平賀 功一の不動産投資コラム

シリーズ連載: 不動産投資を始める前に知っておきたいこと・始めた後に確認したいこと

LIFULL HOME'S 不動産投資コラム

借家人から更新料の支払い拒否や返還請求を受けたら、どうする?【前編】

成功への法則を7つの習慣として抽出した自己啓発に関する世界的ベストセラー「7つの習慣 ~人格主義の回復~」―― 今日では人生哲学の定番として、多くの人に親しまれています。すでにお読みになった人もいらっしゃることでしょう。

習慣とは、その思考や行動が生活の一部となり、特別な意志を持たずに毎日あるいは定期的に繰り返し行う振る舞いを指します。今日でいえば「マスクの着用」や「手洗いの励行」、さらに「不要不急の外出自粛」も習慣の仲間入りとなりました。広義の意味では「しきたり」や「習わし」も習慣の一種と解されます。要は、生活様式のルーティーン化(定型化)というわけです。

ただ時として、その習慣が「当たり前」となってしまい、惰性として繰り返される結果、トラブルに発展するケースがあります。時代の変化にそぐわないにもかかわらず、誰もが「決まり事」として疑わないため、指摘されて初めて問題の深刻さに気付くのです。

こうした事例は不動産取引にも当てはまり、今日、本稿で議論を深めたいのが賃貸借契約における「更新料」の取り扱いです。取引実務では慣習として当然のように請求され、また、何の疑いもなく支払われている更新料。その更新料とは一体どのような性質の金銭なのでしょうか。借家人から更新料の支払い拒否や返還請求を受けた場合、オーナーはどう対応すればいいのでしょうか?―― ここで一度立ち止まり、これまでの「習慣」を疑ってみる必要があります。

借家人からの突然の請求「既払いの更新料を返還してほしい」

 以下は、筆者が実際に直面した更新料についてのトラブルです。東京都内にある築53年の木造アパートで、建て替えに伴いオーナーが借家人全員に立ち退きを依頼してきました。その際、借家人の1人が「既払いの更新料を返還してほしい」と家主に要求してきたのです。

 その借家人(一人暮らしの男性)は2016年10月に契約期間2年の賃貸借契約を締結し、その後、18年10月と20年10月に更新料をそれぞれ支払い、2回契約を更新しています。次回の契約満了日は2022年10月13日なのですが、それを待たずして契約の途中解除(借家人は立ち退きを承諾)となりました。契約書には更新料の取り扱いについて、「契約期間満了の場合、甲(家主)・乙(借家人)協議のうえ、更新することができる。更新の際には、乙は甲に対し更新料として、新家賃の1.5カ月分を支払う」とだけ記載されています。

 加えて、立ち退きに伴う金銭の授受も付記しておくと、本事案はオーナー都合による退去依頼のため、「迷惑料」という名目で借家人全員に一律50万円が支払われました。当然、返還請求してきた借家人にも支払われています。

にもかかわらず、その借家人は「既払いの更新料を返還してほしい」と訴えてきたのです。過去2回、契約更新時に更新料の支払いを拒絶する素振りはありませんでした。オーナーの“足もと”を見て、駆け引きを仕掛けてきたのではないかとの憶測まで持ち上がっています。突然の返還請求に家主は困惑の様子を隠せません。そこで、不動産業者を交えて対応策を練ることとなりました。

そもそも「更新料」とは、どういう性質の金銭なのか?

 現在、賃貸借契約の更新時には更新料を支払うことが「習慣」として定着しています。しかし、更新料の授受について法律上の根拠はありません。そのため、行政や業界団体が作成・公表している賃貸住宅の標準契約書を見ても「甲(貸し主)および乙(借り主)は、協議の上、本契約を更新することができる」と記載されているだけで、更新料についての記述は一切ありません。こうした更新料の授受は取引実務上の「しきたり」に過ぎず、契約当事者間で取り交わされた「特約」に基づく単なる一時金に過ぎないという解釈です。

 こうしたこともあり、過去、幾度となくその認否が法廷で争われ、地裁と高裁で「有効」「無効」を二分してきました(下表参照)。それほど更新料の取り扱いはデリケートなのです。

賃貸借契約の更新料をめぐる主な裁判の判決結果

判決日裁判所判 決
2008年1月30日京都地方裁判所更新料は有効
2009年3月27日大津地方裁判所更新料は有効
2009年7月23日京都地方裁判所更新料は無効
2009年8月27日大阪高等裁判所更新料は無効
2009年10月29日大阪高等裁判所更新料は有効
2010年2月24日大阪高等裁判所更新料は無効
2011年7月15日最高裁判所更新料は有効

ここでは2009年7月23日に京都地方裁判所で出された更新料の無効判決について見てみましょう。

本件の舞台となったのが京都市内の賃貸マンションです。原告(借家人)は2006年4月に入居を開始し、家賃5万8000円で賃借していました。ただ、その借家人は契約期限満了(08年3月末)に合わせ、特約で定める2年間の契約期間に対する更新料として11万6000円(家賃2カ月分相当)を支払い、一度は更新したものの、わずか更新後2カ月(2008年5月末)で退去してしまいます。ここから更新料の返還を求める法廷闘争が始まりました。

