猪俣 淳の不動産投資コラム

シリーズ連載: 猪俣淳の「不動産投資の正体」

LIFULL HOME'S 不動産投資コラム

収益物件特有の物件調査3

6.投資適格性

投資分析の基本的な考え方と手順を以下に示す。

(1)総投資額の算出(物件価格+取得経費+修繕等の初期費用)を行う。
取得経費には仲介手数料・登録免許税・不動産取得税・印紙税・ローン借入に伴う事務手数料や保証料などが含まれる。また、老朽化や陳腐化などにより引渡後すぐに更新が必要な設備や躯体などに関するコストも含める。

(2)投資の中身を自己資金(Eq)とローン借入(LB)に仕分ける。
これは、投資の効率性および安全性を分析するうえで必要となる。なお、既所有地にアパートなどの建築投資をする場合は、その土地を仮に売却した場合、売却経費・譲渡所得税・ローン残債などを差し引いたのち手元に残る現金相当額をEqとして計上する。

(3)現況賃料ではなく、「相場」賃料で貸した場合の満室年間賃料収入(GPI)の算出を行う。
長期入居者などは、現在の賃料相場以上で契約をしている場合が多いため、入居者が全て入れ替わり再募集をかけた場合の賃料をもとに投資計画を行う。現況が老朽化・陳腐化しており、適切な資本改善を行うことによって賃料設定が改善されると予想される場合は、資本改善費用を(1)の初期費用に計上したうえで改善後の賃料で想定することも可能。現状維持の場合と比較することによって、資本改善の投資判断を行うこともできる。

(4)空室損の見積もりを行う。
総務省が行う全国調査(統計局住宅・土地調査)や個別の現地調査も含め、一般的には空室数÷総戸数という計算式によって空室率を求める。ただし、この方法は調査時点以外の空室・成約の動きが反映されない欠点をもつ。また、同一地域においても間取り・面積・賃料・維持管理状態などによって差があるが、マクロデータではこのあたりも反映されない。信頼性のある見積もりを行う最良の方法は、当該物件のトラックレコード(運営記録)により各部屋の空室期間を把握し、全体の運営期間で除すことである。仮に、10室の物件のうち2室が、それぞれ3か月間空室になったということであれば、(2室×3カ月)÷(10室×12か月)=空室率5%ということである。先の一般的な空室調査では2室同時に空いている時期に調査を行うと、その時点での空室率は2室÷10室=20%と計算されてしまう。トラックレコードが無い場合は、「年間解約率×空室期間見込み÷総運営期間」という計算で近似値を取ることができる。物件タイプごとの年間解約率及び空室期間見込みは近隣不動産会社へのヒアリングである程度のデータとおよその感触を得ることができる。

(5)滞納未収損の見積もりを行う。
賃料価格帯や入居者層によって大きくかわるので、過去の履歴を売主から入手する。

(6)駐車場収入等の雑収入の見積もりを行う。
ほかに携帯電話基地局アンテナ・自動販売機・広告看板収入など、家賃以外に入る収入を洗い出す。現在収入が無い場合でも、運営を引き継いだあとに新たに収入を生み出すスペースや方法がないかを検討する。

(7)固定資産税・賃貸管理費・保守補修費・消防点検・清掃・水光熱費・募集広告料などの「運営費(Opex)」の見積もりをする。
公課証明や支払請求書・領収書、メンテナンス契約書などから数字を把握する。また、入居者募集時に不動産会社へ支払う手数料は家賃の何か月分が相場かといったヒアリングも必要。

(8)ローン借入額・期間・金利・返済方法から年間返済額(ADS)を算出する。
築年数や構造、資産背景などで金融機関ごとにそれぞれの条件が異なるので、情報収集を行い、投資家とその投資物件に最適な金融機関を把握する。年間返済額の算出はエクセル関数(PMT関数)や金融電卓、金融機関のHP上のフリーソフトで行うことができる。

