の累計12,789人が全て賃貸住宅の単身入居者だったとしても、転出世帯の割合は0.3%台にしかなりません。実際には2人以上の世帯もあるのでこの割合はさらに低くなるため、全体を論じるには影響は小さいと言えるでしょう。
東京圏全体では転入超過
5月からの6カ月間の累計で東京は転出超過でしたが、東京に隣接する神奈川県、埼玉県、千葉県はいずれも転入超過となりました。3県の転入超過は合わせて17,601人となっており、東京を含めた東京圏で見ると4,812人転入者の数が上回っています。
東京の人口が地方に流れたというよりも、その多くは同じ東京圏のなかで吸収しているとも捉えられます。このような入居者層は、今後状況が好転すれば東京に回帰する可能性も高いと言えます。
それでも東京は世界的な都市
これまでも東京一極集中と言われてきたように、東京は政治、経済、文化の中心であり、強い求心力があります。
また、東京への不動産投資は、世界的にも注目されています。アメリカの不動産サービス大手のJLLが公表した調査結果によると、2020年1月から9月にかけての東京への不動産直接投資額は約2兆円で、2期連続で世界1位となりました。(※)
このように東京の魅力は依然として高く、一時的な調整はあったとしても、賃貸マーケットとしての優位性は揺るがないでしょう。
ふたたび移動の増加が始まれば…
東京が社会減に転じた理由に、コロナ禍により人の移動が減少したことがあげられます。
2020年5月から10月の6カ月間の都道府県間の移動は約94.4万人と、昨年同期の約105.5万人と比べ大きく減少しました。
しかし、今後状況が好転し、人の移動が増加すれば、地方に留まっていた人の動きが東京に向かう可能性も高くなります。
まとめ
東京の賃貸マーケットは、短期的には調整もありますが、中長期的には、やはり高い魅力があります。
人々も「新しい生活様式」に徐々に慣れ、大学などの授業もオンラインから通学へと移行してきました。
ただし、コロナ禍で入居者のニーズも変化してきています。
東京に限らず、まずは入居者の新たなニーズにも対応し、エリアで勝ち残るような戦略と戦術をもって不動産投資に取り組むことが大切です。
(※)ジョーンズラングラサールレポート(2020年11月19日「2020年1-9月期世界の商業用不動産投資額」