 京都地裁は判決として、「借家人は賃料以外の金員の支払いを負担することは賃貸借契約の基本的内容に含まれないところ、本件更新料特約では借家人が家主に対し、契約更新時に賃料の2カ月分相当額の更新料を払うこととされている」と前提事実を確認。「更新料は正当事由(借地借家法28条)の有無に関係なく支払わなければならず、法定更新なら全く支払う必要がないことからすると、借家人にとって大きな負担となる」として、「借家人の義務を加重する特約であるといえる」と説明しています。更新料は無効との判決です。

さらに「信義則に反して消費者の利益を一方的に害している」(消費者契約法10条)とし、「更新料を授受することが慣習化していることを認めるに足りる証拠もない」と述べていました。最も興味深かったのが、更新料の法的性質について以下の4つの視点で検討を加えており、最終的にいずれの性質も認められないと結論付けています。

(1)更新拒絶権放棄の対価

(1)は簡単に言うと、契約更新を妨げないようにしてもらうために借家人が家主へ支払う“心づけ”という意味です。法律上、建物の賃貸借においては、家主が当該物件の使用を必要とする事情(明け渡しの正当事由)がない限り、賃借人は継続して使用することができるようになっています。その点、専ら他人に賃貸する目的で建築された建物で、家主から明け渡し要求される可能性はほとんどないと考えるのが自然です。よって、(1)は合理的理由があるとはいえないとし、対価としては認められないと京都地裁は判示しています。

(2)賃借権強化の対価

(2)も(1)同様、明け渡しの正当事由が認められる可能性はほとんどないという前提のもと、「期間の定めのない賃貸借(家主からの解約申し入れ可)」と「期間の定めのある賃貸借(家主からの解約申し入れ不可)」とで賃借権保護の度合いに実質的な違いはないため、継続居住の確実性が脅かされる心配はないと判示しています。借家人にとっては「期限の定めのない賃貸借」=「家主からの解約申し入れ可能」を避けたいという思いがあることが、その根底にあります。

(3)月額賃料の補充

 本件更新料特約では、更新後の実際の使用期間が長いか短いかに関わらず、賃料の2カ月分を更新料として支払わなければなりません。そのため、更新料を「目的物件を使用収益させる対価」=「賃料の一部として評価する」には無理があると結論付けています。更新料が賃料を補充する性質を有しているとの合理的理由があるとはいえないのです。

(4)中途解約権の対価

 本件賃貸借契約では、家主にも借家人にも中途解約権が留保されており、その対価を借家人のみに更新料という名目で一方的に負担させる合理的理由があるとはいえない、と京都地裁は判示しています。

 こうした理由をもとに、京都地裁は「更新料は無効」と結論付けました。

 更新料をめぐる訴訟はその後も続き、大阪高等裁判所でも「有効」「無効」を二分しました。更新料問題がいかに根深いか ――。裁判官が変わったことで、同じ高等裁判所でも判断が分かれたのです。そして上告の末、ついに最高裁判所まで決着は持ち越されました。

はたして更新料は法的に有効なのか、それとも無効なのか?――。上告審により長らく続いた不動産慣行の常識・非常識に、1つの「解」が示されることとなりました。

後編に続きます。

【このコラムの著者】

平賀 功一

e住まい探しドットコム代表
AFP/宅地建物取引士/管理業務主任者/福祉住環境コーディネーター/住宅ローンアドバイザー/二種証券外務員/マイアドバイザー®

第一不動産グループの住宅販売会社にてマンション販売のプロジェクトを任され、モデルルームの設営から広告代理店との広告やチラシの打合せ、アルバイトの管理、事業主や施工会社との交渉、販売スケジュールの作成、販売収支の管理、契約業務全般などを歴任。三井不動産販売(株)への出向経験あり。
1999年に住宅コンサルタントとして独立し、e住まい探しドットコムを設立。

他のコラム著者も見てみる

不動産投資家によっても違いは様々。
LIFULL HOME'Sが厳選した不動産投資家や専門家のコラムから色々な不動産投資スタイルを吸収してライバルに差をつけよう!

