コロナ災禍の影響も加担し、今般、日本で所得格差の問題がより深刻度を増している印象をぬぐい去れません。
米経済誌のフォーブスが4月6日に発表した「世界長者番付2021年版」によると、日本人ビリオネアの第1位(世界ランキングは第29位)はソフトバンクの孫正義氏でした。その保有資産は454億ドルで、日本円に換算すると約4兆9500億円となります。また、第2位(同31位)はファーストリテイリング(ユニクロやジーユーなどの衣料品会社)の柳井正氏で、資産額は441億ドル(約4兆8000億円)でした。どちらも総合電機メーカー日立製作所の時価総額(約5兆円)と比肩する金額です。
これは極端な例ですが、野村総合研究所が2020年12月に公表したアンケート調査によると、2019年、わが国には資産保有額5億円以上の「超富裕層」が8万7000世帯。同じく1億円以上の「富裕層」が124万世帯、さらに同5000万円以上の「準富裕層」が341万世帯いるという推計結果が明らかになりました。いずれもアベノミクスが始まった2013年以降、一貫して増加を続けているそうです。
確かに、うなずける話です。昨年11月、米ニューヨーク株式市場でダウ平均株価が史上初めて3万ドルを突破しました。また、今年2月15日には日経平均株価が30年ぶりに3万円台を回復です。不景気の株高と揶揄(やゆ)されながらも、拡張的な財政政策と緩和マネーが過剰流動性相場を形成し、実体経済とはかけ離れた資産価格を生み出しています。もとより、この恩恵(資産効果)を受けているのが富裕層というわけです。今後もワクチン接種に伴う経済の正常化期待を背景に、そのモメンタム(株高の勢い)は継続される公算が高いと考えられます。
■国民の約6人に1人が相対的貧困に陥っている
しかし「明」があれば「暗」があるのが世の常です。「下流老人」や「老人漂流社会」といった言葉がしばしばマスコミで取り上げられるように、その日暮らしを余儀なくされている世帯は少なくありません。
読者の皆さんは、およそ国民の6人に1人が貧困状態であることをご存じだったでしょうか?―― もちろん、わが国日本の話です。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、日本の相対的貧困率は15.4%(2018年)なのです。
貧困というと「1日3回の食事もままならず、料金未払いで電気もガスも供給ストップ」といった生活を想像しがちですが、相対的貧困率とは手取り収入(可処分所得)を評価軸に据え、可処分所得の多い世帯から順位付け(ランキング)していった場合、その中央値(真ん中の順位に位置する家庭における個人単位での可処分所得)のさらに半分に満たない所得しか得られない人の割合を指します。
この調査は3年ごとに行われており、最新の調査(2018年)では可処分所得が127万円に満たない世帯が相対的貧困世帯に該当します。とりわけ母子家庭や高齢世帯が該当しやすい傾向にあり、不安定な所得環境が「明」と「暗」を二分しています。
■昨秋から事態は一変 家賃の振り込みがストップする
さて、前置きが長くなりましたが、資産家が賃貸住宅経営を行うに当たり、借家人による家賃の滞納は頭の痛い問題です。無論、大方のオーナーは家賃の保証会社を利用していると思いますが、滞納発生時の対処方法を知っておくことは重要です。
これからの話は私の身内が東京都23区内に所有する賃貸アパートで実際に起こった出来事です。いままでは毎月、定期的に振り込まれていた家賃が昨年(2020年)から不定期になり、督促しないと入金されないようになりました。それでも当初、督促すれば入金されていたため、過度な心配はしていませんでした。今回の賃貸借契約では賃貸管理会社を利用しておらず、家主が自ら自主管理していたからです。日頃から一定のコミュニケーションは取れており、電話をすれば借家人本人が出て、家主を避けるような素振りはありませんでした。
ところが、昨秋から事態は一変しました。ついに家賃がまったく入金されなくなったのです。電話をすると電話には出るものの、あきらかに様子が変でした。しきりに電話を切ろうとし、以後、家賃が振り込まれることはありませんでした。一体何が起こっているのか、家主の不安は募るばかりでした。
■生活困窮者の支援を行っている企業組合へサポートを依頼
そこで区役所へ相談し、紹介してもらったのが生活困窮者の支援を行っている企業組合です。この組合は区の指定する被保護者に対し、金銭等の管理業務を行っています。本来、本人(借家人)に代わって財産を管理したり,必要な契約を結べるのは家庭裁判所の任命を受けた成年後見人などになるわけですが、この組合では区役所からの委託を受け、組合職員が自ら本人に代わって金銭管理を行います。金融機関の通帳と印鑑を預かり、出入金の管理をすべて請け負っています。心配なので法律上、問題ないのか確認しましたが、委託者は区役所であり、問題ないとの説明を受けています。
すでにアパートの借家人は84歳。以前に奥さんとは離婚しており、同居するひとり息子は軽度の障害(精神的な疾患)をわずらっていました。そのため、長男が父親(借家人本人)の金銭管理を代行することは難しく、体調のいい時だけアルバイトをするといった生活ぶりでした。つまり、息子は無職の状態に等しく、この家庭では借家人本人の年金だけが唯一の定期収入でした。
その本人に認知症のおそれがあると知ったのが、金銭管理を代行する企業組合の職員からの報告でした。どうやら家賃がストップしたのも、認知機能の低下が一因と考えられます。職員によると、振り込む行為そのものをすっかり忘れてしまう(記憶障害)そうです。部屋を借りているという認識がないわけです。本人に悪意はありませんでした。
その後、職員に促されて生活保護を申請しており、年金と生活保護の支給額を合計して月額およそ13万円がこの世帯の全収入となりました。これに対し、アパートの家賃は毎月6万円です。今後も家計に余裕のない「自転車操業」が続きますが、企業組合のサポートにより家賃の滞納はなくなりました。話し合いにより、年金の支給月(偶数月)に家賃2カ月分(12万円)をまとめて振り込んでもらうようにしています。
4年後には「2025年問題」が差し迫っています。2012年時点で推計462万人だった認知症高齢者が、2025年には同700万人に達すると見込まれています。高齢者(65歳以上)の約5人に1人が発症する計算です。認知症によって判断力が不十分になってしまうと、当たり前のようにできていた財産の管理や運用、処分が1人で出来なくなってしまいます。もはや認知症は他人事ではなく、誰もが関わる可能性のある身近な病気なのです。
不動産投資家の皆さんは、貧困高齢者の家賃滞納問題を「今、そこにある危機」と捉え、想定されるリスクシナリオを描きつつ、その回避方法を会得しておくことが安心な不動産経営への第一歩となります。