不動産投資を始めるには、収益物件の購入や手続きに必要な諸費用など、多額の資金が必要になります。そのため、ローンを利用することが一般的でしょう。
不動産投資目的で多くの方が利用するローンが「アパートローン」です。アパートローンは金融機関によって融資条件や金利が異なります。そのため「資金をどこからどう借りるか」で月々のキャッシュフローやトータルの返済総額に大きな差がつき、ひいては投資の成功・失敗に関わってくるのです。
そこで今回は、自分の状況に合ったアパートローンの選び方について解説します。融資審査を有利に進めるポイントも解説していますので、しっかり押さえておきましょう。
アパートローンとは?
アパートローンとは、賃貸経営に特化した事業用ローンで、不動産投資ローンやマンションローンとも呼ばれます。「アパートローン」という名称ですが、アパートに限らず、マンション・戸建て・テナントなど、不動産投資全般に利用できます。
利用目的は、投資用物件の購入や建築・リフォーム資金で、最初に融資契約を結んだ金融機関からの借り換えに利用することも可能です。
審査には、不動産の担保価値と収益性に加え、契約者の属性が加味されます。保証会社を利用するため、融資にあたり保証人が必要とされない場合が多いです。また、ある程度融資内容が定められているパッケージ型のローンであるため、融資決定までの時間が比較的短く済むという特徴があります。
住宅ローンとの違い
アパートローンと同様、不動産取得を目的としたローンに「住宅ローン」があります。
住宅ローンは、自己もしくは親族が居住するための住宅取得を目的としたローンで、収益不動産の購入には利用できません。(条件を満たす賃貸併用住宅を除く)
アパートローンと住宅ローンは、投資目的や返済原資が異なるため、審査内容、金利、年齢制限などが異なります。
アパートローンと住宅ローンの違いについては、こちらの記事に詳しく解説されています。ぜひ参考にしてください。
不動産投資ローンと住宅ローンの違いと5つの金融機関の特徴
投資用不動産ローンのメリットは?~住宅ローンとの違いや金利の目安~
プロパーローンとの違い
不動産投資目的で利用できるローンには、アパートローンの他に銀行が独自に融資を行う「プロパーローン」があります。
プロパーローンは事業全般に関して融資が受けられるローンで、融資条件や審査内容が個別に設定されるオーダーメイド型のローンです。保証会社を介在しないため、一般的に連帯保証人が求められる点がアパートローンと異なります。案件ごとに個別の審査となるため、審査には時間を要することが多いでしょう。
不動産担保ローンとの違い
これから購入しようとする投資用物件を担保に融資を受けるアパートローンに対し、すでに所有している住居や土地を担保にお金を借りることができるのが不動産担保ローンです。
また、アパートローンは投資用物件の購入費用に用途が限定されるのに対し、不動産担保ローンで受けた融資金の用途には制限がありません。ただし、投資目的や事業性費用のための借り入れは対象外とする金融機関もあるため、注意しましょう。
アパートローンの選び方・組み方のポイント
不動産投資では、キャッシュフローが大きい、つまり手元に残っているお金が多いほど健全に運営を行うことができます。たとえ収益性が同等の物件であっても、キャッシュフローが確保できなければローンの返済が滞り、最悪の場合は物件を手放さなければならなくなることもあります。
このキャッシュフローに大きな影響を与えるのが「ローン返済」であり、ローン返済の内容を決定するのが「融資条件」です。
アパートローンは、金利はもちろんのこと、その他の融資条件も金融機関によってさまざまです。どのような点に気をつけてローンの選択・設定をしたらよいか、理想とされる融資条件について見ていきましょう。
融資金額
金融機関によって融資金額の上限は異なります。
昨今の過剰融資問題から融資の締め付けが続いており、フルローンやオーバーローンでの融資は不可能ではないものの、かなり厳しくなっているといえるでしょう。
融資額は物件の購入金額の80~90%以内とする金融機関が多いです。
金融庁が2019年3月に公表した「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」によると、物件購入金額の一部を契約者の自己資金で賄わせていると回答した金融機関は7~8割程度に上りました。
つまり、アパートローンを組む際には、20%程度の頭金を入れることを前提に考えておかなければならないといえるでしょう。
