「リタイア」という言葉は、20年くらい前まではマラソンやF1などでレースを中断するような時しか使われませんでしたが、ロバート・キヨサキさんの書籍「金持ち父さんシリーズ」が出てからは、むしろプラスのニュアンスで使われることが多くなりました。
特に、不動産投資では有名な投資家の方が「サラリーマンが不動産投資でリタイアする会」というコンサルティンググループを運営していたこともあり、ひとつの成功の形として多くの投資家さんが目標とする輝かしい地位を確立しています。
一般的には、家賃からのキャッシュフローが給与や生活に必要な金額を上回り、会社員を卒業することを「リタイア」と呼んでいるようです。
このリタイアについては話したいことが多くありますが、今日は「これからの不動産リタイア」の方法論について書いてみようと思います。
ルートが決まっている時代
2003~2018年までの15年間は、リタイアのためのルートがほぼ決まっていました。決まっているというよりは「ルートがきちんと整備されていた」というほうが適切かもしれません。
具体的には、以下のようなステップで給与レベルのキャッシュフローを獲得するというものです。
1.積算の出ている、できるだけ築浅のRC一棟ものを買う
2.基本はフルローン。極力自己資金を使わず買い進める
3.融資枠を使い切る段階では、信用情報に借入歴が記録される前に複数棟を一気に買う
4.4~7億円くらいの不動産を買ってリタイア
この手法が通用していた時代は、「サラリーマン向けに一定の金額まで融資をする金融機関」が常にあり、評価さえ出ていればフルローンも出る時代でした。
また、銀行が求める金融資産の基準はかなり緩く、貯金が少なくてもある程度は買えました。
しかし、時代の流れもあり、かぼちゃの馬車のような事件もあり、制度を悪用した業者が各種のインチキをするようになったことから、上記のような「サラリーマン向け特別優遇制度」のようなものが各行とも縮小・廃止されていきます。
ルートが決まっていない時代
積算さえ出ていれば、その他の要素(経験、自己資金、銀行との取引実績など)がイマイチでも融資が出るという時代は、今では完全に終わっていると思われます。
これは短期間でポンポン買ってリタイアしようという人には、もちろん強い向かい風となってしまう環境変化ですが、全てがマイナスということでもありません。自分のツイッターでも、下記のようなことを発言しているのですが、
今は「こういう物件をこの金融機関を使って買い進めばリタイアできる」という確定ルートがないので
・中古高利回りアパートを公庫で買う
・決算の実績を作って、保証協会付きの融資を受ける
・B/Sを良くして優良先になるという流れ。サラリーマン投資家ではなく最初から一般企業として挑むのが良い
— 投資家けーちゃん (@toushikakeichan) January 29, 2020
2018年頃までの良い時代であっても、サラリーマン投資家には「年収の●倍まで」というような融資額の枠がありました。
年収の高い人はもちろん多く借りられるのですが、仮に年収2千万円の人(ほとんどいない)が、その30倍まで(これもほとんどない)借りられたとしても、融資総額は6億円です。
いわゆる「メガ大家」になるのは、以前からサラリーマン向けの融資だけを使っていたのでは無理でした。だから、その規模を目指すためにはどこかの段階で「事業者」に転身して賃貸業に取り組む必要があり、その時期が早まっただけとも言えます。
最初から事業者として取り組むメリット
何事にも、メリットとデメリットがあります。
最初から事業者として取り組むデメリットはもちろん「自己資金をきっちり用意しなければならない」「拡大スピードが遅い」といったところですが、実はメリットもたくさんあります。
一番大きいのは「購入物件の種別が割と自由に選べる」というものでしょう。
かつてのフルローン投資の定番である、積算の出る中古RCは「割と地方にある」「維持費が高い」といった難点がありました。大規模修繕なんかしていたら絶対儲からないので、致命的な劣化の前に売り逃げるのがセオリーだったりします。
規模が大きくなる分、失敗したときの経済的リスクも尋常ではなく、実際に破産に近い状態に陥った人もいるでしょう。
しかし、事業者として取り組む場合、積算は銀行にとって「割と大事な物件評価の指標のひとつ」くらいの位置づけで絶対視されていません。
積算が出ないような都市部の物件をたくさん保有している投資家さんもいますし、ぼく自身も「与信を毀損するから買ってはならない」と言われていた区分マンションを数多く所有しています。
積算評価の正体
積算の話が出ましたので、最後の融資審査における積算の位置づけについて説明をしておきます。
金融機関は、物件の積算をはじめとした担保評価を見る前に、「借主がどういう人(または会社)であるか」を審査します。
そしてその次に、今回融資を申し込んでいる事業がきちんと利益を生むものか。貸したお金をしっかり返済できる水準であるか。返済年数までの永続性に問題がないかも確認します。
人や会社、そして事業性の審査を経て、さらに「金融機関の予想が外れて事業が立ちゆかなくなった場合、その物件を売却することで貸金の回収ができるか」を調べます。ここで初めて「物件の担保評価や積算」が登場するのです。
サラリーマン投資家にとって、物件購入の絶対的な指標であった積算も、実はそこまで重要な評価という訳ではありません。世の中には積算以下で売られている不動産がほとんどないことからも、そのことが分かると思います。
積算がでなくても、「購入するにふさわしい人」が買うのなら、ちゃんと融資がつくということです。
今の時代は「サラリーマン大家」時代をなるべく早めに終わらせ、早めに「事業者」として金融機関に認められるようになるのが得策です。事業化については過去のコラムでしっかり説明していますので、ぜひ参考にしてください。
そして、偏った物件種別ではなく自分の得意分野で規模を拡大していくことが、経済的自由=リタイアへの早道ではないでしょうか。