前回のコラムではリバースモーゲージについて取り上げましたが、実はインターネットで「リバースモーゲージ」と検索すると、まず目につくのはずらっと並ぶ「リースバック」の広告です。
その多くがリバースモーゲージとの比較を強くアピールしており、リースバックの運営会社がリバースモーゲージの顧客層をターゲットにしていることが分かります。
現在も多くの企業がリースバック事業に参入していますが、リースバックは魅力がある事業なのでしょうか。今回は、運営会社側(=投資家)の目線でリースバックのメリット・デメリットについて考えます。
リースバックの仕組みと売主のメリット
リースバックとは、自宅をリースバックの運営会社に売却すると同時に賃貸借契約を結び、その後は家賃を払うことで自宅に住み続けることができるサービスです。
売主は売却後も住み慣れたマイホームに住み続けることができますが、その他にもリースバックには次のようなメリットがあります。
・売却資金の使途は自由(住宅ローンの返済、教育費、老人ホームの入居一時金など)
・リバースモーゲージと異なり、マイホームの所有者の属性(年齢、家族構成、収入など)が問われない
・所有コストが軽減できる(固定資産税、火災保険料、マンションの管理費・修繕積立金など)
・マイホームを売却したことが周囲に知られない
・買戻し特約をつけると、将来マイホームを買い戻すことが可能
・反対に家を残す必要がない人は、現金化して遺産分割しやすくなる
リースバックの利用者はさまざまですが、多く見られるのが、収入の落ち込みなどで住宅ローンの支払いが続けられなくなった人や、老人ホームに入所するための資金が必要な高齢者などです。
そのような人には、早期にまとまったお金が手に入るリースバックの利用はメリットがあると言えるでしょう。
売主のデメリットは投資家のメリット
リースバックのデメリットを一言でいうと、「安く売り」、「高く借りる」ことです。
一般的に買取価格は、市場相場の7割程度と、仲介で売却するよりもかなり安くなってしまいます。
一方、家賃は買取価格の8%から10%程度で設定することが多く、周辺の家賃相場よりも高くなりがちです。
せっかくまとまったお金が手に入っても、たとえば家賃が買取価格の10%の場合は10年で資金が尽きてしまうため、早期に退去せざるを得ない場合もあります。
また、買戻し特約がある場合でも、買い戻し価格は当初の売却価格よりも2割程度高くなるため簡単ではありません。
これらの売主のデメリットは、裏返すとそのまま運営会社のメリットになります。
一般的に不動産投資では、キャピタルゲインとインカムゲインを目指しますが、リースバックでは、運営会社は相場の7割程度で物件を仕入れることができ、さらに中古住宅市場の流通性が高いエリアでしか買取りはしません。
つまり、入り口の段階で、キャピタルゲインが得られることはほぼ決定していると言えます。
また、利回りも8%程度を確保することができ、保有期間中はそこそこのインカムゲインも得られます。
他にも、元の所有者がそのまま賃借人となるため新たに入居者募集をする必要がなく、さらに設備の故障などは入居者負担という特約をつけることが一般的なので、修繕費の負担も避けられます。
このように、リースバックを不動産投資の目線で捉えると、勝算が極めて高い投資手法と言えるでしょう。
リースバックに参入する運営会社が多い理由
現在リースバックを扱っている会社は数多くあり、さらに増加傾向にあります。
また不動産会社だけでなくリース会社、ファイナンス会社など他業種からも参入しています。最近ではCMでも見かけるようになりましたね。
しかし、リースバックは増えているとは言え、自宅の売却手段としてはまだまだマイナーです。リースバック全体の実績の調査はありませんが、業界トップシェアのハウスドゥでも1年間の物件取得数は801件(※1)です。仮に業界全体で3,000件取り扱っていたとしても、既存住宅全体の流通量約60万件(※2)のわずか0.5%に過ぎません。
それでも多くの運営会社がリースバックを取り扱う理由には、リースバックの収益性の底堅さ以外に、リースバックが集客ツールとして利用できることがあります。
リースバックの認知度の向上とともに問合わせも年々増えており、ハウスドゥでは、現在月に約2,000件の問合せがあるそうです。
仮に買取り価格の安さなどが原因でリースバックがまとまらなくても、仲介物件として取り扱いができれば、会社全体の業績向上につながります。
同様にファイナンス会社では、不動産担保ローンなどにつなげることが可能です。
このようにリースバックが売却希望客の集客ツールにも利用することができることは大きな魅力と言えるでしょう。
個人の不動産投資家はリースバック物件を購入できる?
個人の不動産投資家でもリースバック物件を購入している人はいます。
ただし、このような物件は大手が取り扱うことが多く、個人投資家が購入できる可能性は高くはありません。インターネットで探してもなかなか見つからないため、日頃から取引のある不動産会社に声をかけるなど、地道な物件探しが必要です。
また、任意売却にリースバックを付けるケースもあるので、任意売却を得意としている不動産会社に聞いてみる方法もあります。
リースバック物件は魅力のある投資対象ですが、取引相手や物件によるリスクもあります。賃料の支払いが滞ったり、せっかく経営状態が良くても買戻し特約を行使されたりする可能性もあるので慎重に検討する必要はあるでしょう。
不動産投資の対象としてリースバックに関心がある方は、一度調べてみてはいかがでしょうか。
(※1)ハウスドゥ2021年6月期決算資料
(※2)一般社団法人不動産流通経営協会「既存住宅流通量の地域別推計」2021年2月