不動産投資家の多くは、自己資金だけでなく金融機関から融資を受ける形で日々の投資を行っています。そこで慎重に検討すべきなのが、家賃収入に対して毎月発生する融資の返済比率です。
理想の返済比率の目安はどれくらいなのか、どのように計算すればよいのか、紹介していきます。
不動産投資における返済比率とは?
返済比率とは、物件から得られる家賃収入に対して金融機関へ返済する額が占める割合のことを指します。不動産経営の安全度を示しているということもできるでしょう。
物件購入前に、家賃収入や経費、ローン返済額を含めたキャッシュフローのシミュレーションを行い、収支バランスが健全かどうかの判断をするのが一般的です。この時、返済比率が何%になっているかを見るのは、不動産投資において非常に重要です。
なぜなら、どんなに利回り良い物件を購入できたとしても、返済比率が高い水準である場合、その不動産経営が赤字となってしまう可能性があるからです。
では、返済比率はどのように計算するのか、どれくらいが理想なのかを見ていきましょう。
返済比率の計算方法
返済比率は、
毎月のローン返済額÷満室時の毎月の家賃収入×100=返済比率(%)
という計算式で求めることができます。
家賃収入は「満室時」の金額を使用することに注意しましょう。月々だけでなく、年間で計算することも可能です
仮に、満室時で年間1,000万円の家賃収入があるオーナーが、銀行などの金融機関に対して年間400万円を返済すると、
400万円÷1,000万円×100=40%
この場合の返済比率は、40%ということになります。
ローン返済のシミュレーション方法
ちなみに、返済比率の計算には具体的なローン返済額が必要となります。
すでに融資がスタートしている場合は明確に分かりますが、物件購入前のシミュレーション時の段階では、まだ分かりません。
その場合、各金融機関などが提供しているローンシュミレーターのサービスを利用するとよいでしょう。
物件価格・自己資金・返済期間・想定金利などを入力すると、毎月のローン返済額を計算することができます。
返済期間・金利などはあくまで想定値のため、シミュレーション通りに融資が下りるわけではありませんが、ある程度の目安として利用することができるでしょう。
LIFULL HOME’Sでも、ローンシミュレーターのサービスがありますので、ぜひ活用してください。
返済比率は何%を目安にすべきか
では理想的な返済比率は一体何%なのでしょうか。
各投資家の資産状況や投資目的、物件の種類によって差はあるものの、不動産投資初心者が目指すべき理想的な返済比率は40~50%程度といわれています。
ローン返済以外に係るさまざまな費用や、空室が出た場合の収益減のリスクに備えるためです。
返済比率50%のケースを具体的に計算してみましょう。
月々の満室時家賃収入 | 100万円 |
経費(家賃収入の20%) | 20万円 |
想定される空室(家賃収入の15%) | 15万円 |
月々のローン返済額(返済比率50%) | 50万円 |
残額 | 15万円 |
例えば、満室時に月100万円の家賃収入がある物件において、空室率15%、経費20%を想定し、返済比率50%を当てはめます。すると、差し引き15万円がオーナーの毎月の収入(残額)となります。
LIFULL HOME’Sが提供する全国の賃貸用住宅の空室率一覧を見ると分かる通り、東京都でも15%前後の空室が出ています。
毎月必ず満室経営ができる物件はなかなかありません。10~15%程度の空室損は想定しておきましょう。
また、修繕費・管理費などの費用や、固定資産税など各種税金がかかってくるため、経費分もしっかり考慮しなければなりません。
このように、返済比率を理想とする50%に想定すると、経費・空室損などを加味しても手元にじゅうぶんな収益を残すことができるというわけです。
想定外の経費が発生したり、空室が20%に増えてしまったりした場合でも、赤字にすることなく経営を維持できる可能性が高まるでしょう。
返済比率が高いとどうなる? 計算シミュレーション
自分が受けた融資を少しでも早く完済したいという思いから、返済比率を高めに設定したいと考えるオーナーも少なくありません。
では、返済比率を60%に上げたケースをシミュレーションしてみましょう。
月々の満室時家賃収入 | 100万円 |
経費(家賃収入の20%) | 20万円 |
想定される空室(家賃収入の15%) | 15万円 |
月々のローン返済額(返済比率60%) | 60万円 |
残額 | 5万円 |
月々オーナーの手元に残る収益は5万円となりました。
「赤字ではないのだから、これでもよいのでは?」と思う方もいると思いますが、これはいざという場合に対応できない可能性があり、危険な水準といえます。
返済比率が高いことによってどのようなリスクがあるのか、見ていきましょう。
想定外の費用に対応できない
不動産は現物資産であるがゆえに、さまざまな補修や修繕が必要となります。特に一棟所有の場合、各戸ごとの修繕から建物全体のメンテナンスまで、維持コストも多岐にわたります。さらに物件が古ければ古いほど、こうしたコストは総じて高くなりがちです。
返済比率を高く設定すると、手元に残る資金が少なくなるため、こうした費用を捻出しづらい状態に陥ってしまう危険性があるでしょう。突発的な補修など、想定外の費用に対応することも難しくなります。
想定以上の空室に耐えられない
絶えず空室のリスクが発生することも、考慮すべき大事な要素です。
上記のシミュレーションですでに15%の空室損が加味されていますが、もし想定以上の空室が出てしまった場合、一気に経営がマイナスとなる危険性があります。
さらに空室が続くと、家賃収入が減少しているにも関わらず、金融機関への返済比率は高いままとなっているため、お金のやりくりがひっ迫せざるを得ません。資金ショートし返済が滞れば、不動産投資そのものを継続することが難しくなる可能性もあるということです。
