猪俣 淳の不動産投資コラム

シリーズ連載: 猪俣淳の「不動産投資の正体」

LIFULL HOME'S 不動産投資コラム

「FIRE]不動産投資で実現可能か?45歳・持ち家・家族あり/なし


前回の記事「20年を金融電卓で計算してみると・・・」にコメントをいただきまして。

「実際にFIREするには、どの位の物件規模が必要か?」(45歳・持家・家族あり/なしの場合)というご質問です。

米国発”FIRE”の公式としてよく知られているのは、
(1)必要な年間支出の25倍の現金を貯める
(2)それを年間4%で運用すれば必要な所得を投資から得られる
というふたつの前提。

1×25×0.04=1

という単純な話です。

年間4%の運用というのは、S&P500の運用利回り7%から米国のインフレ率3%を引いたものとされていますが、S&P500の1998年から2018年までの推移をみると

配当と値上がりの合計で年平均8.2%であるものの、価格自体は上がったり下がったりを繰り返しますし、FIREの概念からすると売却を伴わない配当だけのパフォーマンスを見た方が良い気がします。その場合、初期投資に対する配当の利回りは年平均3.3%。

一方、同期間の米国のインフレ率は約2.2%。

 S&P500の配当利回り 3.3%
-米国インフレ率    2.2%
= 差  額      1.1%

といった感じでしょうか。
1998年に取得したS&P500を2018年に現金化という流れでIRR(税引前)を計算すると6.5%になるので、

 S&P500のIRR     6.5%
-米国インフレ率    2.2%
= 差  額      4.3%

という計算をしているのかもしれませんね。

いずれにしても、

1.”自己資金を何パーセントで運用できるか?”
ということと、
2.”必要な年間収入”
がわかれば、必要な投資規模を逆算することができます。

自己資金を何パーセントで運用できるか?という利回りのことをCCR(Cash on Cash Return)とか、ROE(Return on Equity)とかいいます。

式にすると、
CCR=年間のキャッシュフロー(CF)÷自己資金(Eq)

そして、
①FCR(総収益率)…営業純利益NOI※1÷総投資額
※1 営業純利益:実際の市場家賃に引き直した満室想定賃料に雑所得を加えたものから、空室・未収損と運営費を差し引いた正味の年間収入
②K%(ローン定数)…ADS(年間元利返済額)÷LB(借入額)
③LTV(ローン資産価値比率)…LB(借入額)÷物件価格
の3つがわかれば、その物件に入れた自己資金は何パーセントで運用できるか(=いくらのキャッシュフローを得ることができるか)ということがわかります。


公式は、
Eq×FCR+LB×(FCR −K%)=BTCF
BTCF÷Eq=CCR

例えば、
FCR=5%※2
※2 表面利回り6.8%・空室損5%・運営費率15%で物件価格の7%程度の取得経費がかかる計算でこのくらいになるはずです(都内一棟など)。
仮)
1億円+取得経費7%=総投資額1億700万円
1億円×表面利回り6.8%=GPI 680万円
       -空室損(5%) 34万円 
      -運営費(15%) 102万円
     =営業純利益NOI  544万円

営業純利益NOI 544万円÷総投資額1億700万円=FCR5.08%

あるいは、表面利回り10%・空室損10%・運営費率30%で物件価格の15%程度の取得経費がかかる計算でもこのくらいになるはずです(地方一棟など)。
仮)
5,000万円+取得経費15%=総投資額5,750万円
5,000万円×表面利回り10%=GPI 500万円
         -空室損(10%) 50万円 
         -運営費(30%) 150万円
       =営業純利益NOI  300万円

営業純利益NOI 300万円÷総投資額5,750万円=FCR5.21%

ちなみに、表面利回り7.5%・空室損3%・運営費率25%で物件価格の7%程度の取得経費がかかる計算ではこのくらい(都内築古区分など)。
仮)
1,000万円+取得経費7%=総投資額1,070万円
1,000万円×表面利回り7.5%=GPI 78万円
         -空室損(3%) 2万円 
         -運営費(25%) 20万円
       =営業純利益NOI  56万円

