不動産投資を検討する際、当然、様々な視点からの数字を伴ったシミュレーションは欠かせません。多くの方は借入が伴うでしょうから、より注意深くなるはずです。
ただいくら緻密に計算をしたとしても、実際に賃貸経営がスタートするとその通りに物事が運ぶわけではありません。シミュレーションが「机上の空論」となってしまうことも珍しくないのです。
では数字の検証が邪道かと言うと、そういう訳ではありません。仮に何かが起きたとしても、事前に試算をしておくことで軌道修正はしやすいはずだからです。
皆さんもご存じのように、不動産投資の物差しのひとつとして「利回り」があります。
地域特性や築年等も加味して、表面利回りから実質り利回り、そして最終的な手取りがどのくらいかというのを計算して検討することと思います。
この「利回り」が、購入判断のベースになることは確かでしょうけれども、厳しめに見るのか保守的に見るのか等、試算のやり方によって夫々で差が出やすいところとも言えます。
特にまだ物件を保有されていない場合や保有歴が短い方の中には、実際に賃貸経営を始めてみるとこの利回りが「想定外」になってしまうケースもよく見られます。
考えられることをいくつか挙げてみましょう。
大きく分けると、収入が減ることと支出が増える場合があります。
*収入減
・入居率の低下
・家賃減少 など
空室率をゼロで見ている方はさすがにいらっしゃらないでしょう。(サブリース以外で)
感覚的に5%や10%などと想定されている方が多いように思いますが、もう少し具体的に考えてみた方が良いかもしれません。
例えば6室保有しているとすると、10%の空室率というのは、6室×365日×10%=219日分になると考えます。これは、1年に3部屋で退去があり、退去から次の入居契約までそれぞれ73日かかった場合に相当します。
入れ替え時には原状回復等もありますし、入居申込みから実際の契約までも少々時間を要することを考えると、2ヶ月少々というのは意外とあっという間に過ぎてしまう場合もあるのではないでしょうか。
表面利回りが8%の物件だったとして、空室率10%を加味するとそれだけで「利回り」は7.2%となってしまいます。
また物件の場所的に、企業の借り上げや社宅、学生向けなど需要先がいくつかに限られてしまっている場合は、一ヶ所への依存度が高くなりがちです。当初は安定しているように思えても、企業撤退や学校移転によって、賃貸経営環境はガラッと変わってしまいます。特に地方では、他の需要がほとんど見込めないこともあります。とすると、賃料が一気に30%減、40%減になることも。当初仮に12%の利回りがあったとしても、6、7%台になってしまいます。
経営が立ち行かなくなり、手放したいと思ったとしても、買い手が見つからず売却すらできない状況になってしまう可能性もあります。
このような話は、リーマンショック後に特に耳にすることが多かったと感じます。都心部においても、似たようなことは起きています。
*支出増
・退去時にかかる費用
・入居募集費用
・修繕費用
・管理費用 など
支出増で想定外になることが多いものとしては、やはり入居募集費用だと感じます。
ここ数年大家側としても「入居募集費用」という概念はだいぶ定着してきているため、ある程度見積もっている方も増えていると思います。仮に平均家賃6万円の6室アパートだとして、年間1/3が回転すると、2部屋×6万円=12万円程度を募集費用として心づもりしておくなどといった考え方です。
ただ基本的に借り手優位である今の賃貸市場においては、思った以上に出費がかさむと予定が狂うことに。最初は閑散期の3ヶ月だけ費用をかけるつもりでも、なし崩し的に常態化する可能性もあるでしょう。
また築年を経ると、様々な設備の修繕・交換費用が増えるのは想定されている方も多いと思いますが、その他、管理に関する費用も増えていく傾向があります。古くなった建物の美観を保つには、日々の清掃や定期的な高圧洗浄等の頻度を増やすことが必要になることもあるでしょう。購入時と同様で見積もっておくと、「想定外」になることも考えられます。
このように、ざっと挙げただけでも、試算していた「利回り」が想定外になってしまうケースは少なくありませんが、かといって考えられるリスクを全て盛り込むと、身動きが取れなくなることも。いくつもの物件を検討してみたけれど、見合うものが見つからないため、「やはり不動産はやめておこう」という結論に至る方もおられるかもしれません。もちろん、収益とリスクを含め最終的に決断されるのはご自身です。
リスク許容度は人によって異なるため「これが正しい」という基準がないところが難しいと感じます。
一方、中には楽観的過ぎる方もいらっしゃいますので、上記で挙げた程度のことは検討の際に考慮しておいた方が良いと思います。