(9)所得税・住民税・事業税(Tax)の計算を行う。
減価償却費・金利支払い・青色申告特別控除・専従者給与などの要素に注意しながら納税額を算出する。

(10)ここまでの作業を済ませた後、以下の式に基づいて「見積財務諸表(キャッシュフロー・ツリー)」の作成を行う。

GPI
-)空室損・未収損
+)雑収入
-)Opex
=)NOI(営業純利益)
-)ADS
=)BTCF(税引前キャッシュフロー)
-)Tax
=)ATCF(税引後キャッシュフロー)
収益性判断
①K%=ADS÷LB・・・借入金に対し幾らの元利金返済が生じるかという負担の割合
②FCR=NOI÷(Eq+LB)・・・総投資額の正味の利回り
③ATCCR=ATCF÷Eq・・・投資した自己資金の税引後利回り
④キャップレート=NOI÷物件価格・・・物件の正味の利回り

・K%<FCR<ATCCRのとき、「正のレバレッジ」となる。従って、物件自体の利回りよりも高い利回りで自己資金を投資することができる。また、借入の割合が大きくなるほどその効果が大きくなる。
・ATCCRは自己資金の利回りを示すので、これを他の投資と比較判断する。
・キャップレートが、他の投資物件と比較して適正であるかを不動産投資家調査などを参考に判断する。

安全性判断
⑤ DCR=NOI÷ADS・・・・ローン返済の安全率。一般的には1.3以上が望ましい
⑥ BE%=(ADS+Opex)÷GPI・・・損益分岐点。一般的には70%以下が望ましい
⑦ LTV=LB÷物件価格・・・ローン資産価値比率。一般的には80%程度。

そのほか、物件運営中のキャッシュフローと売却時の残債・経費及び譲渡所得税差引後の手取り金を、想定保有期間に応じて割引計算する「内部収益率=IRR」、「正味現在価値=NPV」といったDCF法を使い、総合的な投資判断を行う。

7.自分自身のニーズに合った物件なのかという判断

これら、分析手法はあくまでも投資判断を行う上でのモノサシであり、実際は投資家自身が求める目標・目的・タイミング、あるいは様々な背景によって投資が採用される。また、同じ収益物件であっても資本改善の実施の有無、融資の内容、保有期間の長短などによって投資の内容が変化する。
状況や希望をよく把握したうえで物件選定をふくめ、複数の選択肢を代替案として検討することが求められる。

【このコラムの著者】

猪俣 淳

猪俣 淳(いのまた きよし)1961年生れ横須賀市出身
株式会社アセットビルド 代表取締役

不動産・建築分野で30年以上働き、不動産管理・不動産売買・建築・投資・金融・保険の各分野における26の資格を持ち、みずからも収益物件の購入・売却・運営・資本改善を行う実践不動産投資家。
著書に「不動産投資の正体」「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)など多数。
新聞・雑誌への寄稿(ビジネス専門誌・一般週刊誌・海外も含む業界誌)、年間70件を超える全国での講演活動、ラジオ・TVなどへの出演もある。
また、IREM-JAPAN(米国不動産管理協会日本支部)の理事を兼任し、日本で数人のファカルティ(講師)資格を持つ。
ブログ「不動産投資にまつわる100の話」(人気ブログランキング最高位1位)。

保有資格:
一級建築士・米国認定不動産投資顧問資格(CCIM)・米国認定不動産経営管理士(CPM)・同講師(ファカルティ)資格・同MPSA試験採点官(グレーダー)資格・不動産証券化協会認定マスター・不動産コンサルティングマスター・不動産アナリスト・日本FP協会認定AFP・ファイナンシャルプランニング技能士・相続アドバイザー・相続対策専門士・宅地建物取引主任者・管理業務主任者・賃貸不動産経営管理士・賃貸住宅査定主任者・震災建物応急危険判定士・住環境測定士補・防火管理者・貸金業務取扱主任者・損害保険リテール資格・生命保険募集人資格・ハウジングライフプランナー・住宅メンテナンス診断士・住宅インスペクター・事業承継スペシャリスト

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