営業純利益NOI 56万円÷総投資額1,070万円=FCR5.23%

K%=4%※3
※3 年利2.1%35年返済=K%4.03%、年利1.3%30年返済=K%4.03%など

総額1億円の投資のうち8割を借り入れで行う(=LTV80%)場合、
(2,000万円×5%+8,000万円×(5%-4%))/2,000万円=CCR 9%

と、いうことは

1×25×0.04=1

ではなく、

1×11×0.09≒1

で、必要な年収の11倍の自己資金を貯めれば良さそう・・・ということがわかります。

コメントで引用されていた動画では、”年間280万円の収入を得るためには”となっていましたので、

280万円×11倍=3,080万円の自己資金を貯めればいいということです。(FIREの公式だと25倍なので7,000万円。ずいぶんハードルが下がります)

そして、投資規模は

逆算をすれば、
LB=12,600万円
Eq= 3,080万円
総投資額=15,680万円
物件価格=14,650万円※4
ということがわかります。
※4 このケースの場合、
物件価格1億4,650万円+取得経費1,030万円=総投資額1億5,680万円
1億4,650万円×表面利回り6.7%=GPI 980万円
       -空室損(5%) 49万円 
      -運営費(15%) 147万円
     =営業純利益NOI  784万円
     -年間元利返済(ADS)504万円
     =税引前キャッシュフロー280万円・・・CCR9%
当然、こういった物件が探せるか?とそういった融資が組めるか?が大前提になりますが(重要)。

不動産の場合、立地や物件によって、
・賃料低下
・修繕コスト
それから、投資期間が進むにつれて
・減価償却期間の終了(設備・外構など)
・返済のうち利息分の逓減
などによってキャッシュフローが減っていったり、急な出費を余儀なくされたりということがありますので、その分のバッファーを見込んでおく必要もあります。

特に、修繕系の出費はもともとの建築費に比例しますので一棟マンション系はその予算はより大きくなりますし、賃料単価が低いエリアや物件での投資ではその負担がより重くなります。

仮に先ほどの年間280万円の希望キャッシュフローが税引後として、なおかつ税引前と税引後の割合が9割程度※5とすれば、280万円÷0.9=310万円が必要なので、
※5 先ほどのケースで、建物割合4割(木造・新築)で所得税+住民税の実効税率33%の場合、

     =営業純利益NOI  784万円
     -減価償却    266万円
     -年間利息(int)  262万円(初年度)
     -青色申告特別控除 65万円(事業的規模)
     -専従者給与   106万円
     =課税所得     85万円
     ×税率       33%
     =税額       28万円

 税引前キャッシュフロー(BTCF)280万円
-            税額 28万円
=税引後キャッシュフロー(ATCF)252万円  
      ATCF/BTCF=90%
必要な自己資金は310万円÷9%=3,440万円

総投資額は1億7,240万円(物件価格は約1億6,110万円。表面利回り6.7%として年間家賃約1,080万円。家賃6.5万円/戸として14戸程度)

これに改修コストを例えば(新築・木造・)
・15年ごとに外壁塗装300万円
・5年ごとに鉄部塗装 50万円
・20年ごとにUB(60万円×14戸)とキッチン(20万円×14戸)交換
・10年ごとにクロス張替え・木部塗装(10万円×14戸)
・15年ごとに給湯器交換(15万円×14戸)
と仮定すれば、年間平均114万円必要ということになります。
実効税率33%の投資家であれば、114万円×(1-33%)≒76万円が実際の負担額ということになりますから、先ほどの400万円にこれを加えた476万円を希望キャッシュフローとすれば、

476万円÷0.9≒5,300万円を自己資金で用意して、総投資額2億6,400万円(物件価格は約2億4,670万円。表面利回り6.7%として年間家賃約1,650万円。家賃6.5万円/戸として21戸程度)。

自己資金を貯めるまで何年かかるか?(子供の独立などで持家と家族構成のミスマッチが生じていて、なおかつ売却するとそこそこの現金が残る場合などがありますので、自分の資産ポートフォリオの見直しをすると良いでしょう)

