7月1日に国税庁が令和3年分の路線価を発表しましたが、結果は大方の予想通り6年ぶりの下落となりました。不動産投資を検討するうえで、地価の動向は投資利回りや将来のインカムゲイン(あるいはロス)に影響するため気になります。今回の路線価を例に、地価のデータを見るときに注意したいポイントを解説します。
令和3年分の路線価を解説
令和3年の全国平均の路線価は▲0.5%と6年ぶりに下落しました。
都道府県別では、前年比5%以上の上昇が昨年の2都県から今年はゼロに、5%未満の上昇も19府県から7道県と大幅に減り、下落が26県から39府県に増加しています。
上昇率トップは福岡県で1.8%、下落率トップは静岡県で▲1.6%でした。
都道府県庁所在地の最高路線価を見ると、東京はおなじみの銀座5丁目・鳩居堂前が▲7.0%の4272万円と昨年の0.7%上昇から下落に転じ、大阪では北区の御堂筋が昨年の35.0%の大幅上昇から一転▲8.5%の1976万円と大きく下落しました。
都道府県全体を見ると、前年比より上昇が8道県(昨年38都道府県)、変動なしが17県(昨年8県)、下落が22都府県(昨年は茨城県のみ)でした。
用途別に見ると、商業地や観光地、オフィス地区がコロナ禍により大きな影響を受けて下落したのに対し、住宅地への影響は少なく、住宅需要の高い地域ではかえって上昇も見られました。
なお、年の途中でも大幅な地価の下落が確認された地域があった場合、路線価の補正を検討するとされています。大阪府では令和2年の商業地の路線価が、地価下落が進んだことにより2回も下方修正されました。今後もこのような事例が出てくるかもしれません。
路線価に感じる違和感とは?
現在、公や民間のさまざまな地価データが公表されていますが、それらの結果と実際に見聞きしている地価の動向が乖離していると感じて違和感を持つ人もいるのではないでしょうか。
たとえば、今年の路線価の下落率を見たときに、コロナ禍のなかで報道されている商業ビル・オフィス・ホテルなどの苦境やインバウンド需要の消滅といった状況から、地価の下落率はもっと大きいのではと感じたかもしれません。
また、令和2年分の路線価に関して現状との差を感じた人はさらに多かったと思います。昨年7月は、新型コロナウイルス感染が拡大し、すでに不動産市場への影響も表れていた時期だったにもかかわらず、公表された路線価は大幅に上昇していたからです。
これは、各調査の仕組みによるものです。路線価は毎年1月1日時点を調査の基準日としており、半年後の7月1日に公表されます。そのため、令和2年についてはまだ新型コロナの国内感染が始まる前の調査結果が、新型コロナ真っ只中の7月に公表されました。
今年7月に公表された令和3年分の路線価も、同様に調査基準日が半年前の1月1日のため感覚的なズレが生じています。
多くの公的な不動産価格は1年に1回調査し、数カ月から半年後に発表するため、その間の地価の動きは分かりません。そこで公表結果を目にしたときに違和感が生じることになります。
このような調査時と公表時のタイムラグや調査のインターバルの大きさを埋めるために、他のデータを重ね合わせることは有効な手法です。
東京のオフィスマーケットと路線価
路線価と同じく7月に、ビジネス地区のオフィス空室率が発表されました。
三鬼商事のオフィスマーケットデータによると、今年6月の都心ビジネス地区の空室率は6.19%と16カ月連続で下落し、最も空室率が低かった昨年2月に比べて4.7%も悪化しました。また平均賃料も昨年7月のピーク時から9.1%も下落しています。
オフィス需要の減退は不動産価格にも影響します。しかし、1月以降の空室率や賃料の動向は今回の路線価には反映されていません。1月と6月を比較すると空室率は1.34%、平均賃料も3.1%悪化しているため、現時点では1月時点よりも地価は弱含みになっていると見られます。
このように地価動向を探る際には、公表されているデータが持つ時間のズレやエリアの補正を行いながら検討する必要があります。
東京ビジネス地区の平均空室率
2019年 | 2020年 | 2021年 | 変動率 |
||||||||
1月 | 7月 | 1月 | 7月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 1月→6月 | |
東京ビジネス地区 | 1.82% | 1.71% | 1.53% | 2.77% | 4.85% | 5.24% | 5.42% | 5.65% | 5.90% | 6.19% | -1.34% |
千代田区 | 1.77% | 1.44% | 1.25% | 1.93% | 3.52% | 3.85% | 3.85% | 4.33% | 4.42% | 4.51% | -0.99% |
中央区 | 2.42% | 1.73% | 1.24% | 2.26% | 4.10% | 4.68% | 4.75% | 4.98% | 5.02% | 5.51% | -1.41% |
港区 | 1.73% | 2.00% | 1.76% | 3.52% | 6.54% | 6.88% | 7.30% | 7.38% | 7.55% | 8.05% | -1.51% |
新宿区 | 1.61% | 1.90% | 1.62% | 2.87% | 4.34% | 5.02% | 5.33% | 5.64% | 6.47% | 6.32% | -1.98% |
渋谷区 | 1.08% | 1.26% | 2.09% | 3.85% | 5.23% | 5.55% | 5.49% | 5.32% | 6.02% | 6.68% | -1.45% |
※三鬼商事「オフィスマーケットデータ」より抜粋
不動産価格の動向を見るためのデータ
地価の現状や将来予測をする際には、いくつかのデータを組み合わせることでより細かな分析ができます。前掲した路線価やオフィスマーケットデータの他に不動産投資に役立つデータは数多くあります。
よく知られているものも含めて、主な不動産価格調査をあげておきます。
・公示価格(国土交通省)毎年
・基準地価(都道府県)毎年
・不動産価格指数(国土交通省)年4回
・地価LOOKレポート(国土交通省)年4回
・土地情報総合システム(国土交通省)年4回
・住宅価格指数(日本不動産研究所)毎月
・市街地価格指数(日本不動産研究所)年2回
・各市況レポート(東京カンテイ)毎月
毎月や四半期毎など短期のデータが提供されているものも多くあり、より細かい時系列のデータが確認できます。調査・公表の時期や対象など、それぞれのデータの特徴を押さえた上で、ものさしを合わせて上手に活用しましょう。