先日、賃貸併用住宅の完成現場を見学してきました。不動産活用や不動産投資の手法のひとつに賃貸併用住宅があります。筆者も多くの賃貸併用住宅のご相談に関わっていますが、賃貸併用住宅は、世帯構成の変化への対応や空間の有効利用として期待されます。今回は2つの実例をご紹介しながら、賃貸併用住宅への投資について解説をします。
賃貸併用住宅が注目される理由
少子化や核家族化により世帯人数の減少が進み、一世帯当たりの必要な居住スペースが縮小してきています。空き家問題が社会問題になっていますが、実は「家庭内空き部屋問題」も隠れた空き家問題と言えます。子ども部屋も、やがて子どもが独立すると一つ二つと空いていき、夫婦だけになると使わない部屋が何部屋も生まれます。「大きすぎる家にポツンと一人暮らしや二人暮らし」という世帯も少なくありません。そうなると、家の維持管理や固定資産税などの負担感が増大します。
この場合、小さな家に建て替えるという選択肢もありますが、それだけではもったいないので、減坪によって生まれたスペースを利用して二世帯住宅にしたり、賃貸住宅に転用したりするなどして余剰スペースの有効活用を図ることが考えられます。
賃貸併用住宅にすれば、賃貸部分からの家賃収入を自宅部分の住宅ローン返済に充当できる、副収入や老後の自分年金にできる、などのメリットがあります。
【ケース1】少人数世帯の余剰スペースの活用
本コラムの冒頭で触れた賃貸併用住宅です。
建物オーナーは、すでに子育ても終わり子どもたちが巣立った熟年のご夫婦。自宅の建て替えにあたり、広い居住スペースは必要ありません。当初は自己資金のみで平屋のマイホームを計画しましたが、賃貸需要が高いエリアということもあり、1階部分を自宅とし、2階を2戸のカップル向けの賃貸住宅としました。
建築費はフルローンで、毎月の返済額は約24.5万円ですが、家賃収入が約23万円あるため、差引き約1.5万円の返済ですむ上に、自己資金も使わず手元に残せます。
また、賃貸部分はサブリースのため、将来賃料の減額はあっても賃料収入がゼロになる心配はありません。
手元に残した自己資金があるので、必要な時期にいつでも自宅部分の繰上完済ができ、リスクへの備えも万全です。
【ケース2】循環型賃貸併用住宅
建築時に子育て中だったオーナーの実例です。
見た目は2LDK4世帯のアパートですが、当初は1階の2戸にオーナー家族と親がそれぞれ居住し、2階の2戸を賃貸に。1住戸を1つのユニットと捉え、4つのユニットのうち、必要なユニットをオーナーが使用します。
建築後すでに20年近くが経過しましたが、図のように家族の成長や家族構成に合わせ自己使用部分と賃貸部分をフレキシブルに変更しています。
オーナーは将来海外移住の希望もあり、そのときには4戸全てを賃貸する計画です。
もともと住宅にこだわりがなく、合理性を優先したひとつの事例と言えます。
不動産投資として賃貸併用住宅はあり?
2つのケースは、いずれもすでに自宅や自宅を建てる土地がある場合の事例です。
これから不動産投資として賃貸併用住宅を取得する場合は、経営として成り立つのでしょうか。
答えはむずかしいと言えます。土地価格を含めた投資の場合、まず収支が合いません。
また、そもそも中古の賃貸併用住宅の流通はかなり少なく、物件自体もほとんど見つからないのが実情です。
不動産投資で賃貸併用住宅が成り立つのは以下の条件に当てはまる場合でしょう。
①自己資金が多く、収支が大きくプラスになる
②マイホームとしての立地条件を満たしつつ、長期的な入居が期待できるエリアに物件が見つかる
③賃貸併用住宅の建築が可能な土地の法的条件が揃っている
④銀行からの借入れが可能
これまでも、しばしば賃貸併用住宅取得のサポートを行なっていますが、いずれも上記の条件が揃っていた場合に実現しています。
賃貸併用住宅に関心がある人は、まずはマイホームの取得を優先し、将来的に賃貸併用住宅への転用を考えてみるのも一案です。マイホームが、子どもたちの巣立ちという役割を全うした後に、セカンドステージとして賃貸併用住宅に転用しても、老後の自分年金づくりには間に合います。
そのためには、将来、賃貸併用住宅や賃貸住宅に転用できる可能性を検討しながらマイホーム探しをしてみるのも面白いと思います。