資産運用の代表的なものといえば、株式投資と不動産投資を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし両方に興味があるものの、具体的にどのような違いがあるのかをしっかり理解している人は少ないかもしれません。
そこで不動産投資と株式投資、両方の特徴をさまざまな角度から比較してみましょう。それぞれのメリットやリスクを理解しながら、自分にあった投資方法はどちらなのか検討してみてください。
そもそもなぜ投資をする必要があるのか?
投資は資産運用の方法の1つであり、資産を増やすために行うものです。
しかし一方で、投資には元本割れや運用の失敗による赤字のリスクもあります。なぜそのようなリスクがある投資をわざわざする必要があるのでしょうか。
生命保険代わり、相続対策などさまざまな理由が挙げられますが、中でも大きな投資理由として挙げられるのが「老後資金」です。
老後2,000万円問題
「老後2000万円問題」という言葉をご存知でしょうか。
金融庁が2019年6月に発表した「高齢社会における資産形成・管理」にまつわる報告書内で明示されたもので、世間でも話題になりました。
報告書には、年金だけでは老後の生活を賄うことができず、65歳以上の無職の夫婦がその後30年生活するとした場合、2,000万円が不足するだろうという試算が示されています。
退職時までに大きな貯蓄を用意しておく、または仕事を継続するなど何らかの対策がなければ、通常の生活ができないだろうと見込まれているわけです。
老後にこれだけのお金を用意するためには、より効率的にお金を活用する必要があります。資産寿命を延ばすためにも、資産を合理的に活用する投資の重要性は、ますます高まっているといえるでしょう。
代表的な投資手法
代表的な投資商品として、以下の5つが挙げられます。
株式投資が最もハイリスクであり、不動産投資、債券、貯蓄・保険といった順番でリスクが下がっていくのが一般的です。
株式投資
企業が発行した株式を投資家が購入することで、その企業に資金を提供するという仕組みです。資金を受けた企業はそのお金で事業活動を行い、そこで得た収益を投資家に配当したり、株主優待などのサービスを提供したりします。
その他、株式の売買によって売却益を得ることも可能です。
不動産投資
不動産を購入してオーナーとなり、購入した不動産を入居者に貸し出すことで家賃収入を得る投資方法です。
購入時より高い金額で物件を売却することで、売却益を得ることができるケースもあります。
債券投資
国や地方公共団体、企業などが投資家からお金を借りる時に発行する証書を「債券」といいます。投資家はこの債券を購入・保有し、その間利息という形で収益を得ることが可能です。
国が発行した債券は「国債」、地方公共団体が発行したものは「地方債」、企業が発行したものは「社債」と呼ばれます。
株式ほどの高い収益は期待できないものの、預貯金よりは高い利率が設定されることが多いでしょう。
貯蓄・保険など
銀行に預金したり、保険を積立として活用したりすることも、投資の一種です。金融機関に預けることで利息が発生したり、積み立てていた保険がプラスになって戻ってきたりするため、貯蓄や保険も金融商品の1つといえます。
リスクが極めて少ない金融商品ですが、利率は非常に低く、大きな収益性は期待できないでしょう。
海外投資
ここまで挙げた4つの投資商品には、それぞれ国内だけでなく海外向けの商品もあり「海外株式」または「外国株式」、「外貨建て保険」などと呼ばれます。外国不動産への投資も可能です。
いずれも為替の影響を受けるため、国内投資よりも価格変動が大きいといえるでしょう。また海外の場合、情報収集が難しく、国内投資よりもリスクが高い傾向にあります。
投資におけるリターンとリスクとは
投資を検討する場合、その投資手法のリターンとリスクについて考えることは非常に重要です。リターンとリスクについて、今一度基礎知識を整理しておきましょう。
リターンについて
リターンとは、投資をした結果得られる収益、または損失のことです。収益がでればプラスのリターン、損失が発生した場合はマイナスのリターンと呼ばれます。
また、資産を保有していることで安定的に得られる収益を「インカムゲイン(運用益)」といいます。株式であれば配当金、債券であれば利息、不動産であれば家賃がインカムゲインです。
一方不動産や金融商品を、購入した時よりも高く譲渡することで得られる収益を「キャピタルゲイン(売却益)」といいます。
リスクとは
リスクという言葉は「不確実性」を表します。
プラスとマイナスの値動きの幅が大きければハイリスクな投資、その幅が小さければローリスクな投資といえます。
株式は大きくプラスになることもあれば、大きくマイナスになることもあるため「ハイリスク・ハイリターン」な投資といえるでしょう。
