改めましてこんにちは。寺尾恵介です。
少しお休みをいただいておりましたが、新しいシリーズとして「不動産投資の事業化」について、10回くらいでお話させていただこうと思います。
近年、不動産投資家の中には大規模化する方も増えてきて、「メガ大家」という言葉も一般化しました。現在の融資情勢と不動産相場を考えると、まだまだ規模を増やしやすい環境にあると思います。
しかし、事業化についての知識があって順調に規模を伸ばしている投資家さんがいる一方で、サラリーマンとして数億円の購入をしたあとはパタッと規模拡大がストップしてしまい、何年も購入ができずに苦しんでいるような方もいらっしゃるようです。
◆お金を借りるのは、簡単ではない。
最初にお伝えしておきたいのは、タイトルにもあるように「サラリーマン投資家というのは、極めて特殊である」ことについて理解しなければならないということです。
このコラムをお読みの方のほとんどは、どこかの会社にお勤めで不動産投資に興味がある(または実践されている)と思いますが、そういう方の日常で聞く融資の話というのは「アパートローンで収益不動産を買った」というものか、「住宅ローンで自宅を買った」という話のどちらかです。
どちらも、金融機関が決めた基準に沿っていれば割と簡単にお金を借りることができるので、融資そのものについて安易なイメージを持ちやすいのではないかと思います。
しかし本来、お金を借りるというのは本当に大変なことです。
ぼくはソフトバンクの孫正義さんを(事業家としては)非常に尊敬していて、関連する書籍を何冊も読んでいるのですが、そういった本の中に必ずといっていいほど「実績のなかった創業時代に、第一勧業銀行(当時)から1億円の融資を引き出した」というエピソードが紹介されています。
支店長をその気にさせてしまう情熱と、当時から大企業だったシャープの役員から推薦をもらって・・という逸話が書かれているのですが、それでも融資金額は1億円です。既にこれ以上の借入がある読者さんもいらっしゃるでしょう。
しかし、これがお金を借りたり貸したりする「普通の」感覚なのです。創業間もない事業者が1億円ものお金を借りるのは本当に大変なことなのです。
◆実はこんなに狭い「サラリーマン投資家」への融資。
ぼくがやっている「投資家チャレンジ面談 http://toushika-keichan.com/charenge/ 」には、サラリーマンではない自営業者さんもいらっしゃいます。
そういった方に対してはびっくりするほど金融機関の目は厳しく、1千万円以上の役員報酬を取っていながら、年収だけみると半分くらいしかないサラリーマンの方よりも、融資に苦戦することが多いです。
ではなぜ、「サラリーマン投資家」にだけ金融機関は極端に有利な融資をするのかというと、それは「過去の実績から見て、金融機関が安全だと思われる基準に沿っているから」です。
サラリーマン投資家さん向けのアパートローンが、どのような観点で安全だと判断されているかについて説明しますと、
人物
購入後の運営が上手にできるかどうかは関係なく、勤務先と勤続年数、年収とその安定性のみで判断する。安定した給与収入は何よりも手堅い返済原資になるし、事業者のように家賃収入が本業に流用されることもない。従って購入する物件は、「誰が運営しても同じような結果になる」確率の高いものが推奨される。
物件種別
賃料や入居が安定しているという点で、基本的に住居系のみが対象となる。店舗や事務所の割合が基準以上を占めている物件は対象外。
築年数
法定耐用年数を超えているような物件は、修繕費が嵩んで「誰が運営しても同じような結果」にならないので対象外。
エリア
どの金融機関も、「県庁所在地や、それに準ずる都市」「人口●万人以上の自治体」などの基準を設けている。金融機関の経験上「誰が運営しても同じような結果」になるエリアを融資対象としている。
入居率
購入者はサラリーマン投資家であり、賃貸経営の手腕は審査対象ではないため、審査時点で基準以上の入居率が継続されていることが必須であるか、現在の入居率(もちろん掛け目が入る)で返済ができる範囲内での融資となる。
こうやって見ると、実はサラリーマン投資家さん向けの融資というのは、極めて限られた条件のもとに成立しているということが分かります。
当然、このような借りやすい物件には人気が集中し、価格が上がって利回りが下がることになるのです。
とはいえ、サラリーマン投資家の審査基準を外れて融資を受けようとすると、それは「実績のない事業者」としての融資になりますから、先述した孫正義さんの事例のように、1億円を借り入れるだけで後世に語り継がれるほどハードルが上がります。
◆有利なフィールドで勝負。
サラリーマン投資家への融資は非常に条件が限られているものの、その条件を満たしさえすれば、事業経験を問わず極めて借りやすいということがご理解いただけたと思います。
高い利回りは望みにくくなりますが、サラリーマン投資家の戦略としてはそのルールに則って購入していくのが、最速で規模を増やすルートであることは間違いありません。
借りやすい条件というのが分かっているのに、その条件から外れて事業者としての融資を受けようとするのは得策とは思えません。
逆に、サラリーマン投資家としてのステージを卒業しているにも関わらず、ずっと事業者になりきれずにいるもの考えものです。
エリアも手堅く、耐用年数もしっかり残っていて入居率も良いような物件は、サラリーマン投資家との取り合いになってしまいますので、やはり事業者としての強みを発揮できる購入方法を選んでいくべきでしょう。
次回のコラムでは、「賃貸経営における事業者」とはどういうものなのかについてお話したいと思います。
お楽しみに。