猪俣 淳の不動産投資コラム

シリーズ連載: 猪俣淳の「不動産投資の正体」

LIFULL HOME'S 不動産投資コラム

レンタブル比と立退きと土地値物件の話。


「当ビルは再開発から完全に除外されました。」

執拗な地上げ交渉に打ち勝った勝利宣言なのか、
条件を吊り上げすぎて開発主体が交渉のテーブルから降りてしまいチャンスを逃した恨み節なのか。

あるいは複数の入居者が入るマルチテナントビルゆえに立ち退き交渉が難航し、結果再開発事業に参加できなかったことに対するテナントへの当てつけなのか・・・

いずれにせよこの場所できっとあったであろう数々のドラマを感じさせる垂れ幕です。

写真の場所は、古いペンシルビルが林立していましたので土地利用の観点からみればいかにも効率の悪いエリアでした。

建物全体の面積に対して、共用部を除いた正味の利用可能床面積の割合がどのくらいか?という比率を「レンタブル比」といいます。

この↑間取りは、以前実際に売りに出ていた(この場所ではありません)狭小物件の間取りです。
土地面積  9.51㎡( 2.87坪)
建物面積  36.17㎡(10.94坪)
居室面積 約12.00㎡( 3.65坪)

居室面積÷建物面積=約33%(レンタブル比)

一般的に標準的なレンタブル比は85%前後、エントランスなどにゆとりを持たせるともっと下がりますし、キツキツにプランを入れればもっと上がります。

そして、建物面積が狭くなればなるほどレンタブル比は下がります。(建物面積が半分になっても、階段や廊下の幅は半分になりませんので)

したがって、レンタブル比が低いペンシルビルのオーナーが再開発に参加して大型ビルの中により広い賃貸床を得るという選択は悪くない条件ともいえるわけですが、路地裏の物件であればいざ知らず、ターミナル駅正面といった位置的な価値は手放すにはあまりにも大きいので躊躇するのも、対価をより大きく求めるのも理解できます。

そして、それは従前のビルに入居するテナントにもいえることで、ただでさえ難航するテナント立退き交渉をさらに困難にさせる要因にもなります。

比較的土地面積が広くて、土地値に近い価格で売りに出ている築古物件を見つけると「最終的な出口は、解体して更地で売却」という検討をしたいところですが、立ち退き交渉はなかなか大変です。

周辺の賃料相場よりも安く貸している部屋であれば、「いままで安く貸していたんだから協力してよ」と言いたいところですが、裁判になれば、現入居者は”相場よりも安く借りていられる権利を持っている”と判断されます。

立退きには貸主の正当事由が必要になりますが、自己使用したいとか、建替えたいとかは正当事由にならず・・・

借主の権利と、貸主の希望の差をうめるのが「立ち退き料」ということになります。

定期借家契約であれば、そのあたりの問題は解消されるわけですが普通借家契約がいまだに幅を効かせるわが国ではオーナーにとっての悩みの種となります。

判例では、

(土地価格×借地権割合+建物価格)×賃貸面積割合×借家権割合=立ち退き料

とされる場合が多いようです。

立ち退き料に関する有名な判例で、
・新宿区の商業エリア
・敷地面積50坪の戸建賃貸
・月額賃料25万円
・賃貸借期間2年とし期間満了とともに明け渡しという特約

というのがあります。

オーナーが受け取った賃料総額は
月額賃料25万円×12か月×2年=600万円。

立ち退き料はおおよそ1億円(!)

定期借家契約ができる前の話ですから、当然普通借家契約。そして、借主(=消費者)に不利な特約は無効。

建物は古くほとんど価値はありませんが、平成バブルで土地価格が高騰し、50坪×@1,000万円/坪=5億円になった土地の借地権割合はC70%。

5億円×借地権割合70%×借家間割合30%=約1億円。

一方、1円も払わずに立ち退いてもらえることもあったり・・・

「立ち退き料の相場は家賃の〇か月分です」
とか、
「引っ越し先の初期費用+新居の〇か月分です」
とか、

いろいろ言われていますが、「やってみないとわからない」というのが実際のところ。

また、アパート系ハウスメーカー営業部隊の皆さんにはそれなりのノウハウもあったりもします。

立退き交渉の実例や、ハウスメーカーの交渉方法などは金融機関の皆さん向けという依頼で書き下ろした土地活用の本に詳しく書きましたのでご興味のあるかたはぜひ。

それから、敷地が広すぎて単独で購入する買主がいないような物件の場合、宅地を分割して販売ということになりますが「宅建業許可」(宅建士ではありません)がないと不特定多数および反復継続の取引を無免許で行ったということで”300万円以下の罰金または3年以下の懲役”になりますので、普通は宅建業者に買い取ってもらうことになります。

その場合、土地形状や道路付けによって
・造成工事費用がかかる
・不整形土地が生じる
・位置指定道路などが必要になる(減歩)

そして、
・売り買いのコストや税金が生じる
・そのうえで利益を確保する必要がある

ということで、意外と思ったような売値にならないことも多く。

いずれにしても、単純に「このあたりは坪単価〇〇万円だから、この値段で購入できればラッキー♪」というのは、あとで大きな見込み違いになる可能性があるということは知っておかれた方がいいかもしれません。

【このコラムの著者】

猪俣 淳

猪俣 淳(いのまた きよし)1961年生れ横須賀市出身
株式会社アセットビルド 代表取締役

不動産・建築分野で30年以上働き、不動産管理・不動産売買・建築・投資・金融・保険の各分野における29の資格を持ち、みずからも収益物件の購入・売却・運営・資本改善を行う実践不動産投資家。
著書に「不動産投資の正体」「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)など多数。
新聞・雑誌への寄稿(ビジネス専門誌・一般週刊誌・海外も含む業界誌)、年間70件を超える全国での講演活動、ラジオ・TVなどへの出演もある。
また、IREM-JAPAN(米国不動産管理協会日本支部)の理事を兼任し、日本で数人のファカルティ(講師)資格を持つ。
ブログ「不動産投資にまつわる100の話」(人気ブログランキング最高位1位)。

保有資格
<不動産系>
宅地建物取引士/不動産コンサルティングマスター/不動産アナリスト/ハウジングライフプランナー
<不動産投資系>
CCIM認定商業不動産投資顧問/不動産証券化マスター/米国不動産投資マスター/米国不動産投資コンサルタント
<建築系>
一級建築士/震災建築物応急危険度判定士/既存住宅状況調査技術者/住宅メンテナンス診断士/住宅インスペクター/住環境測定士補
<不動産管理系>
CPM認定不動産経営管理士/CPM公式セミナー講師(メンテナンス及びマーケティング)/ CPM MPSA試験採点官/賃貸不動産経営管理士/管理業務主任者/賃貸住宅査定申請主任者/防火管理者
<金融系>
ファイナンシャルプランナー/ FP技能士/貸金業務取扱主任者
<保険系>
損害保険リテール資格/生命保険募集人資格
<相続系>
相続対策専門士/相続アドバイザー/事業承継スペシャリスト

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