コロナ災禍にあっても人気が衰えない夢と魔法の王国ディズニーパーク&リゾート。その中の1つ、米フロリダ州オーランドにあるディズニーワールドは今年10月、50周年(1971年開園)を迎えました。振り返ると、わが国日本の東京ディズニーシーも2001年(平成13年)9月4日の開園から今年でちょうど20周年を迎えており、両者、この後1年間にわたってアニバーサリーイベントを開催します。
こうした数あるディズニーパークの中で、そのランドマークとして欠かせないのが「シンデレラ城」でしょう。まさにテーマパークのシンボルであり、ディズニー映画「シンデレラ」にも登場します。義理の母と姉たちにいじめられていた主人公シンデレラが魔法使いの力でドレス姿に変身し、ガラスの靴をはいて悲願の舞踏会へと出席。そのとき王子様に見初められ、妃(きさき)として迎えられるという、文字通りのシンデレラストーリーです。
そのシンデレラが舞踏会へ行くのに使った乗り物が、ご存じ「かぼちゃの馬車」です。魔法使いによって、目の前のかぼちゃは大きな黄金の馬車へと変身しました。こうしたファンタジック(幻想的)な演出はディズニーらしさを象徴する描写であり、まさにハッピーエンドを絵に書いたようなストーリー展開です。
ハッピーエンドにはならなかった女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」
しかし、現実のかぼちゃの馬車はハッピーエンドとはいきませんでした。ここでいう「かぼちゃの馬車」とは女性専用シェアハウスを指し、サブリース事業を展開するスマートデイズが管理・運営していた投資用アパートの名称です。
ここで、改めて一連の騒動を振り返っておくと、皮肉にもかぼちゃの馬車を一躍有名にしたのがスマートデイズの経営破綻です。2018年4月、保証家賃の未払いが積み重なり資金繰りが行き詰まった結果、負債総額60億円余りを抱えて同社は破産手続きへと進みました。
そのスマートデイズの事業は、賃貸経営を始めたい投資家が建築会社とシェアハウスの新築工事にかかる請負契約を締結し、同時に、敷地は土地所有者と当該敷地にかかる売買契約を締結して取得します。そして、完成したシェアハウスの賃貸管理を「サブリース方式」で受託(一括借り上げ)していたのがスマートデイズです。
この枠組みには別途、各当事者を取り持つ販売会社や関連業者が介在しており、加えて、建物と敷地の取得資金を投資家に融資していたのがスルガ銀行です。かつては「地銀の優等生」と評されていた同行ですが、その不正行為は法令順守の観点や顧客保護・顧客本位の業務運営態勢において蛮行・愚行と受け止められ、2018年10月には金融庁から行政処分が言い渡されました。参考までに、同庁による処分理由は次の通りです。
金融庁によるスルガ銀行への行政処分 その主な理由(抜粋)
●関連業者(販売会社)が賃料や入居率について実勢よりも高く想定し、もしくは実績値よりも高い数値に改ざんして不動産評価(割り増し)していた事実を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持っていながらスルガ銀行は多額の融資を実行した。
●関連業者(同)による「自己資金のない債務者の預金通帳の残高の改ざん」「債務者の口座へ所要自己資金の振り込み(見せ金)」「一定の年収基準を満たすよう債務者の所得確認資料を改ざん」「売買契約書の二重の作成」といった不正行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちつつ同行は融資資金を実行した。
●シェアハウス向け融資を含めた投資用不動産融資を実行する際に、カードローン、定期預金、保険商品などの様々な商品を抱き合わせて販売した。
●スルガ銀行の審査部は、営業部門からの要請により資金使途や保有金融資産の確認を事後確認のみで完結させ、また、営業部門の本部長ミーティングでシェアハウス向け融資をほぼ全件承認するなど、同行による融資審査は実質的に形骸化していた。
