HOME’Sのコラムは、ぼく以外にも多くの投資家さんや業界人の方が執筆をされています。どれもレベルが高く着眼点もユニークなのでしっかり拝読していますが、先月アップされた猪俣淳さんのコラムは、特に良かったですね。
https://toushi.homes.co.jp/column/kiyoshi-inomata/inomata21/
「買い時」「売り時」「高値づかみ」「まだ下がる」などの根拠のない(=後にならないと実際にどうだったのかは確定しない)トレンド予測をするのではなく、自分の投資指標をクリアしていれば購入の判断をするというところ。そして、一番のリスクは「無為(何もしない)」ということである。
ぼくも、このような根拠のある判断ができるようになりたいと思います。
猪俣さんの書籍も、前回のコラムで推奨した「武勇伝本ではない」ものばかりです。
「不動産投資の正体」は、さほど難解でもないので必ず読んでおきましょう。
■「不動産投資」は、広い定義の言葉。
さて、不動産投資本を都合良く解釈してしまうことでの失敗。
3つめの失敗パターンは「複数の書籍に書かれている内容を、勝手に融合してしまう」というものです。
ひとくちに「不動産投資」といっても、物件種別や運営方法などで様々なメリットとデメリットがあり、必要な知識やスキルも異なってきます。
かなりベテランの投資家さんであっても、選んでいる投資スタイルはせいぜい1~2パターンであることからも分かるように、あれこれ手を出すのは難しいものです。
あれこれ手を出すのは難しい反面「いろんな投資スタイルの本を読む」ことは大して難しくありません。
ただ、書籍を読む中で意識しているかどうかに関わらず、「良いところだけが印象に残る」ことが多いのは事実であり、特に不動産投資そのものを前向きに捉えている方は、そういう傾向が強いように思います。
例えば、RCの一棟ものでガンガン資産を増やしている投資家さんが書いた本を読んで「よーし!目指せセミリタイア!」と気合いを入れているところで、次に高利回りの木造アパート投資で成果を上げている方が書いた本を読んだとします。
すると頭の中で、それぞれの投資スタイルのメリットだけが残ってしまい、
・人気が過熱しているRCマンションに、田舎の木造アパートなみの利回りを求める。
・耐用年数を超えている木造アパートでも、永続的にフルローンを狙う。
というような矛盾を抱えた投資基準を、自分の中に作ってしまうのです。
RCマンションで成功した方が、類い希なるスピードと判断力で良い物件を買い進めたことや、木造アパートで成功した方が、当初から数千万円の金融資産を持っていて、毎回3割の自己資金を入れつつ物件を増やしてきたことは、なぜか記憶から抜け落ちてしまいます。
面談に来られた方には、よく不動産投資をスポーツに例えて話をします。
不動産投資は、カテゴリーでいえば「陸上」みたいなもので、陸上の中には短距離走もあればハードルもジャンプもあり、それぞれに重要な筋肉やスキルが違います。
また、砲丸投げを極めようとすると身体が大きくなってしまい、長距離走やジャンプでトップを狙うのは難しくなります。
不動産投資でも、セルフリフォームをコツコツしながら爆発的に規模を増やすのは難しいというように似た点が多いですよね。
ですから、前回のシリーズでは、メリットやデメリットを把握して自分にできることを見極めた上で、「投資スタンス」を最初に決めるということを強調しました。
ほとんどの投資スタンスは陸上競技と同じように、複数の種目を融合させることができません。スタンス研究のつもりが、デメリットが全くない「夢の投資法」を追い求めるだけの活動にならないよう、気をつけなければいけませんね。
■衝撃的な本ほど、シビアに読もう。
「不動産本のポジティブリーディング」というタイトルのコラムですが、良いことばかりが書いてあってデメリットやリスクについて全く触れられていないという悪本は、実際のところほとんどありません。
業者がPR目的に書いたような本(こういう本は、無料のセミナーに参加してもタダでもらえたりします)でも、投資の注意点などは説明されていたりします。
強いて言えば、「あたかも自社が販売しているタイプの不動産が一番であるかのように、ほかとの比較について説明されていない」というくらいでしょうか。
むしろ、問題は読み手の方にあります。しっかり読んで内容を把握していないのです。
そして、このケースでも色んな例を知っていますが、ぼく自身の体験談をご紹介しましょう。
例えば、ぼくが不動産投資を始めた時にバイブル的な存在であった「サラリーマンでも大家さんになれる46の秘訣」という本があります。ご存じ、藤山勇司さんのデビュー作ですね。
この本には、とにかく高利回りの物件を購入する方法について書かれており、競売で安く物件を仕入れたり、職人さんを直接雇ってリフォーム費用を削減する方法などについて書かれています。
こういったノウハウは当時のぼくにとって衝撃的で、高利回り物件取得のモチベーションが激しく高まりました。
しかし、何度も熟読したつもりになっていましたが、良いところだけをチョイスして記憶していたようです。ぼくの場合は「どんな建物であっても、とてつもなく安い値段で蘇らせることができる」かのような解釈をしていました。
そして、手に負えないようなボロ物件を買ってしまいました。
確かに建材を安く仕入れたり工賃を削減したりということはできましたが、個人の職人さんでは手に負えない修繕もあるということや、建物の構造や躯体によっては直せない不具合があるということは、書籍からは読み取れませんでした。
高利回りであったので経営的には大丈夫でしたが、数年で売却益もなく手放すことになってしまったのです。大きな物件で同じ失敗をしたら、巨額の損失を出すところでした。
とはいえ、前編にも書きましたが不動産投資において書籍での勉強は不可欠です。
ぜひ、武勇伝的なものばかりでなく色々なジャンルの本をバランス良く選び、執筆時期や著者の背景にも気を配りながら。そしてどのノウハウにも良い面と悪い面があるという客観的な視点で、本を読むように心がけてください。