不動産は株式やFXなど他の投資方法に比べて、急激かつ大幅に価値が上下することが少ない資産といわれています。「安全資産」と呼ばれることも多いでしょう。
しかしインフレや利率の上昇、ニーズの変化といった市場の変動を無視して不動産投資に取り組んでしまうと、思わぬリスクが生じたり予想通りの利益が出なかったりといった影響が考えられます。
また2020年に東京オリンピックを控えていることもあり、今後の不動産に与える影響が気になる方も多いでしょう。
そこでこの記事では、まず不動産投資に影響を与える要因について解説します。そしてそれぞれの要因について、今後の不動産投資にどのような変化が考えられるのか、見ていきましょう。
不動産投資に影響を与える「内的環境」と「外的環境」
賃貸経営がうまくいくかどうかを左右する要因は、「内的環境」と「外的環境」という2つの環境的要因に分けられます。
内的環境とは家賃や付帯設備といった不動産の内部にまつわる環境を意味し、外的環境は周辺の競合物件やニーズ、人口、経済変動など外部に関わる環境を指したものです。
内部環境はオーナーの裁量である程度対応可能ですが、外的環境はオーナーの努力だけではどうにもならない部分もあるでしょう。
しかし外的環境について知識を深め、常に情報を収集し、できる限りリスクを避けた対応を取ることは可能です。
そこで、ここでは外的環境に焦点を当て、不動産に影響を与えやすい要因について紹介していきましょう。
不動産投資に影響を与える要因とは?
不動産投資に影響を与える外的要因としては、以下のようなものが挙げられます。
・金利の変動
・ニーズの変化
・人口変動
・世界経済
金利の変動
不動産投資に取り組んでいる方にとって、金利の変動は関心の強いトピックといえるでしょう。
なぜなら、日本の中央銀行である日銀が打ち出す金利に沿う形で、あらゆる金融機関が融資の金利を変動させるためです。
不動産投資は金融機関から融資を受けることが多い投資手法です。融資を受けるときの金利が低ければ、それだけ総返済額は小さくなり、キャッシュフローを生み出しやすくなります。
その点、現在の日本は「マイナス金利政策」の導入によって金利が非常に低く設定されているので、不動産投資を始めたい方にとっては追い風が吹いている状況といえるでしょう。
金利が低いと「融資を受けよう」「不動産を購入しよう」といった意欲が増大するので、不動産を購入する人の数が増加します。
需要が増えるため不動産の価値が上昇し、物件価格も上昇します。つまり、低金利の状況下では不動産価格が上昇するという相関性が見えてくるのです。
反対に金利が高い状態では、同じ金額の融資を受けた場合でもローン返済額が大きくなります。「融資を受けよう」「不動産を購入しよう」といった意欲が削がれてしまうことが考えられるでしょう。
結果として需要が減少してしまうので、不動産の価値が低下し、物件価格が安くなる傾向にあります。
物件価格と金利の間には、このような相関関係があることを理解しておきましょう。
ニーズの変化
周辺ニーズは、物件の価値や家賃設定に大きな影響を与える要素の1つです。
例えば、都心の場合駅から近い物件の方がより高い利便性を持ち、物件の価値が高くなるのが一般的でしょう。
その他「学校が近くにあるか」「医療機関やスーパーといった周辺施設は整っているか」「治安はどうか」といった点も重要なポイントです。
例えば、入居者の大半を占めているのが近隣大学の学生だった場合、大学の移転があれば、一気に需要がなくなってしまうことが考えられます。
近隣により設備の整った競合物件が建設された場合も、空室リスクや家賃下落リスクが起きる要因となるでしょう。
このように周辺環境やニーズの変化は、不動産経営に大きな影響を与えます。
周辺ニーズは自分の力では左右しにくい要素なので、投資家が見るべきは「周辺ニーズに応えるにはどのような施策が有効か」という点でしょう。築年数がある程度経過していたり、多少駅から離れていたりしても、周辺ニーズをうまく捉えていれば集客力を維持することが可能になります。
エリアごとの空室率
物件の総数に対して空室率がどのくらいあるのかを知ることは、不動産経営において非常に重要な指針になるでしょう。
空室率が高ければ、その分空室リスクが高いということです。
空室率から、そのエリアのおおまかな需要と供給のバランスを見ることができます。立地が良く人気のあるエリアであっても、供給過多の状態であれば空室率は上がるでしょう。
空室率は、物件の選定の際の重要な指針の1つとなります。
エリアごとの空室率については、ぜひ見える!賃貸経営を参考にしてください。
世界経済
世界経済も不動産投資に大きな影響を与える要素の1つです。
規模の大きな話なので、個人の不動産投資とはかけ離れているように感じてしまいますね。しかし不動産投資は経済変動の影響を受けますし、日本の経済は世界経済の影響を強く受けているといえます。
2008年に起きたリーマンショックがその例です。世界規模で経済が不況に陥り、金融機関が融資を絞ったため、不動産価格が下落しました。
一見すると関連性が見えてきませんが、国内の不動産であっても世界経済に連動して影響を受けるものです。今後の見通しを立てるためにも、国際的なニュースも欠かさずにチェックしましょう。
今後の不動産投資はどうなる?
