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宅地建物取引業法改正〜そのポイントと今後の課題〜

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HOME’S PRESS記事より引用 (2016年 08月18日 11時06分 掲載記事)
(※引用元の記事内容は、修正される場合があります)

大きな改正点はインスペクションの導入

「宅地建物取引業法の一部を改正する法律案」が2016年2月26日に閣議決定され、5月27日に国会で可決・成立した。今後2年以内(一部は1年以内)に施行されるが、今回の改正で何が変わるのか、そのポイントをまとめるとともに今後の課題について考えてみたい。

改正された主な内容としては「既存建物の取引における情報提供の充実」「不動産取引により損害を被った消費者の確実な救済」「宅地建物取引業者の団体による研修」が挙げられ、このうち大きな改正は「既存建物の取引における情報提供の充実」だ。既存建物の売買にあたり、建物状況調査(インスペクション)の活用を促し、その結果を重要事項説明の対象に加えることで、安心して取引ができる市場環境整備を進めようとするものである。

「不動産取引により損害を被った消費者の確実な救済」は、営業保証金や弁済業務保証金分担金による弁済の対象から宅地建物取引業者を除外するものだ。要するに、宅地建物取引業者同士の取引などで損害が生じたときに保証金制度を使わせないことで、消費者の救済に保証金が回らない事態を避けようとするものであり、消費者からみれば基本的な仕組みが変わるわけではない。

また、「宅地建物取引業者の団体による研修」は宅地建物取引業者が所属する業界団体に対して体系的な研修の実施など努力義務を課すものであって、消費者が直接的に関わる部分ではない。もちろん、それによって宅地建物取引業従事者の資質が向上し、消費者保護の充実や市場の活性化に繋がればよいわけだが……。

それでは、今回の宅地建物取引業法改正の大きな柱である「インスペクションの活用」などについて、少し詳しくみていくことにしよう。

“インスペクションの実施”が義務ではなく、“実施した場合の説明”を義務化

インスペクションの内容について、いかに正確な説明ができるようにするのかも今後の課題

インスペクションの内容について、いかに正確な説明ができるようにするのかも今後の課題

改正法で規定される「インスペクション(建物状況調査)」とは、「専門的な知見を有する者が、建物の基礎、外壁等の部位毎に生じているひび割れ、雨漏り等の劣化事象及び不具合事象の状況を目視、計測等により調査するもの」とされ、調査対象部位は戸建住宅の場合であれば「構造耐力上主要な部分」(基礎、壁、柱など)および「雨水の浸入を防止する部分」(屋根、外壁、開口部など)である。したがって、建物状態のすべてについて徹底的に調べるものではないことに留意しなければならない。なお、インスペクションを実施する者については「建築士で、かつ一定の講習を修了した者」が想定されているようだ。

インスペクションによって買主は売買価格の妥当性の判断が容易になることや、瑕疵の有無、修繕の要否やその費用、その建物があと何年くらい使えるかなどを把握しやすくなるものとされている。ちなみに、国土交通省の説明資料において、インスペクションにおける検査料金は一般的に4万5千円から6万円程度であることが示されているが、物件によってはそれを上回るケースもあるだろう。

インスペクションの結果が「瑕疵がないことを保証するものではない」「調査時点から時間経過による変化がないことを保証するものではない」「建築基準関係法令等への適合性を判定するものではない」とされており、買主が期待する内容とずれが生じる場合も考えられる。インスペクションの実施によって「隠れた瑕疵」の発生率は下がるだろうが、インスペクションで明らかにならなかった瑕疵が発見された場合に備えて、「既存住宅売買瑕疵保険」への加入促進も目指すこととされている。2016年3月に策定された「住生活基本計画」でも、2014年時点で5%にとどまる保険加入率を2025年に20%まで引き上げることが成果指標として掲げられていた。

また、改正の要旨は「宅地建物取引業者は、既存の建物の売買又は交換の媒介の契約を締結したときは、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者に交付しなければならない」「(中略)宅地建物取引士をして、建物状況調査の結果の概要並びに建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存の状況について記載した書面を交付して説明させなければならない」としている。

つまり、宅地建物取引業者はインスペクションの実施を「あっせん」するにとどまる。実務的には媒介契約書へあっせん内容を記載するだけの場合も多いだろう。法改正の審議をする中では「すべての既存建物に対し一律にインスペクションの実施を義務付ける」という案もあったようだが、その費用負担が既存住宅の流通を阻害しかねないという懸念から見送られたようだ。

そして、インスペクションが実施された建物の売買などをする際には、契約に先立って宅地建物取引士が行う重要事項説明で、インスペクション結果の説明が義務となる。調査をしていなければ「していない」ということが説明されるだけだ。また、宅地建物取引士は必ずしも建築の専門家ではない。インスペクションの内容について、いかに正確な説明ができるようにするのかも今後の課題とされている。

