猪俣 淳の不動産投資コラム

シリーズ連載: 猪俣淳の「不動産投資の正体」

LIFULL HOME'S 不動産投資コラム

出口戦略の必要性と判断の仕方について

不動産投資を行っていくうえで、売却(出口戦略)を想定しない投資家は少なくない。
それはしばしば「金の卵を産む鶏」の寓話に例えられる。欲をかいて金の卵を産む鶏を殺してしまうことは愚かなことであると。しかし、この例えには欠陥がある。それは、その鶏が唯一無二の存在であるという前提としているからである。金の卵を産む鶏の市場が整備され、年老いて卵を週に一度しか生まなくなった鶏を売ることによって、そしていくつか残しておいた金の卵を現物で上乗せすることにより、若く毎日金の卵を生んでくれる鶏を2羽買うことができるのであれば、その選択はより優れたものとなるであろうことは想像に難くない。
また、出口を想定しない限りはその投資のパフォーマンスを測ることができない。

仮に1,000万円の自己資金(Eq)で購入した収益物件が年間100万円のキャッシュフロー(CF)を生むのであれば、その投資効率(CCR)は10%(CF÷Eq)となる。10年間これを保有すれば1000万円の自己資金は回収できるように見えるが、仮に10年後にこれを手放すときに、融資残高と売却価格の差額などの要素によって持ち出しが1000万円発生するということになれば、それは最初に支払った投資資金を回収し、差し引きゼロにするためにさらに10年間の運用を、修繕や空室と闘いながらすすめていくということになる。更に、それが価格の付かない(場合によってはタダでも引き取り手がいない物件というものも存在する)流動性の低い不動産であれば文字通り出口のない投資と一生付き合うことになりかねない。「それでも売らなければ損失は顕在化しないから良い」という意見もあろう。しかし、最初の入口の段階でそうならない投資を選択するという努力を惜しまなければ、あえて苦難の道を選ばずに済むともいえる。
投資は投資であって、修行ではない。

出口戦略を含めた投資を考えるうえでの重要な要素はNPV(正味現在価値)とIRR(内部収益率)の二つ。
前者は、投資家自身が求める投資パフォーマンス(割引率)に対してその投資の価値がどの位高いのか安いのかという判断を与えてくれる。
そして、後者は①初期投資額(Eq)と②保有期間中のキャッシュフロー(CF)と③投資の出口で入る売却手取りを、それぞれ入金されるタイミングを、投資の開始時の価値に割り戻した(お金の価値は年を経るたび低下していく。今この時の現金は、投資・運用することもできるし、本当に入るかどうかといった不確定性がある未来のお金よりも価値が高いと考えられる)場合、すべてのCFと売却手取り金の合計が最初のEqと同額になる「割引率」をIRRと定義され、投資の本当の姿を明らかにする。

この投資判断をするうえで、出口が取れるか、幾らで売れるかということが全体の投資パフォーマンスを大きく左右する。好況期・不況期など市場の動きは出口戦略にどのように影響を与えるのであろうか。
投資物件の価値(V)を決定するのはNOI(営業純利益)とR(キャップレート=資本化率)である。V=NOI÷R・・・・(DC(直接還元)法)という公式で表されるが、Rの構成要素を細分化するとrf(リスクフリーレート=主に長期国債利回り)+rp(地域や物件ごとのリスクプレミアム)-g(NOIの成長率)となるが、好況期にはrpが減少し、gが増加するため分母であるRを押し下げる。従って結果として物件価値(V)を押し上げる結果となる。インフレが進捗し分子であるNOIを押し上げることになれば更にその効果は大きくなる。そして不況期には逆の動きを見せる。好況時には不動産価格が上昇するというのは、こういった仕組みになっている。