逆に預金の場合、大きな収益が期待できない代わりに、元本割れする可能性は極めて低く「ローリスク・ローリターン」な投資といえます。
リターンとリスクは相関関係にあります。大きなリターンを得る可能性がある商品は、大きな損失を受ける可能性があり、逆もまた然りということです。
不動産投資と株式投資の違い
多くの投資手法の中で、よく比較に挙げられる不動産投資と株式投資に焦点を当ててみましょう。それぞれの投資の違いは、以下のようにまとめることができます。
不動産投資 | 株式投資 | |
インカムゲイン | 入居者からの家賃収入 | 企業から還元される配当金 |
キャピタルゲイン | 購入時よりも不動産価格が値上がりした状態で譲渡した場合の売却益 | 購入時よりも株価が値上がりした状態で譲渡した場合の売却益 |
リスク | ・不動産価格下落リスク ・空室リスク ・家賃下落リスク ・災害リスク ・金利上昇リスク ・住民や近隣との人的トラブル | ・元本割れのリスク ・値動きが大きい |
流動性 | 低い | 高い |
取引方法 | 売り手と買い手の直接契約 | 株式市場での取引 |
利回り | 平均5%前後(※1) | 平均2~3%程度(※2) |
(※1)一般財団法人「日本不動産研究所」が発表した~「第41回不動産投資家調査」の調査結果によるもの。東京都と主な政令指定都市における賃貸住宅の期待利回りの数値。
(※2)JPX(日本取引所グループ)が公表している一部上場銘柄の2020年1月~4月加重平均利回りの数値。
それぞれの項目について、詳しく解説していきます。
リターンの違い
表にある通り、不動産投資のインカムゲインは毎月安定的に入ってくる家賃収入が該当します。
株式投資の場合、保有する株式の数に応じた配当金がインカムゲインです。株式投資においては、配当金以外に株主優待などのサービスが受けられる銘柄もあります。
また、どちらも保有する不動産・株式を、購入時よりも高い金額で売却することができれば、その差額が売却益、キャピタルゲインとなります。
リスクの違い
不動産投資は、現物資産への投資です。そのため、株式とは違うリスクが存在します。
代表的なリスクは、空室によって収益が入らなくなるリスクです。また近隣の競合物件や老朽化によって家賃が下落し、収益が下がるリスクも考えられます。その他、台風・地震などによる災害リスク、ローン金利が上昇することで支出が増えるリスク、家賃滞納や騒音などの人的トラブルもあるでしょう。
一方株式投資の場合、主なリスクは元本割れのリスクです。株式投資を行う投資家の多くは、配当金だけでなく、株式の値動きによって売買を繰り返すことで収益を上げるのが一般的です。
株式は、企業の不祥事や業績悪化、経済変動などの影響を受け、大きく値が動く可能性があります。売却時期を間違えると大きな損失が出たり、最悪の場合株式の価値がゼロになってしまったりするリスクも考えられるでしょう。
流動性の違い
株式は株式市場を通して購入・売却ができるため、流動性が高いといえます。売り手も買い手も多く、現金化しやすいのが特徴です。国内株式であれば、一般的に売却後数日で出金が可能になります。
一方不動産投資は、売り手と買い手が1対1で直接やりとりをする相対取引のため、売買に時間がかかるケースが多いです。立地や物件の状態よってはすぐに売り先が見つからないこともあり、株式投資に比べると流動性が低いといえるでしょう。
また物件購入時においても、実際に収益を得るまでに、さまざまな過程を挟まなければなりません。物件探し、ローン審査、売買契約、入居者募集など、数か月を要することもあります。
取引方法の違い
先述の通り、不動産投資は、物件の紹介や手続きにおいて不動産会社を仲介するものの、基本的には売り手と買い手が直接売買契約を結びます。売り手と買い手、お互いが条件を出し合い、合意したうえで契約成立となるわけです。
一方株式投資は、株式市場を通して売買を行います。証券会社で口座を開き、入金すればすぐに株式の購入が可能です。
利回りの違い
表に挙げた通り、不動産投資の平均利回りは5%程度、株式投資の加重平均利回りは2~3%程度となっています。
ただし、これはあくまで平均値です。不動産投資の場合、築古物件を安く購入しリフォームすることで、20%を超えるような利回りを実現している投資家もいます。反対に、物件価格の高い新築物件などを運用している場合、もっと低い利回りで推移することもあるでしょう。
利回りは、投資対象や各投資家の経験値などによっても大きく変動するものです。平均値だけで判断せず、各投資家が行おうとしている投資の種類や対象に沿って入念にシミュレーションし、より現実的な利回りを算出するようにしましょう。
株式投資と不動産投資のメリット・デメリット比較
ここまで述べてきたことを踏まえて、株式投資と不動産投資のメリット・デメリットを比較してみましょう。
メリット | デメリット | |