インスペクションを依頼するのは売主か、買主か

既存住宅流通におけるインスペクションの重要性についてはかなり以前から議論され、その過程において「売主が主体となるインスペクションの弊害」が繰り返し指摘されてきたようだ。2013年度に開かれた「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル」でも「諸外国において、インスペクションを依頼する主体は大部分が買主であり、費用も買主が負担している」という実情が報告されている。制度が先行した諸外国では売主が依頼するインスペクションで数多くの問題が生じ、その結果として買主が主体となるインスペクションに落ち着いたようだ。

改めて指摘するまでもなく、売主は物件を何としてでも売りたい立場であり、その売主から売却の依頼を受けた宅地建物取引業者は、たとえ何らかの問題がある物件でも「それを売り切ることが仕事」である。その両者から依頼を受けて実施されるインスペクションが客観性、中立性を保ちにくいことは容易に想像できるだろう。

不具合などの事象を故意に隠せば建築士法などによる処分の対象となることも示されているが、それだけで中立性を担保することは難しい。宅地建物取引業者が売主となる既存住宅において、その関連会社の建築士がインスペクションを実施すればなおさらだ。

また、これからの住宅市場において既存住宅流通の重要性が増し、市場構造が大きく変わろうとするなかで、リフォームと仲介を一体化したサービスも続々と生まれてくるだろう。そのとき、リフォーム工事の誘引を目的とすることで、インスペクションの結果が客観性を失うことがないようにしなければならない。

今回の改正法は「媒介の契約を締結したときは、建物状況調査を実施する者をあっせんする」という内容になっており、あっせんの相手方を売主または買主のどちらかに限定するものではない。媒介の契約は買主も対象となるためだ。

だが、法律の建前では買主から購入の依頼(物件紹介の依頼)を受けた時点で媒介契約を締結することになっているものの、現実には買主との間で適切に媒介契約を交わすことが少ない。
買主とは、売買契約を締結する直前になって形式的に媒介契約を結ぶことも多いほか、それをしないままで売買が進められることもある。

したがって、実質的にインスペクションのあっせんをする相手先は大半が売主になるだろう。今回の宅地建物取引業法改正案について審議した「参議院国土交通委員会」(2016年5月26日)でも、国土交通大臣は「建物状況調査の費用は基本的には売主が負担することを前提としている」と答弁したようだ。

あるべき姿で考えれば、売買契約交渉がまとまった段階、あるいはそれに近い段階で買主がインスペクションを依頼し、その結果に基づいて買主が購入の可否を最終決断したり、売買価格を含めた契約条件の細部を詰めたりすることになるだろう。だが、今回の改正ではその実効性よりも、まずはインスペクションの認知度アップや実施率の向上による「普及」を優先したものと考えられる。

インスペクションが適正に実施されることを担保するために指導監督の仕組みを活用するとされているが、今後さまざまな事例をしっかりと検討していくことも欠かせない。

インスペクション以外の業務の適正化も図られる

「設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況」についても宅地建物取引士による重要事項説明に加えられる

「設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況」についても宅地建物取引士による重要事項説明に加えられる

インスペクションを実施した建物の場合にその内容を説明することに加えて、「設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況」についても宅地建物取引士による重要事項説明に加えられる。具体的な内容については、今後2年内の施行時までに詰められるだろう。さらに「当該建物が既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項」を「第37条書面」(従来は売買契約書で代用することが大半)で交わすことになった。これについても今後、具体的な様式などが定められることになりそうだ。

それ以外の改正では「業務の適正化」として、「売買などの申込みがあったときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならない」とする項目が設けられている。良識のある宅地建物取引業者なら、これまでも遅滞なく報告をしていただろうが……。また、買主または借主が宅地建物取引業者となる取引の場合には、口頭による重要事項説明を省略して書面の交付のみで足りるものとした。これも従来、違反ではあるが現実には少なからず行われてきたもの(説明の省略)が法的に認められる形になったものである。

今回の改正点については5年後に見直しが行われる

今回の宅地建物取引業法改正では、附則に「政府は、この法律の施行後5年を経過した場合において、新法の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」という「見直し条項」の一文が加えられた。インスペクションの普及に合わせて、実施主体(売主、買主)の明確化を含めた見直しが考えられるだろう。将来的には、一定の築年数要件などに当てはまる建物についてインスペクション実施そのものの義務化があるかもしれない。

だが、消費者が安心して既存住宅を購入することのできる市場環境を整えていくためには、インスペクションによる建物のチェックだけでなく、敷地の地盤に関する情報提供も考えなければならない。地歴や地質に関する情報の開示が進めばそれで構わないとする考え方もあるようだが、個々の敷地における擁壁の状態、傾斜地などにおける崩壊の危険度、液状化のリスクなど、専門的な知見がなければ分かりづらい面も多く、宅地建物取引業者による調査だけでは安心できないケースもある。

さらに、マンションの場合であれば適切な管理が行われているのかどうかを判断するための情報開示が不十分なこともあるだろう。既存住宅市場が十分に整備されるための課題はまだ多いといえるだろうが、今回の法改正によるインスペクションへの取組みがその第一歩となることを期待したい。

今回の法改正によるインスペクションへの取組みが、その第一歩となることを期待したい

今回の法改正によるインスペクションへの取組みが、その第一歩となることを期待したい

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