金利上昇リスクに対応できない
全期間固定金利でローンを組んでいない限り、いずれ金利が上昇する可能性があります。
日本は長らく低金利政策が続いているため、ローンを組んだ当初は金利水準も低く、返済比率が高くてもなんとか持ちこたえられるかもしれません。
しかし、今後の景気変動によっては金利が上昇する可能性はじゅうぶんに考えられます。低金利の状態ですでに返済比率が高い場合、金利が上昇したらさらに返済比率は上がります。
月々手元に残る収益が減るどころか、マイナスになる危険性もあるでしょう。
返済比率が低いとどうなる? 計算シミュレーション
逆に返済比率を低く設定するとどうなるのでしょうか。実際に計算してみましょう。
月々の満室時家賃収入 | 100万円 |
経費(家賃収入の20%) | 20万円 |
想定される空室(家賃収入の15%) | 15万円 |
月々のローン返済額(返済比率35%) | 35万円 |
残額 | 30万円 |
返済比率50%と比べても、手元に大きな収益が残ることが分かりますね。
しかし、実際これだけ低い返済比率を実現するのは非常に難しいといわれています。
よほどの自己資金を投入するか、よほど優良な物件を購入する、もしくは相当な好条件で融資を受けるなどの条件を複合的に実現させる必要があるでしょう。
返済期間を延ばして月々の返済額を抑える方法もありますが、返済期間が長くなればなるほど生じるリスクもあります。
経年劣化による空室リスクや家賃下落リスクがその一例です。当初の返済比率が低くても、利益が減少してしまったら将来的な返済比率は上昇してしまいます。
また、完済するまでの期間が長くなるため、2件目、3件目と資産を拡大するスピードが落ちる可能性もあります。融資を完済していれば、その物件を担保に新たな融資を受けることができるかもしれません。しかし、残債が多く残っていた場合、融資審査に不利になる可能性があるでしょう。
今現在の返済比率だけでなく、将来的なリスクや10年後、20年後の収支バランスまで考慮し、適切な返済比率を設定することが大切です。
返済比率を下げる方法
不動産経営の安全度が高いとされている返済比率40~50%。この数値を実現するために、返済比率を下げる方法があります。
それぞれ詳しく解説していきましょう。
自己資金を投入する
頭金として自己資金を投入し、融資額を抑えるという方法があります。トータルの融資額が減れば、それに係る金利分も減り、月々のローン返済額を抑えることが可能になるでしょう。
しかし、自己資金の投入には注意が必要です。
先述の通り、現物資産である不動産には、突発的な補修・修繕が必要になったり、想定以上の空室で収益が落ちたりするなど、何が起こるか分かりません。
いざという時に対応できる手持ちの資金をじゅうぶんに確保しておくことが重要です。
頭金に自己資金を回しすぎて、いざという時の手持ちがないという状況にならないよう注意しましょう。
繰り上げ返済をする
こちらも自己資金投入の1つの方法です。
ローン返済期間中に、前倒しでローンを返済することを繰り上げ返済といいます。繰り上げ返済実施以降、月々のローン返済額を減らす方法と、月々の返済額はそのままに返済期間を短くする方法があります。
月々の返済額を減らす方法を取れば、返済比率を抑えることができるでしょう。
ただし、繰り上げ返済には手数料がかかる場合が多いですので、ご注意ください。
返済期間を延ばす
先述の通り、できるだけ返済期間を延ばすことで月々の返済額を抑え、返済比率を下げるという方法もあります。
ただしローン審査の基準は、物件の耐用年数や金融機関の物件評価によるものなので、個人の希望が必ずしも通るとは限りません。
運用中にどうしても返済期間を見直したいという場合、他の金融機関に借り換えを相談してみるのもよいでしょう。
金利を抑える
金利は月々の返済額、つまり返済比率に大きな影響を及ぼします。
複数の金融機関にローン審査を申し込み、できるだけ金利の低い金融機関でローンを組むようにしましょう。
返済期間の見直しと同様、運用後に借り換えによって金利を見直してみるのも1つの手です。
返済比率は変化するもの
返済比率について、1つ注意しなければならないことがあります。
それは「返済比率は変化するものだ」ということです。
例えば、物件購入前に算出した返済比率は、あくまでその時点での返済比率です。金利上昇・家賃下落などによって、将来的な返済比率は大きく変動しているかもしれません。
また、いくら返済比率が安全な範囲にあるとしても、修繕費や空室率の上昇によって賃貸経営の安定度が下がってしまうこともじゅうぶんに考えられます。
将来的な返済比率や、費用などその他の要因を含めて、トータル的に経営の健全度を計る必要があることを覚えておきましょう。
LIFULL HOME’Sでは、投資物件ごとに自己資金や想定家賃収入、管理費、支出などを設定することで、収支バランスのシミュレーションを無料で調べることができるサービスを展開しています。
参照: LIFULL HOME’S 不動産投資(物件情報を開くと、下部に「収益シミュレーション」のタブが出てきます。)
こうしたツールを活用すれば、簡単にシミュレーションすることができます。購入前はもちろん、購入後も常に返済比率や収支バランスの動向をチェックするようにしましょう。
不動産投資に返済比率は非常に重要!
健全な不動産運用には、適切な返済比率の設定が重要であることをご理解いただけたでしょうか。特に不動産投資初心者にとって、返済比率は賃貸経営の安全度を手っ取り早く判断できる重要な指標になります。
また返済比率は現時点の数字だけではなく、未来のことも想定する必要があります。シミュレーションソフトなどを利用し、適切に算出しましょう。