物件を取得したあともしばらくは仕事を辞めずに給与所得からの貯金を継続したり、物件から得られるキャッシュフローを使わずに将来の改修費用として貯めこむとか、FIREの時期を遅らせるとことで、財務内容はよりラクになります。

また、質問にあった
45歳・持家・家族あり/なしの場合

という条件を仮に、
・30歳で結婚し、
・35歳での子供の出産を機に4,200万円(年利1%35年返済)の住宅ローンを組み新築戸建てを取得
という前提とすれば、

住宅ローン返済 月額118,560円(年間約142万円)
固定資産税等   年額15万円
修繕費      年額26万円
保険料      年額 3万円
合計で年間186万円(月平均15.5万円)の支出※6。
(※6 持家でない場合でも、更新料や持ち家の場合の団信生保相当の保険を考えると13万円前後の賃貸住宅に住んでいれば同様の支出となります)

10歳のこどもは、

公立小学校の残り2年、と中高とも公立、大学は私大文系とすれば合計で約1,000万円(年平均83万円・月平均約7万円)の支出。

このふたつだけでも年額270万円(月額22.5万円)ですから、しばらくはFIREは先延ばしになりそうです。

12年後の57歳になれば、子供も(浪人・留年しなければ)社会人になり、4,200万円の住宅ローンも残り1,730万円になっていますのでひとまずは「これよりもどのくらい前倒しできるか?」ということをテーマに、
・必要な規模以上に投資拡大を行う
・複数の物件を取得し、各物件から生じるキャッシュフローを再投資や繰り上げ返済に充てる
・複数の物件を取得し、ローン残高の減少や価格上昇を見ながら、売却資金を得て再投資や繰り上げ返済に充てる

といった展開をしていくと良いでしょう。

目的から逆算して投資規模を算出する方法や、ポートフォリオの組み方、出口の取り方と売却・保有の判断を行うための計算方法など「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略~詳細解説版~」(全408ページ 住宅新報社)に詳細かつ具体的に書きましたので、気になる方はぜひ。


動画のコンサルさんも、こちらで勉強されているようです。
(約20分でコンパクトにまとめられていて、いい動画でしたよ)

【このコラムの著者】

猪俣 淳

猪俣 淳(いのまた きよし)1961年生れ横須賀市出身
株式会社アセットビルド 代表取締役

不動産・建築分野で30年以上働き、不動産管理・不動産売買・建築・投資・金融・保険の各分野における29の資格を持ち、みずからも収益物件の購入・売却・運営・資本改善を行う実践不動産投資家。
著書に「不動産投資の正体」「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」(住宅新報社)など多数。
新聞・雑誌への寄稿(ビジネス専門誌・一般週刊誌・海外も含む業界誌)、年間70件を超える全国での講演活動、ラジオ・TVなどへの出演もある。
また、IREM-JAPAN(米国不動産管理協会日本支部)の理事を兼任し、日本で数人のファカルティ(講師)資格を持つ。
ブログ「不動産投資にまつわる100の話」(人気ブログランキング最高位1位)。

保有資格
<不動産系>
宅地建物取引士/不動産コンサルティングマスター/不動産アナリスト/ハウジングライフプランナー
<不動産投資系>
CCIM認定商業不動産投資顧問/不動産証券化マスター/米国不動産投資マスター/米国不動産投資コンサルタント
<建築系>
一級建築士/震災建築物応急危険度判定士/既存住宅状況調査技術者/住宅メンテナンス診断士/住宅インスペクター/住環境測定士補
<不動産管理系>
CPM認定不動産経営管理士/CPM公式セミナー講師(メンテナンス及びマーケティング)/ CPM MPSA試験採点官/賃貸不動産経営管理士/管理業務主任者/賃貸住宅査定申請主任者/防火管理者
<金融系>
ファイナンシャルプランナー/ FP技能士/貸金業務取扱主任者
<保険系>
損害保険リテール資格/生命保険募集人資格
<相続系>
相続対策専門士/相続アドバイザー/事業承継スペシャリスト

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