不動産投資に影響を与える要素について紹介してきましたが、ここからは「今後の不動産投資」に焦点を当てて解説していきます。
実際、今後の経済状況や景気動向、不動産投資の方向性などを明確に予測することは誰にもできません。しかし、ここまで紹介してきた「不動産投資に影響を与える要素」を抑えながら、さまざまな市況・状況を知ることで、少しでも予測を立てることは可能でしょう。
今後日本に起こりうるさまざまなイベントや経済状況、金融政策などから、今後の不動産投資について詳しくみていきましょう。
2020年東京オリンピックの影響
2020年に控えているビッグイベント、東京オリンピック。不動産投資の観点から見ると、投資家にとっては不動産価格の変動が気になるのではないでしょうか。
東京オリンピックの開催が発表された2013年から2019年にかけて、首都圏の不動産価格指数は上昇し続けています。オリンピックの開催に合わせた建設ラッシュやインフラの整備、海外投資家の参入などがその原因と考えられています。
では、東京オリンピック後の不動産市況はどうなるのでしょうか?「オリンピック後には不動産の価格が低下するだろう」という意見も少なくありませんが、果たして本当なのでしょうか?
これは必ずしも「オリンピック終了=不動産価格の下落」とは言い切れないでしょう。
たしかに、オリンピック後に不動産を手放す海外投資家が多くなれば、需要が減り不動産価格に影響を及ぼすかもしれません。
しかし不動産価格は、金利政策などその他のさまざまな要素からの影響も強く受けています。不動産価格指数が上昇している現在の状況は、オリンピックだけでなく、日本の超低金利政策が大きく影響しているともいえます。
不動産価格の推移を見るには、オリンピック以外にも、さまざまな要素に目を向ける必要があるでしょう。
大阪万博など地方都市の活性化
2025年には、大阪万博の開催が決定しています。
東京オリンピックと同様、インフラの整備や周辺不動産の開発、外国人旅行者受け入れのための宿泊施設の拡充など、さまざまな計画が実施されることでしょう。
また2027年の開通を目標に、品川-名古屋間でリニア中央新幹線の工事が進められています。リニア中央新幹線は、その後大阪まで開業する予定です。
このように大きなイベントを控えていたり、インフラ整備が進められたりする地域には、人口流入が起きることが考えられます。その地域の不動産需要が高まることで、地価が上昇するなど、不動産市場が活性化する可能性があるでしょう。
人口増減と空室率
不動産の今後を予測するための重要な手がかりとして、人口の分布率や増減率を考慮することが大切です。
まずは地域ごとの「空室率」を調べてみましょう。現在の需要と供給バランスをある程度把握することができます。LIFULL HOME’Sが提供する見える!賃貸経営がおすすめです。
地域別の空室率を把握したら、次は今後の人口分布や人口増減について情報を集めましょう。
2019年4月に総務省統計局が発表した人口推計によると、日本の人口は2011年から連続で減少傾向にあり、2017年から2018年にかけて総人口の0.21%が減少したと報告されています。
都道府県別でみても東京都・沖縄県・埼玉県など7都県でのみ人口増加が見られたものの、その他40道府県では減少という結果でした。
一方外国人の人口は、2013年以降連続で増加傾向にあります。
人口が減少すれば、当然物件の買い手も賃借人も少なくなります。不動産市場においては、価格下落を引き起こすなど、決してポジティブな要素ではありません。
しかし上記のデータからも分かる通り、人口増減や空室率は地域によってさまざまです。
重要なのは、不動産投資を行おうとする地域の人口増減やターゲット、ニーズをあらかじめ調査し、投資の可否や経営手法を検討することです。今は空室率が高くても、今後人口増加が見込まれる地域や、日本人の人口が減っていても外国人が増えている地域もあるでしょう。
それぞれの地域ごとの特徴を捉えなければなりません。
また、総務省は「全国の将来人口推計結果の概要」において、2065年には日本の人口は8,213万人~9,490万人にまで減少するだろうというデータを公表しています。
人口減少がさらに加速するこれからの日本で不動産投資に取り組むのであれば、人口の増減については強くアンテナを張っておく必要があるでしょう。
単身世帯の増加
2019年3月に東京都が発表した「東京都世帯数の予測」によると、1世帯当たりの人員は2015年時点で1.99人でした。しかし以降連続で減少し、2040年には1.85人に減少すると予測されています。
さらに、2015年に23.5%であった「夫婦と子供」世帯は、2040年には20.7%に減少、一方単独世帯は2015年の47.3%から2040年には51.2%と増加することが見込まれています。
つまり、東京都の全世帯の半数以上が単身者世帯になる見込みというわけです。
単身世帯の増加は東京都で特に顕著に表れていますが、全国的に見ても、1世帯当たりの人員は減少の一途をたどっています。
単身世帯の増加に伴い、今後ますます単身者用住宅の需要が増えることが考えられるでしょう。ただし、世帯構成は地域によってさまざまですので、まずは投資しようとする地域の世帯構成の特徴を理解することが重要です。
さらにここで気を付けたいのが、各自治体が定める「ワンルームマンション開発規制」です。東京23区の場合「30戸以上の集合住宅の場合、2分の1以上を50m2以上の住戸にしなければならない」など、区によって規制が設けられています。注意しましょう。
金融緩和は続くのか?
