猪俣 淳の不動産投資コラム

シリーズ連載: 猪俣淳の「不動産投資の正体」

LIFULL HOME'S 不動産投資コラム

その”イールドギャップ”間違えてますよ

ついにあの大手不動産会社も「投資用区分マンションに特化した専門チーム」というのを立ち上げたそうで。

イールドギャップとは、「投資物件利回り」と「金融機関からの借入金利」の差=借金をして投資して出る利益のことです。投資物件の利回りが低くても、借入金利も低ければ、金利の差から利益を得ることができます。・・・とあり、

「投資物件利回り8%-借入金利6%=イールドギャップ2%」を【あまり投資に向いていない不動産】

「投資物件利回り5%-借入金利2%=イールドギャップ3%」を【投資に向いている不動産】

として例にあげています。

この間違い、よく見かけます。

結論から言ってしまえば、「モノサシが違う物」を比較しても意味がないということです。

投資物件利回りというのは、表面利回り(満室想定賃料÷物件価格)を指しているようですが、単年のキャッシュフローを投資効果のモノサシとした比較をするのであれば、

 満室想定賃料
±賃料差異
-空室・未収損
-運営費
=営業純利益(NOI)

・・・を分子に、
 

物件価格
+取得コスト
+初期改修コスト
=総投資額

・・・を分母にして計算した総収益率(FCR)を「投資利回り」とし、

金利ではなく、「(年間の元本返済+年間の支払利息)÷借入額=ローン定数(K%)」と比較することではじめて、モノサシの揃ったイールドギャップとして比較することができるということです。

試しに、この会社の売主物件として紹介されている物件で計算してみましょう。
場所は、都心3区の一等地で2320万円。年間予定賃料収入106.8万円と書いてあります。

表面利回り4.60%で金利1.65%なので、先ほどのパンフレットでいうところのイールドギャップは「4.60%-1.65%=2.95%」ということになります。

年間予定賃料収入106.8万円(月額89,000円)が賃料相場通りと仮定して、

空室損は、シングル物件の平均解約率25%として1÷25%=4年(48か月)を居住期間、空室が発生したあと原状回復工事も含めて次の入居者が入るまで1カ月(場所が良いですから甘めに見ましょう)とすれば、「1-(48か月/(48か月+1カ月)=2%」ということで約2万円。

運営費は、
・管理費 12,600円/月
・修繕積立金 12,320円/月
このほかにも
・固定資産税 年間で5万円程度?
・賃貸管理費 賃料の5%(消費税別)として6万円弱?

年間で41万円・・・賃料106.8万円の38%(!)

更に、
敷金が取れなければ入替えごとの原状回復工事が、
礼金が取れなければ入替えごとのAD(客付け業者に払うインセンティブ)が、

オーナーの負担としてかかってきます。

原状回復工事、4年ごとに8万円程度として年間2万円
AD、4年ごとに賃料の1カ月分(8.9万円)として、年間約2万円

これを加えると
年間で45万円・・・賃料106.8万円の42%(!)

区分マンションは一棟ものに比べると賃料に対する運営費の割合が高めになりますが、それでもかなりの高負担率かな、この物件。

それから、物件価格2,320万円に対して登録免許税・火災保険・印紙税・不動産取得税など(この物件は仲介料ナシだそうです)をおおよそ80万円(物件価格の3.4%程度?)として、総投資額は2,400万円。

 満室想定賃料   106.8万円
±賃料差異     なし
-空室・未収損    2.1万円
-運営費      45.0万円
=営業純利益(NOI)59.7万円

物件価格    2,320万円
+取得コスト     80万円
+初期改修コスト  なし
=総投資額    2,400万円

営業純利益59.7万円÷総投資額2,400万円
=総収益率(FCR)2.49%

そして、
年利1.65%・35年返済の場合のローン定数(K%)
=3.76%

イールドギャップはマイナス1.27%・・・というのが、モノサシを揃えた「正しい」イールドギャップということになります。

そして

もうひとつ考えなければいけないのは、これはあくまでも「単年」の「キャッシュフロー」を検討するためのイールドギャップだということで、

・売却出口を取るときの経年減価
・保有期間中の原状回復とは別に発生する修繕の出費
・減価償却や税負担の影響も加えた税引後キャッシュフローの変化

といった、投資期間を通じた投資として捉えられているわけではないということです。

これは、内部収益率(IRR)の計算をすることによってわかります。

仮に、この物件で

■フルローン1.65%35年返済(諸費用のみ自己資金)
■賃料水準は変わらず(すでに築20年なので)
■修繕コストを最初に100万円計上(すでに築20年なので)
■保有期間10年
■売却する時の価格1割減の2,090万円(次の買手が同条件の融資を受けられたとしてK%=3.76%を上回るFCRを確保してイールドギャップがプラスになる価格となると1,400万円位としたいところですが・・・)
■売却コスト3%(パンフレットにはノンバンクとありますので、これに残債の1%とか2%取られるようであれば更に増えますが、ここでは取られないこととしておきます)
■価格に対する建物の割合は約6割(1,390万円)で、減価償却期間は47年-20年+20年×0.2=31年
■所得税率30%
■個人での投資

とした場合の内部収益率(IRR)は、

税引前 マイナス10.69%
税引後 マイナス10.27%(赤字で税還付があるので・・・)

投資期間を通じて比較する、もうひとつのイールドギャップは、

内部収益率(IRR)

金利(int)

の差で見ますが、

この場合も、税引後IRR ▲10.27%-金利1.65%=マイナス11.92%という感じになります。

それでも、表面利回りと金利の差を「イールドギャップ」として投資判断に使いますか?

【このコラムの著者】

猪俣 淳

猪俣 淳(いのまた きよし)1961年生れ横須賀市出身
株式会社アセットビルド 代表取締役

不動産・建築分野で30年以上働き、不動産管理・不動産売買・建築・投資・金融・保険の各分野における29の資格を持ち、みずからも収益物件の購入・売却・運営・資本改善を行う実践不動産投資家。
著書に「不動産投資の正体」「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)など多数。
新聞・雑誌への寄稿(ビジネス専門誌・一般週刊誌・海外も含む業界誌)、年間70件を超える全国での講演活動、ラジオ・TVなどへの出演もある。
また、IREM-JAPAN(米国不動産管理協会日本支部)の理事を兼任し、日本で数人のファカルティ(講師)資格を持つ。
ブログ「不動産投資にまつわる100の話」(人気ブログランキング最高位1位)。

保有資格
<不動産系>
宅地建物取引士/不動産コンサルティングマスター/不動産アナリスト/ハウジングライフプランナー
<不動産投資系>
CCIM認定商業不動産投資顧問/不動産証券化マスター/米国不動産投資マスター/米国不動産投資コンサルタント
<建築系>
一級建築士/震災建築物応急危険度判定士/既存住宅状況調査技術者/住宅メンテナンス診断士/住宅インスペクター/住環境測定士補
<不動産管理系>
CPM認定不動産経営管理士/CPM公式セミナー講師(メンテナンス及びマーケティング)/ CPM MPSA試験採点官/賃貸不動産経営管理士/管理業務主任者/賃貸住宅査定申請主任者/防火管理者
<金融系>
ファイナンシャルプランナー/ FP技能士/貸金業務取扱主任者
<保険系>
損害保険リテール資格/生命保険募集人資格
<相続系>
相続対策専門士/相続アドバイザー/事業承継スペシャリスト

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