横浜に住むようになって12年目になります。
日本を代表する大都会であり、政令指定都市の中でダントツの人口を誇る横浜市ですが、地元の投資家さんの間ではアパートの空室が非常に多いエリアとして知られています。それも、本来であれば入居付けが容易なはずの新築のアパートでそれが顕著なのです。
実際に、この原稿を書いている時点で検索をしてみたところ、LIFULL HOME’Sのサイトで横浜市の新築アパート・マンションの募集が1,204件もありました。
しかも、建築から半年近くが経過しているにも関わらず、ほぼ全戸がいまだに募集中というアパートも目立ちます。
これだけ空室が続くようだと、新築どうしの競争も激化してくるはずですので、成約時の広告料相場も上がってきます。
安定した稼働と低廉な運営コストに魅力を感じて、新築アパートという投資スタンスを選択したはずなのに、これではオーナーも報われません。
なぜ、このような現象が起こっているのでしょうか。
■ジャンク新築の特徴
このように空室が続いている新築アパートは、ぼくが「ジャンク新築」と呼んでいるタイプがほとんどです。
名の知れている会社がインパクトのある味付けで提供しているジャンクフードとよく似た性質があるのでそう呼んでいるのですが、このジャンク新築をよく見ていくことで、今の不動産投資業界が抱える問題の多くが浮き彫りになります。
まず、ジャンク新築の特徴としては
1.分かりやすい地名に建築されている
2.利回りが高い
の2点です。
エリアも利回りも良いのだから悪いものではないような気がしますが、実際にはなかなか空室が埋まらず、オーナーの多くが苦しんでいます。
■ジャンク新築のリスク①:立地
こういった種類の新築は、地名こそ聞こえの良い場所に建築されていますが、実は名の知れていないエリアよりも賃貸需要が少なかったりします。
例えば「横浜市」というと誰でも知っている都市ではありますが、横浜市といっても意外と広く(大阪市の2倍近くあります)、当然ながら需給環境にも濃淡があります。
例えば、他県の人から見た横浜のイメージというと「中華街」「横浜ランドマークタワー」「横浜ベイブリッジ」「三渓園」「山下公園」「横浜スタジアム」「赤レンガ倉庫」あたりかと思いますが、実はこれらの施設は全て「横浜市中区」に集中しています。
地図で見ても、広い横浜市のごく一部でしかありませんね。
横浜といっても、あとは横浜駅(西区)や八景島シーパラダイス(金沢区)のような例外を除けば、ほとんどは普通の住宅街であり、賃貸ニーズも家賃相場も特別に高いということはありません。
また、これは実際に行ってみると分かりますが、横浜という場所は非常に坂と斜面の多いところです。こういった斜面にも新築のアパートはたくさん建築されていますが、もちろん平地にあるアパートに比べて競争力は落ちます。
新築アパートを販売する会社は、他県の人たちに横浜のごく一部でしかないこんな感じのイメージを持たせておいて
(横浜市役所のホームページより)
「駅から遠くても大丈夫です」
「長い石段を登るので、自転車も通れないけど大丈夫です」
「なぜなら、横浜だから」
というセールストークで横浜郊外のアパートを売っていくのです。
■ジャンク新築のリスク②:無理のある利回り
不動産投資において、利回りは最重要指標のひとつであることは間違いありません。
利回りが高いこと自体は良いことですが、横浜のように地価の高いところは一般的に、地価が低いエリアと比べて高い利回りを出しづらいことが多いです。
これは、地価の差ほど家賃には差が出ないことが理由ですが、こういったジャンク新築ではぱっと見で「あ、なかなか良い利回りだな」と思えるくらいの水準を出していることも特徴です。
なぜ比較的高い利回りが出せているかというと、駅から遠くて坂の上などの地価が低めのところに建築されているというのもありますが、1部屋を非常に狭く作って単位面積あたりの賃料を上げているからでもあります。(住宅に関わらず、「場所貸し」のビジネスにおいては部屋の広さと賃料は比例しません。狭い方が収益率は高くなります)
また、このような新築アパートは建築前や建築途中で売買契約を締結することが多いので、販売時に想定されている家賃で実際に埋まるかどうかは分かりません。
売る側としては、利回りを高く見せればそれだけ売りやすくなるので、想定賃料をかなり高めに設定したくなる訳ですが、冒頭で紹介したような建築後半年も経過してもまだ空室がたくさんあるようなアパートは、そもそも家賃が高すぎるので埋まらないのです。
販売資料の想定家賃をちょっと修正するだけで、利回りと売値がガラッと変わってしまうのは、まさに新築マジック。根拠のない数値を信用してはいけません。
ちなみに、新築なのに敷礼ゼロ、フリーレントも付けて広告料を弾めば、適正賃料の2割増しくらいで入居を決めることも可能です。しかし、ひとたび退去が出れば家賃の大幅下落は避けられません。
■ニーズがあるから売れている
昨今のブームによって不動産投資を非常に安易なものとして考える人が増えました。
極端にいうと
・業者さん任せで自分は何もしなくて良い
・自分のお金もほとんど使う必要がない
・それでいて、毎月安定した収益を得ることができる
という感覚で、不動産についての勉強をあまりしていません。
不動産会社が主催する無料のセミナーの多くは、「会社のプレゼン」であって勉強とは違うものなのですが、その違いも理解されていない人が多いようです。
世の中には、ファストフードに代表されるようなジャンクフードは人気があり、お店もたくさんあります。身体に良いとされるオーガニック食品や、無添加レストランよりも遙かにお店の数は多いです。
これは、世の中の多くの人たちが(健康面でリスクがあっても)刺激的で安価な食べ物を求めているからです。そして食べ物や健康についての知識に乏しい人ほど、こういったジャンクフードを好む傾向があります。
同じように新築アパートを求める人たちも、長期的な経営安定よりも「ぱっと見の立地や利回り」を重視しています。
「需給関係が非常に安定しているけど、聞いたことがない」場所よりも、聴き触りの良い場所を好みますし、手堅い家賃設定と競争力のある間取りから得られる利回りよりも、「(実現性は乏しいけれど)8%超え」という表記に魅力を感じる訳です。
もちろんこれは、ジャンクフードと同じく知識不足が原因であることが多いのですが、ジャンクフードもジャンク新築も、ニーズがあるから売れているのです。
責められるべきは作り手や売り手よりも、むしろ無知な買い手の方でしょう。
ただ、ジャンクフードがどれだけ出回っても自分で買って食べなければ影響がないのに対し、ジャンク新築がたくさん売れすぎるとエリアの需給環境や家賃相場が悪化して、健全なアパート経営をしている人にも悪い影響が出ます。
悪いアパートに魅力を感じる人が少しでも減るといいのですが。