「超低金利時代」が続く日本ですが、この低金利政策はいつまで続くのでしょうか?
先述の通り、不動産投資と金利変動は切っても切り離せない関係にあります。今後金利の上昇が見込まれるのであれば、購入意欲の減少や不動産価格の下落を引き起こしかねません。
2019年7月、日銀の黒田総裁は、実質金利の引き下げによって需要を喚起するという政策効果がじゅうぶんに出ていることを強調し「強力な金融緩和を続ける」とコメントしています。
インフレの克服には時間がかかるとの発言から、しばらくはこの低金利政策が続くのではと予測されています。
ただし、金利は今後の物価上昇の動きと連動していくものです。今後の景気変動によっては金利上昇に転じることもじゅうぶんに考えられますので、今後の動きに注目する必要があるでしょう。
投資用不動産への融資引き締め
2016年、不動産の供給過剰を懸念した金融庁が、アパートローンの監視を強化すると発表しました。さらに2018年には、スルガ銀行による投資用不動産への不正融資が発覚するなど、アパートローン審査への監視がさらに強化される流れが出てきています。
これに伴い、金融機関の融資審査が厳しくなり、投資用不動産への融資が引き締められるのではと懸念されています。
2019年、金融庁は121の銀行・261の信用金庫・148の信用組合に行ったアンケート調査を公表し、投資用不動産向け融資の実態把握に乗り出しました。
投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果(主なポイント) )
この調査結果によると、銀行の融資態度は2016年には「積極的」が15%だったものが2019年には3%に減少、一方「消極的」は4%から17%に増大しています。信用金庫・信用組合への調査においても、同様の動きが見て取れます。
金融機関が融資に消極的になると、不動産の購入者が減り、購入意欲が低下することで、不動産価格の下落につながる可能性も否定できません。
今後の金融庁、金融機関の動きに注目する必要があります。
アメリカの経済政策の影響
先述の通り、世界経済は日本の経済にも大きな影響を与えます。景気変動の影響を受ける不動産投資も例外ではありません。特にアメリカの経済政策や動向は、日本経済に対して大きな影響力を持っているといえるでしょう。
2019年8月、トランプ米大統領は日本の自動車に対する輸入関税の引き上げについて、「検討していない」とコメントしました。これまで対日貿易赤字への対策を検討してきたアメリカの動きは、日本にとって大きな注目ポイントだったわけです。
しかしここで「アメリカの輸入関税と日本の不動産にどのような関係があるの?」と思う方も多いでしょう。
実は、日本の自動車に対する輸入関税を引き上げるということは、海外での日本車販売が引き締めを受けるということになります。自動車は日本の主力商品であるため、アメリカへの輸出が減少すれば、国内の景気が一気に悪化してしまう可能性があるわけです。
不景気となれば、高額商品である不動産が買い控えの対象になることは、じゅうぶんに考えられます。
現時点では自動車の輸入関税引き上げは検討されていないとのことですが、今後の動きは未知数です。国内の不動産とは全く関わりがないように感じる国際情勢にも、今後注意する必要があるでしょう。
シェアリングエコノミーがさらに拡大
シェアリングエコノミーとは、さまざまなモノ、時間、スペースなどの資産を共有・シェアしようとする考え方やスタイルのことです。
日本でもシェアリングエコノミーは拡大しつつあり、不動産業界においても決して無関係ではありません。シェアハウスやシェアマンション、シェアオフィスは、不動産業界におけるシェアリングエコノミーの1つの形です。
これまでのように家を購入して住み続けたり、事務所を購入・賃貸して事業を営んだりといったスタイルだけでなく、複数の人とシェアしてコストを削減しよう、という潮流が確実に浸透し始めています。
こういった選択肢も加味して物件の価値を見定めると、より不動産の活用の幅が広がるのではないでしょうか。
不動産投資の今後を読み解くためには
不動産投資において、シミュレーションは非常に大切です。物件価格や家賃収入など、今目に見えているものだけでなく「これから見えてくるもの」にも目を向けることで、より高精度のシミュレーションを行うことができるでしょう。
しかし残念ながら、今後の不動産投資がどうなっていくのか、確実に予測することはできません。まずは現状をできるだけ把握し、たくさんの情報と知識を持つことで、今後を予測する思考力を鍛えることが求められます。
この記事で紹介した要素を参考にしつつ、今後の不動産投資について理解を深めてみてください。