コラムの失敗シリーズも10回目になりました。今のところは1年間(12回)をテーマに執筆をしていますので、いよいよ終盤ですね。
さて、ぼくはコラムの冒頭で、「今月もアクセスランキングが1位になりました」というような小話を頻繁にしています。1位になってもHOME’Sさんから何かもらえるようなことはないのですが、やはり多くの方に読んでいただけたという事実は嬉しいものです。
良くも悪くも、人間(少なくとも先進国の人)は競争社会に生きており、他者と比べて優位に立とうという潜在意識が経済や社会を発展させているのは、否定しがたい事実であろうと思います。
■高属性なのに買えない!!
ぼくは満室経営新聞の発行や普段の投資相談で、いろんな境遇・属性の方のお話を伺う機会がありますが、「意外と買えない」というタイプに、年収1千万円前後のハイクラスサラリーマンの方が多いということに気がつきました。
不動産投資の世界で、いわゆる「高属性」と呼ばれる人たちですので、物件の選択肢は広いはずですし、普通の人には敷居の高い金融機関も使えます。なのに・・・。
どうしてかなぁ・・と考えてみた結果、ひとつの大きな理由にこの「選民思想」があるのではないかと思ったのです。
「選民思想」という言葉は、元々はユダヤ教徒が「我々は神様に選ばれた特別な民族だ」と信じる宗教的な思想のことをいいますが、ナチスドイツの考え方も同じでしたし、今でも過度なエリート意識を持つことをそう揶揄することがあります。
年収1千万円を稼ぐサラリーマンの方は、受験から就職活動まで、各種の競争を勝ち抜いてきた人たちですので、ある種の選民思想を持っていても不思議ではありません。
才能もあるし、努力もしているし、日本国内でいえば十分に特別な存在であると思います。
実際に、30代サラリーマンの平均年収は458万円。全給与所得者の中で1千万円を超える給与を得ている人の割合はわずか3.9%でしかありません。(いずれも平成25年の国税庁統計結果より)
この数値を見る限り、そしてご自身が感じる日常として、「年収1千万円のサラリーマンは、選ばれた人である」というのは事実でしょう。
しかし、このエリート意識が、購入物件や融資条件についての過大な要求につながり、それが満たされないことが理由で物件の購入につながらない・・・という方は想像以上に多いようです。そして、いわゆる「普通の」サラリーマンであった方に、投資規模であっさり追い抜かれていくのです。
■上位3.9%の思い込み。
しかし、統計というものは常に恣意的な見解が絡むもの。
このグラフだけを見て、「自分は上位3.9%のエリートだ」と思い込み、少なくとも上位3.9%程度の物件を買う資格があるだろうと判断するのは早計です。
まず、不動産投資をしようと志して、銀行や不動産会社にアプローチをしている人たちは、サラリーマン属性の中でも比較的上位層であることが多いです。もちろん例外はありますが、ぼくの感覚では800万円くらいが平均年収ではないでしょうか。
満室経営新聞では、購読者属性を把握するため申込時に「年収1千万円以上」である場合はチェックを入れてもらう仕組みになっています。
なんと驚くことに、全体の20%近くがこの項目にチェックを入れています。
従って、年収1千万円の給与収入を得ている人でも、この時点で既に「上位3.9%」ではなく、上位2割くらいのステイタスでしかないことが分かります。
さらに、金融機関や不動産会社が重視する項目は、年収だけではありません。自己資金(金融資産)というのも大切な要素ですよね。
ここで、金融資産において「上位3.9%」というのがどのあたりなのかを、統計から確認してみましょう。
総務省統計局のサイトから転載したグラフですが、これによると4千万円の金融資産を持っていても、上位1割には入れないということが分かります。平均でさえ1798万円ということで、1千万円の給与所得を得ている方でも保有している金融資産は平均以下という場合も多いのではないでしょうか。
金融資産には株式などの有価証券も含まれますし、高額な財産を相続する人もいます。「お金を持っている人」というのは、思っている以上に多いものなのです。
■上には上がいる。
年収1千万円を稼ぎ、同額程度の自己資金を保有するサラリーマンであっても、「不動産投資に取り組んでいる人」としては、せいぜい上位2割程度。金融資産も含めて考えれば、せいぜい「上の方かな」という程度であることが分かります。
「自分は、周りの人よりも優れた人でいたい」「その他大勢として扱われたくない」という考え方は、人生を向上させていく上ではプラスになることもありますが、不動産投資の世界に足を踏み入れようとする時には、少し我慢をすることをお薦めします。
こういった選民思想を持っている方が好んで取引しようとするメガバンクには、とんでもないレベルの富裕層も顧客でしょうし、そういった銀行での融資付けを得意にしている不動産会社にも、いわゆる億万長者レベルの見込み客や既存客を持っています。ご自身で思っているほど、特別扱いされるような理由もないのです。
条件を満たした物件が全く紹介されない・・という悩みを持っている方は、そういった状況を客観的に把握できずに過大な購入基準をアピールし続けており、ちょっと痛いお客さんになっているのかもしれませんね。
※「メガバンクで金利が1%を切りました!諸費用まで融資を受けて手出しゼロ!」といような成果のお披露目(まあ、自慢半分ですが 笑)をされている投資家さんは、普通に1億円くらいのお金を持っているものです。お金を持っているということ自体を披露すると、さすがに嫌味っぽいので控えているだけです。