前回に引き続き、不動産投資を行うにあたって知っておくべきお金の流れについてです。
毎年手にするインカムゲインの考え方に加え、今回は売却をした場合に、それまでの累積キャッシュフローを含め、最終的にその投資はどうであったのか、総合収支の考え方について解説をしていきましょう。
売却により手元に残るお金を算出するには、ローン残高と売却時諸経費の他、売却した際にかかる税額を求めなければなりません。もちろん、売却損であれば税金はかかりませんが、実際に計算してみると意外に「利益」が出ている場合もあります。
それを知るにはまず、譲渡所得を求める必要があります。
実際のお金の流れ・・・収支計算:手元に残るお金=売却価格-(ローン残高+売却時諸経費+所得税・住民税)
税額を求めるため・・・ 所得計算:譲渡所得=売却価格-(簿価+売却時諸経費)
実際に数字を挙げて考えてみます。
<前提>
・購入価格:1億円
・10年後の簿価:8,300万円
・ローン残高:6,055万円
・売却価格:9,000万円
・売却諸経費:350万円
・購入してから10年後に売却
これらを、上記の計算式に当てはめてみると。
譲渡所得=9,000-(8,300+350)=350万円
となり、税金はこの350万円に長期譲渡所得の場合の税率20%(短期譲渡所得は39%)をかけ、350万円×20%=70万円。
上記事例の場合、売却することで70万円の税金が発生します。
ここで多いのが、「えっ。購入価格より売却価格の方が安いのに税金がかかるの?」というご質問。
譲渡所得を計算する際、売却価格と比較するのは単純な購入価格ではありません。これまで費用計上してきた減価償却分を差し引いた不動産の簿価になるので、売却価格が購入より安くても税金はかかるのです。
税額が出たところで、実際に手元に残るお金を上記式から求めると、9,000-(6,055+350+70)=2,525万円となります。
これが、売却してローン返済も完了、税金も支払った後に手元に残る金額です。
では、毎年のキャッシュフローの累積と売却をした場合に残る金額を含め、この投資のトータル収支を考えてみましょう。
累積キャシュフロー(税引後)は、以下の想定の下、10年間で450万円あったとします。
購入価格:1億円、表面利回り8.5%、ローン金利2.5%、返済期間25年、空室率8%、家賃下落率1%、経費率16~18%、所得・住民税率30%
物件を購入した際の自己資金を、頭金1,000万円、諸経費700万円の1,700万円とすると、投資から得られた純粋なキャッシュは、このようになります。
累積キャッシュフロー450万円+売却キャッシュ2,525万円-自己資金1,700=1,275万円
10年で、キャッシュが1,275万円増えたということですね。
自己資金1,700万円の効率を考えた場合、単純に1年平均で7.5%程度の利回りとも考えられます。
貨幣価値や実際にキャッシュ化する時期等も含めるともう少し複雑になりますが、ざっくりとした大まかなイメージはつかめるのではないでしょうか。
ちなみに、長期譲渡所得と短期譲渡所得では税率が19%も違いますので、個人で不動産を購入した場合、5年を境に売却を考える人が多くなっています。
ただし昨今の不動産市況好調を受けて、短期譲渡もしばしば見受けられるようになっていますが。
前回、今回と、不動産投資におけるキャッシュフローの基本について取り上げてみました。
普段、「キャッシュフロー」という言葉は簡単に使っていても、実はきちんとした流れや計算の仕方はわかっていないという方もいると感じています。
不動産は一般の金融商品とは異なり、利益とキャッシュの流れに相違があり計算が少々複雑になりますので、双方をしっかり理解する必要があります。