このコラムは「誌上チャレンジ面談」というタイトルで連載をしていますが、実際にぼくに相談に来られる本当のチャレンジ面談では、日々いろいろな相談を受けており、それがコラムや講演の題材になることも多いです。
これまでに何百人かの方から相談を受け、ぼく自身の「相談スキル」もかなり上達したとは思いますが、時には相談に来られた方の偏った(または間違った)考えを正すが難しいようなこともあります。
特に物件や投資指標の分析については、前提としてある程度の会計についての知識が必要であることも多く、そういった知識がない方にとっては説明が理解しづらいのです。
かくいう自分も最初は決算書をきちんと読むこともできず、投資について間違った考え方をしていました。そこで今回は「決算書を理解することで変わる不動産投資の考え方」についてお話をしてみたいと思います。
決算書とは?
ちなみに、決算書についての知識がないからといって、書店で売っているような「決算書の読み方」などの本を買って勉強する必要はありません。まったく経験のないスポーツの解説本を読んでも意味が分からないのと同様に、会計は経験を伴わない知識の習得が難しい分野です。
それよりも、自分で不動産の収支を会計ソフトに入力して(個人で購入している場合でも法人に見立てて)決算書を出力してみましょう。その数字の流れをしっかり読み取ることで、一通りのことは理解できるようになります。
未経験の方向けに簡単な説明をさせていただくと、決算書は主に「貸借対照表(バランスシート B/S)」と「損益計算書 (プロフィット&ロス P/L)」で構成されています。
損益計算書は、一定期間におけるお金の「流れ」を示したもので、家計簿を月次や年次でまとめたようなものに近いです。一方、貸借対照表は現時点での資産と負債をまとめたものです。
キャッシュフローは決算書と関係ない
決算書を知ることで起こる変化のひとつは「キャッシュフロー」についてです。
不動産から生まれている余剰金は、まさに「収入が増えた」と実感させてくれるものであり、不動産を持っている満足感にもつながります。
また、修繕やトラブルなど不測の事態に備えるためにも一定規模のキャッシュフローは必須であり、基本的にキャッシュフローが生まれない投資はすべきではありません。
しかし、キャッシュフローは決算書上、ほとんど意味がありません。
あってもなくても、決算書は大して変わらないのです。
例えば月に10万円の収入がある不動産を1千万円の借入で購入したとしましょう。
金利は元利均等の2%とします。
返済が長めの30年だった場合、毎月の返済額は36,961円ですからキャッシュフローの月額は63,039円です。これが短めの10年返済になると月の返済額はぐっと増えて92,013円。キャッシュフローは7,987円しか残りません。
この2つの事例が決算書上でどう反映されるかを見てみます。まずは損益計算書から。
【30年返済の場合】
収入 100,000円
支払利息 16,666円
利益 83,334円
【10年返済の場合】
収入 100,000円
支払利息 16,541円
利益 83,459円
支払い利息のみを経費算入するので、利益の額はほとんど変わりません。返済が進んでくると短期返済の利息割合がどんどん減っていくので、損益計算書上の利益は短期返済のケースの方が多くなります。
そしてキャッシュフローという指標は・・・どこにも出てこないのです。
次に1年経過時の貸借対照表を見てみましょう。分かりやすくするために、建物の減価償却は計算しないことにします。
【30年返済の場合】
資産:現預金 756,468円(※キャッシュフローの12ヶ月分)
土地と建物 10,000,000円
負債:長期借入金9,754,212円
純資産(資本)1,002,256円
【10年返済の場合】
資産:現預金 95,844円(※キャッシュフローの12ヶ月分)
土地と建物 10,000,000円
負債:長期借入金 9,087,504円
純資産(資本) 1,008,340円
短期返済の場合はキャッシュフローが少ない分そのまま元金の返済が多くなるので、利息が少ない分だけ純資産の増え方は大きくなります。
1年だと分かりづらいので、10年後でも見てみましょう。片方は返済が終わっています。
【30年返済の場合】
資産:現預金 7,564,680円(キャッシュフローの120ヶ月分)
土地と建物 10,000,000円
負債:長期借入金 7,306,417円
純資産(資本) 10,258,263円
【10年返済の場合】
資産:現預金 958,440円(キャッシュフローの120ヶ月分)
土地と建物 10,000,000円
負債 なし
純資産(資本) 10,958,440円
このように、貸借対照表上でもキャッシュフローはほとんど影響がないことが分かります。
むしろ、銀行が重視している「自己資本比率」でいうと残債のない後者が圧倒的に優れており、
次の融資が受けやすくなると思われます。
本能を決算書が修正してくれる
上述したようにキャッシュフローが生まれない投資は危険ですが、返済年数を必要以上に延ばしてキャッシュフローを増加させても意味がないだけでなく、利息負担を増やし無駄づかいを助長する(手元にお金があるので)ことにもつながります。
手元の現預金が増えることは、誰もが「資産が増えた」と思えますが、元金を返済することを「純資産が増えた」と満足できる人は多くありません。逆に「支出した。お金が減った」と感じることがほとんどでしょう。
そういった本能的な思考を、決算書の知識が修正してくれるのです。
物件や融資条件を選択する際には、現預金にだけとらわれた偏った判断ではなく、決算書上の利益や資産増減がどうなるのかで決めていくべきかと思います。
想定していたより融資期間が延びずキャッシュフローが少ない場合でも、物件自体が良いものであれば積極的に購入しましょう。
次回は後編として、自己資金の拠出や売却時について説明する予定です。