元凶と化した「サブリース契約」 包囲網を敷くべく賃貸住宅管理業法が成立
事態を重く見た国土交通省も動き出しました。これまでサブリース業者を直接、規制する法律はなく、金融庁・消費者庁・国土交通省が連名で注意喚起するほど、各所でトラブルが多発していました。特に、サブリース方式では家賃保証の契約条件をめぐるトラブルが後を絶たず、社会問題化するほどでした。そこで、悪徳業者の排除に向けて、サブリース業者に行為規制を導入しました。将来、契約賃料が減額されてもトラブルにならないよう、契約前の合意形成に重きを置いた法体系が整備されました。
具体的には「賃貸住宅管理業法」を誕生させ、賃貸住宅管理業を営む一定規模の事業者すべてに登録を義務付けました。また、契約締結前には有資格者に書面を交付して重要事項説明させるようルール化しました。さらに、入居者から預かった賃料を登録事業者の財産や他のオーナーの財産と明確に区分けして管理する「財産の分別管理」も義務化しました。
とりわけサブリース契約の締結に当たっては、実際の契約条件よりも良い条件だと一般消費者に誤認させるおそれのある誇大広告(虚偽広告を含む)を禁止し、同時に不当・強引な勧誘も禁止しました。加えて、登録業者がルール違反した場合には罰金も課せるようにしました。誤解のないよう、サブリース事業を全面否定するわけではなく、トラブルの撲滅や不良業者の排除を通じ、もって健全なサブリース取引環境を整備しようという狙いです。
借地借家法の盲点 借り主保護によってサブリース業者が優位となる矛盾
しかし、登録制度の創設や行為規制だけでトラブルを完全に防ぐのは困難と個人的には考えています。借地借家法上、建物の賃貸借契約では借家人が手厚く保護されるため、「マスターリース契約上の借家人」=「サブリース業者」が建物のオーナー(家主)より保護されるからです。弱者を保護しようという借地借家法の制定趣旨が、思わぬ形で不都合な事実となって良好な取引環境の実現を阻(はば)もうとしています。
その一例が契約の更新です。借地借家法では契約更新の取り決めが厳格に規定されており、期間の定めがある建物賃貸借契約の場合、その期間内は借家人に債務不履行(賃料の不払いなど)がない限り、家主から解約の申し出はできません。無論、期間が満了すれば契約は終了しますが、家主が更新を拒絶するには正当事由が必要となります。換言すると、正当事由がなければ法定更新されるのです。実際、ある訴訟では借家人であるサブリース業者の言い分が認められ、建物の明け渡しと損害金の支払いを求めた家主の請求が棄却された裁判例もあります。
同様、賃料の減額請求においても、借地借家法では「建物の賃料が租税負担や土地建物の価格、経済事情、さらには近傍同種の建物の賃料と比較して不相応となったときは、契約の条件にかかわらず、将来に向かって賃料の増減請求ができる」と定めています。マスターリース・サブリースの両契約において当該規定(借賃増減請求権)が適用されるため、サブリース業者も減額請求できることになります。繰り返しになりますが、借地借家法上、建物の賃貸借契約では「マスターリース契約上の借家人」=「サブリース業者」が建物のオーナー(家主)より保護されるからです。「家賃保証」という謳い文句の信頼性が揺らぎかねないのです。
それだけに、「30年保証」などといったセールストークを鵜呑みにするのは極めて危険といえるでしょう。家賃は不変といった幻想から目を覚まさなければなりません。かなり乱暴な表現になりますが、サブリース契約を過信してはならないのです。法律は決して万能ではありません。最後は自己責任となります。
「かぼちゃの馬車」騒動で露見した借地借家法の不都合な事実を、誕生したばかりの賃貸住宅管理業法がどこまでカバーできるか?―― 成立早々、その真価が問われようとしています。
【関連サイト】(国土交通省)
・サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン
・賃貸住宅管理業法ポータルサイト