仮にフルローンやオーバーローンが利用できる場合でも、家賃収入に対するローンの返済比率は40%~50%程度を目指すことをお勧めします。理想とされる返済比率を超えてくると、じゅうぶんなキャッシュフローを確保できなくなる可能性が高いため、注意しましょう。
不動産投資における返済比率については、不動産投資における返済比率の目安は?_理想の返済比率計算シミュレーションに詳しく解説されています。ぜひ、併せて読んでみましょう。
また、株式会社MFSが約2,000人のサラリーマン投資家を対象に、2020年2月に行った不動産投資ローンの借り換えに関する調査によると、借入額に対する全体の平均年収倍率は11.8倍。年収倍率8倍までの融資事前承認率は40%程度であるのに対し、年収倍率15倍以上の借り入れに対する承認率はほぼ0%という結果でした。
つまり一般的には、融資可能額は個人年収の8~10倍程度であるということができるでしょう。
融資期間
アパートローンは法定耐用年数をもとに、最長で30~35年程度の借り入れが可能です。不動産投資は基本的に長期の融資を受けて運用していくものですが、金利負担を考えて融資期間を短くしたいと考える人もいるのではないでしょうか。
融資期間を短くすると支払総額は抑えられるものの、月々の返済額が大きくなり、キャッシュフローは厳しくなる傾向があります。もし空室期間が長引いたり、修繕など大きな出費が必要になったりすると、自己資金を投入しなければならないこともあるため、融資期間の設定には注意が必要です。
一方融資期間を長く取った場合、月々の返済額が下がるため、家賃収入からローンを返済しても余裕が残ります。余剰分はプールしておいて、大きな出費に備えることも可能です。
融資期間は、修繕費用や空室リスクなどを想定した上で、無理のない範囲で決めるようにしましょう。
固定金利・変動金利の選択
アパートローンは、当然のことながら金利が低い方が総返済額は少なくなります。固定金利と変動金利のどちらを選ぶかによって借り入れ期間中の金利や総返済額が変わってくるため、よく検討することが重要です。
変動金利は、途中で金利が上昇するリスクはありますが、固定金利よりも低い利率が設定されていることが多い点がメリットといえるでしょう(金利情勢や金融機関によって異なります)。返済の早い段階で元本を減らすことができるので、将来的に金利が上昇したとしても返済総額では固定金利より有利になる可能性があります。繰り上げ返済することで、金利上昇リスクをカバーするという対策を取ることも可能です。
一方固定金利は、固定金利特約期間中は金利の変動を受けないため、資金計画が立てやすいというメリットがあります。しかし、繰り上げ返済に対して違約金が設定されている、特約期間中は変動金利に変更できないといったデメリットにも注意しなければなりません。
返済方法
ローンの返済方法には、毎月の返済額が一定となる元利均等と、毎月の返済額のうち元金部分が一定となる元金均等があります。
元利均等の場合、返済当初は返済額の中で利息分が占める割合が高く、元本が減るのに時間がかかります。返済総額は元金均等より高額になりますが、返済額が一定のため返済計画を立てやすいというメリットがあります。また利息分は経費計上できるため、運用が軌道に乗り始めるまでの間により多くの節税メリットを受けることができるでしょう。
一方元金均等は、元利均等に比べて元本が早く減っていくため返済総額では有利ですが、返済開始時の支払い額が大きくなります。ただし完済に向かい返済額も減少していくため、長期運用に伴う家賃下落リスク対策として役立つ側面もあるでしょう。
借入額5,000万円、返済期間30年、金利年2.5%での元利均等返済と元金均等返済をシミュレーションしてみます。毎月の返済額と返済総額の差は以下の通りです。(金利変動・諸費用は除く)
毎月の返済額(円) | 返済総額(円) | ||||
1年目 | 10年目 | 20年目 | 30年目 | ||
元利均等 | 197,560 | 197,560 | 197,560 | 197,533(※) | 71,121,573 |
元金均等 | 243,054 | 208,622 | 173,900 | 139,498 | 68,802,026 |
(※支払い最終回の端数調整のため、金額がずれています)
元利均等・元金均等は、ローン商品によって選択できる場合と指定される場合がありますので、融資条件を確認しておきましょう。
団体信用生命保険(団信)の有無
