この連載では既に融資を受けて不動産投資を経験している方を対象に、法人で融資を受ける際のポイントを解説しています。ここでいう法人というのは、オリックス銀行やりそな銀行の個人営業部門で扱われている「実質個人の資産管理会社」向けのアパートローンを利用する法人ではありあせん。銀行の法人部門で他の事業法人と同様の審査を受けて融資を受ける真に法人のことです。
アパートローンは元来地主の土地活用や相続対策のための融資商品であったところ、今世紀に入り、いわゆる「普通のサラリーマン」でも融資を受けられるようになりました。地主の税金対策として資産管理法人を作る手法は昔からあり、それゆえ、信託銀行や都市銀行のアパートローンは資産管理会社名義の融資もしてきました。それゆえ、昨今のサラリーマン向けアパートローンも資産管理会社名義で受けられる銀行があります。
しかし、案件次第でいくらでも借りらえるという訳ではありません。サラリーマン向けに融資している多くの銀行では、初心者や1,2棟の所有者を対象としており、いわゆる「普通のサラリーマン」が10棟以上とか10億円以上とか融資を受けて購入することは想定されていません。そのため、法人名義といえども個人の収入や資産が中心の審査となり、何億円も借りるのは難しいものです。
一方、世の中の会社を見渡してみると、何十億円、何百億円という桁の借入金がある会社は沢山あります。つまり、「実質個人の資産管理会社」ではなく「実質法人の資産管理会社」や一般の事業会社になることで、サラリーマン向けアパートローンの数億円という「限度額」を超えて融資を受けることができるようになるのです。
名義が法人であっても実質個人とみなされていると、高額な借入を受けるのは難しいです。では、ご自身で借りているのがどちらなのか、それを見分ける方法をお教えします。次のような取引ができるのが法人融資であり、該当しない事項がいくつもある場合には、銀行から実質個人としてしか見られていないと解釈すべきでしょう。
・銀行員から「社長」と呼ばれる
・銀行員がアポなしで12月にカレンダーを持ってくる
・担当者が変わると挨拶に来る
・元金均等返済で借りられる
・デリバティブ取引と組み合わせないと10年を超える固定金利の融資は受けられない
・融資審査に必要という理由で、代表者個人資産の資料提示を求められない
・自分が経営する以外の会社からの給与収入の額等個人収入を銀行員から聞かれない
・同じ法人で不動産賃貸業以外の事業を平行して行っても融資が受けられる
・10年を超える超長期の融資を変動金利1.4%以下では融資を受けられない
ほとんど該当しないとなると、それは法人名義であってもアパートローンと同じです。いくつか該当するものの個人資産や個人収入を重視されるという場合には、法人ではあるが法人の財務力だけでは返済できないので連帯保証人としての代表者の力で融資を受けられていることが多いです。そして、ほぼ全てに該当するのが真の法人融資です。
最後に、アパートローンと法人融資の共通点と相違点を整理しましょう。共通点として純資産がプラスであるということです。純資産は銀行基準の時価での資産額から負債額を引いたものです。マイナスの場合は債務超過と呼ばれ、融資を受けることが難しいです。
純資産ともう一つの重要な要素がアパートローンと法人融資とでは異なります。
アパートローンでは、家賃収入から運営経費と空室損を差し引いたネット収入が元利金返済額よりいかに大きいかが問われます。これがマイナスですと返済ができないからです。なお、「運営経費」には減価償却費と支払利息を含みません。
一方、法人では、アパートローン審査的なキャシュフローがプラスであることは当然として、利益が重視されます。すなわち、決算書の営業利益(原価償却費を経費として減算)、経常利益(支払利息を経費として減算)、税引前利益、税引後利益です。これら利益額と総資産額、負債額、支払利息額等他の数値との比率が様々算出され、こうした財務分析の指標に基づいて銀行から見た各法人に対する「格付け」がなされます。格付が低いとそもそも融資対象にならなかったり、融資条件が厳しくなったりします。
このように、特に法人融資において、銀行員は決算書の利益と純資産をまず見ます。それゆえ、返済後・税引後のキャッシフローを増やすことに偏重し、過度に原価償却費を多くとったり融資期間を長く取り過ぎたりすることは、アパートローン審査ではプラスになっても、法人融資審査では逆に不利になることがありますので、法人して本格的に事業展開されたい方は、この点留意が必要です。