不動産投資 | ・長期的かつ安定的な収益が期待できる ・節税効果がある ・給与所得などと損益通算ができる ・相続税対策になる ・管理会社に委託することで投資家の手間を省ける ・経済変動の影響を受けにくい ・融資を受けることができる | ・初期投資費用が高い ・流動性が低い ・売買に時間がかかる ・維持管理費がかかる ・分散投資には大きな資金が必要 ・短期で大きく儲けることは難しい ・災害リスクがある ・入居者トラブルに巻き込まれる可能性がある |
株式投資 | ・低額で始めることができる ・投資の開始方法が簡単 ・場合によっては短期間で購入価格の数倍の利益を得られることもある ・分散投資が可能 ・流動性が高い ・維持管理の費用、手間がかからない | ・元本割れなどのリスクが高い ・企業の倒産により株式の価値がなくなるリスクがある ・融資を受けることができない ・常に値動きをチェックしなければならない ・値動きの頻度や幅が大きく、予想が立てにくい ・経済変動の影響を受けやすい ・節税効果は期待できない |
値動きの頻度が激しく、予想を立てることが難しい株式投資に比べると、不動産投資の方が将来起こり得るリスクに対して対策を立てやすいといえるでしょう。
しかし一方で、不動産投資は株式投資のように簡単に分散投資を行うことはできません。不動産投資における分散投資は、複数の物件を複数の地域に所有することです。それによって、災害などで全資産が一気に損害を受けることを防ぐことができます。しかしそのためには、一件目の物件を完済して担保にする必要があります。
多くの時間と費用が必要になるでしょう。
どちらにもそれぞれメリット・デメリットがあります。どちらがいい悪いではなく、自分の投資スタイルや目指すゴールにより合った投資手法を選ぶことが重要です。
不動産投資のメリット・デメリットについては、以下の記事に詳しく載っていますので、ぜひ参考にしてください。
不動産投資の魅力
不動産投資入門者のための基礎知識~5つのリスクと初心者お勧め物件~
あなたは不動産投資と株式投資どちらに向いている?
これまで不動産投資と株式投資を比較し、それぞれの特徴やメリット・デメリットを見てきました。ではこれらを踏まえ、実際どのような人が不動産投資・株式投資に向いているのでしょうか。
まずは表にまとめてみましょう。
不動産投資に向いている人 | 株式投資に向いている人 |
・長期的な目線で、安定的な収益を求める人 ・老後の年金代わりとして収益を得たい人 ・節税効果や相続税対策が必要な人 ・積極的に事業に関与したい人 ・日々値動きをチェックするような時間、手間をかけたくない、もしくはかけられない人 | ・短期的に儲けを出したい人 ・大きな儲けを出せる可能性が欲しい人 ・少額から始めたい人 ・できるだけ早く投資をスタートしたい人 ・分散投資したい人 ・素早く換金したい人 |
では次に、具体的に説明していきましょう。
不動産投資に向いている人
株式に比べると値動きが緩やかで、経済変動の影響を受けにくい不動産投資は、長期的かつ安定的な収益を求める人に向いているでしょう。老後の年金の上乗せとして活用することも期待できます。
ただし、初期費用としてある程度の自己資金が必要です。また、短期的に大きな儲けを出すことは期待できないため、長期的な目線で取り組める人にお勧めといえるでしょう。
また、将来のリスク対策や入居者に魅力的な物件づくりなど、オーナーとして積極的に事業に関わることができます。よほどの割合で株式を保有しない限り、事業に口出しできない株式投資との、大きな違いといえるでしょう。
副業として投資を行うサラリーマンの方にも、不動産投資はお勧めです。安定的な給与があれば、ローン審査にも通りやすいといわれています。株式のように日々の値動きをチェックする手間もかかりません。
株式投資に向いている人
株式投資は、不動産投資に比べて値動きが激しく、業績や経済情勢によって一瞬で乱高下することがあります。
常に相場を見て、何か動きがあったらすぐに対応する必要があるため、他に本業のある方には難しいかもしれません。
しかし、自己資金が少なく少額からスタートしたい人や、すぐに投資を始めたい人、分散投資したい人には株式投資が向いています。また大きなリスクがあっても、より大きな儲けを狙いたい場合、不動産投資よりも株式投資の方が投資スタイルに合っているでしょう。
まとめ
リスクが高いものの、大きな儲けを得る可能性のあるハイリスク・ハイリターンな株式投資と、さまざまなリスクがあるものの対策を取ることが可能で、比較的収益の安定したミドルリスク・ミドルリターンな不動産投資。
どちらの投資が向いているかは、各投資家のスタンスや本業との兼ね合いによって異なります。投資の目的は何なのか、どのようなアプローチで収益を得ようとしているのか、各自の投資スタンスを明確にし、適切に選択するようにしましょう。