有田宏

シリーズ連載: 不動産投資を始める前に知っておきたいこと・始めた後に確認したいこと

最新コラム: 不動産投資収益率の計算方法

不動産投資NEWS

シリーズ連載: 不動産投資ニュース

最新コラム: 資産運用に関するアンケート!投資経験者の割合は女性より男性の方が高い

髙杉雅紀子

シリーズ連載: 不動産投資を始める前に知っておきたいこと・始めた後に確認したいこと

最新コラム: 田舎の実家を相続することを考えてみる~実家を賃貸にした場合の確定申告~

上井邦裕

シリーズ連載: 不動産投資を始める前に知っておきたいこと・始めた後に確認したいこと

最新コラム: 駐車場への投資を考える

石川 和寿

シリーズ連載: 不動産会社のプロの意見

最新コラム: 賃貸のプロが教える入居者募集の6つのコツ

藤田 博司

シリーズ連載: 不動産投資家が次に着目している民泊投資とは

最新コラム: 民泊の準備で困ったこと

逆瀬川 勇造

シリーズ連載: 不動産投資を始める人のノウハウ

最新コラム: 不動産投資は常に融資との戦い?ローンの基礎知識や流れを解説

LIFULL HOME'S 不動産投資編集部

シリーズ連載: 不動産投資を始める人のノウハウ

最新コラム: 八重洲エリアの再開発で東京駅周辺はどう変わる?【2022年最新事情】

風戸 裕樹

シリーズ連載: 初心者のための東南アジア投資ガイド

最新コラム: 第2章 日本の不動産市場と海外投資(3)

金井 規雄

シリーズ連載: アメリカ・ロサンゼルスで不動産投資 7年で1億円

最新コラム: あとがき

橋本 秋人

シリーズ連載: 実践派コンサルタントが見たFP的不動産投資事情

最新コラム: 結局、「2022年問題」は賃貸市場に影響を与えるのか?

LIFULL HOME'S PRESS

シリーズ連載: HOME'S PRESS編集部

最新コラム: 新たに始まる「住宅ストック循環支援事業」は特色のある制度に

田中 圭介

シリーズ連載: ASEAN地域の海外不動産投資の現状

最新コラム: No.105 フィリピン大統領選による不動産マーケットの変化はあるのか?

佐藤 益弘

シリーズ連載: 不動産投資を始める前に知っておきたいこと・始めた後に確認したいこと

最新コラム: 新型コロナウイルス感染拡大から考える 大家がすべき対応 No.6 住生活総合調査からわかる 現状と未来の不動産投資2

菅井 敏之

シリーズ連載: 誰も教えてくれなかった「銀行」~その傾向と対策~

最新コラム: 【第四回】必ず行っておきたい、銀行との「コミュニケーション」

LIFULL HOME'S不動産投資フェア

シリーズ連載: 2018/9/15+16 投資EXPO出展企業インタビュー

各出展企業インタビュー記事はこちら

LIFULL HOME'S マーケティング部 データ編集担当

シリーズ連載: ユーザーの本音から探る不動産投資

最新コラム: 将来性を秘めた街 『都心』エリア

鈴木 学

シリーズ連載: Withコロナの新・不動産事情

最新コラム: コロナ影響下のアメリカで激安お値打ち物件がなかなか出ない理由!

石渡 浩

シリーズ連載: 不動産投資に有益な融資を受けるための知識

最新コラム: 第4回 税引後キャッシュフロー偏重の盲点 銀行は決算書のここを見る(後編)

北野 琴奈

シリーズ連載: 今後はどうする?不動産投資と資産形成・運用の考え方

最新コラム: 不動産投資を中長期で継続させるには

猪俣 淳

シリーズ連載: 猪俣淳の「不動産投資の正体」

最新コラム: 賃貸併用住宅を建てる時の判断

右手 康登

シリーズ連載: CPM®流「相続・不動産経営 実践術」 右手 康登のコンサル「みぎからひだりへ」

最新コラム: 島国の中での常識 VS グローバルスタンダードを知ることの重要性

末永 照雄

シリーズ連載: 失敗しない不動産投資の法則

最新コラム: 米国不動産投資(2) ― サンディエゴ編

寺尾 恵介

シリーズ連載: 悩める投資家への「目からウロコが落ちる」アドバイス 誌上チャレンジ面談

最新コラム: 36.大家さんと幸せな人生について

伊藤 英昭

シリーズ連載: 伊東英昭氏の不動産投資コラム

最新コラム: vol.13 マンションと高級車

※ No.1表記について:不動産投資ポータルサイトが掲載をする物件数統計 2020年6月時点(フジサンケイビジネスアイ調べ)

※ No.1表記について:不動産投資ポータルサイトが掲載をする物件数統計 2020年6月時点(フジサンケイビジネスアイ調べ)

不動産投資・収益物件を検索するなら【LIFULL HOME'S 不動産投資】賃貸経営[マンション経営・アパート経営]をお考えなら、まずは掲載中の投資物件[投資用マンション・売りアパート・一棟売りマンション]を地域や価格帯、会社で検索して、価格や想定利回りで絞り込み!気になる投資物件を見つけたら物件の周辺情報を調べたり、収益シミュレーションを使って実際の運用をイメージ出来ます。不動産会社へはメールか電話でお問い合わせ・相談が可能です(無料)。不動産投資による資産運用をお考えなら【LIFULL HOME'S 不動産投資】

ページトップへ

情報セキュリティマネジメントシステム国際規格

株式会社LIFULLは、情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格「ISO/IEC 27001」および国内規格「JIS Q 27001」の認証を取得しています。