業火とともに焼け落ちる首里城・・・衝撃的な映像でした。
その後、現地では出火原因を特定するための調査が行われています。
呆然と立ちすくむ地元の方々の映像がニュースで流れていましたが、沖縄の皆さんの喪失感は計り知れないものとお察しします。
首里城の建物自体は、1945年の沖縄戦で焼失したものを4年がかりで復元したもので、竣工は1992年。当時のノウハウや技術も残っており、73億円かければ元に戻せるというのがせめてもの救いですが、同時に失われてしまった400点を超す貴重な資料が悔やまれます・・・なぜ、耐火建築の資料館に現物を保管して、木造の建物内にはレプリカにしておかなかったのか。
2019年4月に焼け落ちたノートルダム寺院大聖堂(1345年竣工)の出火原因は、改修工事中の職人が足場で吸っていた煙草の火の不始末といわれています。
1950年に焼失した金閣寺は放火。こちらは1420年に完成した建物でした。
比べ物にはならないかもしれませんが、私の地元横須賀の歴史的アイコンであった海軍料亭「小松」(1923年竣工)も2016年5月に厨房からの漏電で焼失しています。
山本五十六長官の額がかかる長官部屋や
(右から)東郷平八郎、上村彦之丞、鈴木貫太郎、米内光政などが残した貴重な資料もすべて失われました。
火災は、いつ何が原因で発生するかわかりません。
物件オーナーの皆さんも万全の準備をしておくことです。甘く見ていると、大変なことになります。
2001年9月に発生した新宿歌舞伎町ビル(明星56ビル)火災の出火場所は厨房。
消防署の再三再四の是正指示に耳を貸さず営業していた末の火災で、44名の死者、3名の重軽傷者を出す事態を招き、ビル所有者と経営者に業務上過失致死罪の執行猶予付き判決が出ました。
そして、損害賠償請求12億5000万円に対して支払った和解金は8億6000万円・・・
物件オーナーが火災リスクから身を守るポイントを整理すると4つになります。
設備
例えば、共同住宅で延床面積500㎡以上の場合「自動火災報知器」の設置義務があります。500㎡未満の場合は「火災報知器」。首里城の火災では、なぜスプリンクラーを設置していなかったのか?ということが争点になっていますが、あれはあの建物がまだ「歴史的建造物」になっていないというのが設置基準から外れていた理由であって、「設置基準から外れてはいるが、万一のことを考えたら設置しておいた方が良かった」という話です。
これが、そもそも基準を満たしていない(=必要な設備がない)という事になると、オーナーの責任を問われます。居室内の必要な個所に必要な数の火災報知器のついていない部屋はありませんか?
特に、消防法改正で火災報知器設置義務の適用とされた、新築平成18年6月1日・既存住宅平成23年5月より前に建てられたとか、入居していて退出していない部屋とかが怪しいです。
適法性
設備と同様、建物自体が建築基準法や消防法に則ったものになっているかということです。共同住宅や重層長屋では、火災の際に有効な避難経路が必要ですから、法律や条令で避難経路の数や、幅員、位置などが詳細に決められています。LP社で問題になった天井裏の界壁なども、建基法施行令第111条1項(建築物の界壁、間仕切壁及び隔壁)長屋又は共同住宅の各戸の界壁は、準耐火構造とし小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない・・・という根拠法があるわけです。
点検
法律に基づいて設置した設備には、法律に基づいた点検義務というのがあります。例えば延床面積150㎡以上の共同住宅は、年2回の消防点検と3年に1回の消防署への届け出が義務付けられますし、1,000㎡以上であれば、有資格者がその点検を行う必要があります。これを怠っていて、火災発生時に消火器が使い物にならなかったり、避難梯子の蓋がさび付いて逃げられなかったりといった場合のオーナーの損害賠償責任を考えると背筋が凍ります。
保険
日本には失火責任法という法律がありますので、隣家からの延焼であっても(重過失がなければ)自己負担で再建を余儀なくされることになります。
築古で価値がほとんどないような建物でも再建築はイコール「新築」ということですから、建物の築年数に関係なく、「再建築価格(新価)」で加入すべきです。それから、普通の火災保険では地震を原因とした火災は免責になってしまいますので、「地震保険」も入っておいたほうが良いと思います。火災とは関係ありませんが、施設賠償保険も必ず。雨でぬれた敷地内のスロープで滑って転んで複雑骨折。損害賠償数百万円といった事態にも対応できます。
一方、入居者にも保険に入ってもらう必要があります。オーナーチェンジで昔から入居している部屋などは、保険期間が終了して更新されていないなんていうことがあるかもしれませんので要注意です。
入居者にも失火責任法が適用されますので、重過失がない限りは火元の部屋以外の部屋にはその責任は及びません。入居者が負うのは「原状回復義務」。
とはいえ、数百万円単位の負担を数万円の家賃で入居している入居者ができるとも思えず、泣き寝入りということも十分考えられます。
従って、入居者には「家財の火災保険」と、それに付随した借家人賠償責任特約保険(商業テナントであれば施設賠償保険)への加入を義務付けすることをお勧めします。