では、投資家はその時にどういった判断をするか。
好況時には「まだまだ値上がりするかもしれないから様子を見よう」、不況期には「今売ると安いから、景気が持ち直すのを待とう」・・・多くの場合、「何もしないで現状維持」という判断になる場合が多い。好況期には売値は高いが、買い替える物件も高い、不況期には売値は安いが買い替える物件も安いというジレンマも無視できない。この場合、市場の動きが都市の中心部から周辺部へと波及する市場の特徴を捉え買替するエリアとタイミングを考えながら売却と購入を組み合わせることで解決する場合が多い。

一方、投資内部の変化による出口戦略は比較的市場環境からの影響を受けない。例えば、適切な運用や資本改善によってNOIの上昇、リスクプレミアムの低下を実現できるならば主体的に物件価値を上げることができる。そして、投資家自身で出口をとるかどうかの判断を行うことができる。

仮に自己資金1000万円、借入4000万円で合計5000万円の投資を行った場合を考えよう。NOIは300万円、ADS(年間ローン返済)は200万円、キャッシュフローは100万円とする。この場合、投資家は初期の自己資金を年間10%で運用することになる(CF÷Eq=CCR)。

数年後、NOIも物件価値も変わらず、一方ローン残債は当初の半分の2000万円になった場合、売却経費・譲渡税など勘案しなければ売却手取りは3000万円となる。このまま保有し続けるのであれば、この時点での投資効率は100万円÷3000万円=3.3%ということである。この投資の初期段階と同様の10%で運用できる投資に入れ替えるならば、CFは100万円ではなく300万円。100万円のCFを得続けるために、1000万円を新たな投資に充てて残りの2000万円は別の投資の借入返済に充てたり、金融資産に振り替えたりと選択肢も広がる。

ここで重要なポイントは、売却した場合の手取り金額(Eq)と保有し続けた場合のCFの関係である。物件価格が上昇するということはEqを増加し、自己資本の投資利回りを低下させる。価格の下落はEqを減少させ利回りを上昇させる。この変化は賃料の増減、空室率の増減、残債の減少など様々な要因によって影響を受ける。

NOIを上昇させる資本改善にかかる投資行為なども含めこの二つの数字をもとに投資判断を行っていくことが出口戦略の本質ともいえよう。

【このコラムの著者】

猪俣 淳

猪俣 淳(いのまた きよし)1961年生れ横須賀市出身
株式会社アセットビルド 代表取締役

不動産・建築分野で30年以上働き、不動産管理・不動産売買・建築・投資・金融・保険の各分野における29の資格を持ち、みずからも収益物件の購入・売却・運営・資本改善を行う実践不動産投資家。
著書に「不動産投資の正体」「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)など多数。
新聞・雑誌への寄稿(ビジネス専門誌・一般週刊誌・海外も含む業界誌)、年間70件を超える全国での講演活動、ラジオ・TVなどへの出演もある。
また、IREM-JAPAN(米国不動産管理協会日本支部)の理事を兼任し、日本で数人のファカルティ(講師)資格を持つ。
ブログ「不動産投資にまつわる100の話」(人気ブログランキング最高位1位)。

保有資格
<不動産系>
宅地建物取引士/不動産コンサルティングマスター/不動産アナリスト/ハウジングライフプランナー
<不動産投資系>
CCIM認定商業不動産投資顧問/不動産証券化マスター/米国不動産投資マスター/米国不動産投資コンサルタント
<建築系>
一級建築士/震災建築物応急危険度判定士/既存住宅状況調査技術者/住宅メンテナンス診断士/住宅インスペクター/住環境測定士補
<不動産管理系>
CPM認定不動産経営管理士/CPM公式セミナー講師(メンテナンス及びマーケティング)/ CPM MPSA試験採点官/賃貸不動産経営管理士/管理業務主任者/賃貸住宅査定申請主任者/防火管理者
<金融系>
ファイナンシャルプランナー/ FP技能士/貸金業務取扱主任者
<保険系>
損害保険リテール資格/生命保険募集人資格
<相続系>
相続対策専門士/相続アドバイザー/事業承継スペシャリスト

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