不動産投資ローンには、住宅ローンと同様に契約者の万が一に備えて団信が用意されています。団信に加入した場合には、0.1~0.3%程度(金融機関により異なります)の金利が上乗せされるのが一般的です。
ローン商品によっては加入が必須なものと、契約者が加入するかどうかを選べるものがあり、中には金融機関が保険料を負担してくれる場合もあります。事前に、取扱いについて確認しておきましょう。
団信に加入しておけば、契約者が万が一の際には残債の支払いが免除され、かつ不動産を手元に残すことができます。
しかし、相続税対策で保有する場合には注意が必要です。団信により負債となるローンがなくなると、債務控除の対象とはならず、相続税の課税対象額から差し引かれることがなくなります。そのため、相続税額が大きくなるというデメリットが発生する可能性があるでしょう。
相続税対策として不動産投資を行う場合には、あえて団信をつけないという選択について、じゅうぶん検討する必要があります。
その他金融機関によっては、ガン特約などを付けた団信を扱っているケースもあります。必要に応じて検討してみるとよいでしょう。
保証料の有無や各種手数料
先述の通り、アパートローンにおいては保証会社を利用するのが一般的です。保証会社の利用には保証料がかかりますが、契約者負担か金融機関負担かは、融資を受ける金融機関により異なります。保証料が必要な場合、金融機関によって保証開始時に一括して支払う方法と、金利に上乗せして支払う方法がありますので、事前に確認しておきましょう。
なお繰り上げ返済を行う際、保証料を一括で支払っている場合は、過剰分が返金されます。ただし、返金にかかる事務取扱手数料がかかりますので、注意しましょう。
その他、繰り上げ返済にかかる手数料や条件変更手数料など、金融機関によってさまざまな手数料がかかりますので、事前によく確認することをお勧めします。
アパートローンで審査を有利に進めるポイント
アパートローンの審査は、収益性・担保価値・属性の3つによって決定されます。融資審査を有利に進めるために、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
事業計画書で収益性を明確化する
アパートローンの審査では、事業計画書や物件資料などを基に、長期的な収益性が見込めるかどうかが評価されます。
これらの提出資料は再度金融機関側で精査されることが一般的ですので、単に楽観的な数字でまとめても融資成功にはつながりません。リスクも含めた根拠のある数値を用いて、信頼性の高い事業計画書を作成しましょう。
物件独自の差別化ポイントがある場合には、数字として明確化できるように周辺調査などを行った上で、事業計画書に反映させることがお勧めです。
複数の金融機関を比較検討する
アパートローンはさまざまな金融機関が取り扱っており、それぞれ金利や融資条件が異なります。
一般的には低金利など好条件であるほど、物件評価や契約者の属性に対する条件が厳しくなると言われています。しかし実際の判断基準は金融機関に委ねられており、思わぬところから融資OKの返事をもらえる場合もあるでしょう。
よりよい条件で融資を受けることができるよう、複数の金融機関に打診し、融資条件の比較を行うことが重要です。
不動産会社やハウスメーカーにおいて、金融機関との提携ローンを取り扱っているケースもあります。提携ローンの場合、店頭金利よりも有利な金利で融資が受けられるケースがあります。
また事前に販売物件の審査が済んだ状態で提携しているため、融資審査がスムーズに進むというメリットも期待できるでしょう。
提携金融機関を複数紹介してもらえる場合、自身が口座を持っている金融機関だと審査が有利になる可能性があります。
個人属性を高めておく
アパートローンは、物件の収益性・担保価値と共に、契約者の属性も審査に影響します。年収だけでなく、勤続年数や保有資産、家族構成などさまざまな面で評価されます。
特に、借り入れ状況には注意が必要です。住宅ローンや車のローンを含め、他に借入額がないことが最も理想的でしょう。もし他に利用しているローンがある場合、繰り上げ返済などを利用して借入額を減らしておくことがお勧めです。
住宅ローンを利用しているからアパートローンが利用できないというわけではありませんが、すでに抱えている借り入れ分だけ、アパートローンで組める融資額が少なくなります。不動産投資を検討しているなら、居住用住宅の取得タイミングにも注意しましょう。
また、金融資産を確保しておくことも重要です。修繕などの突発的な出費の際にも対応できるほか、金融資産を保有していることが融資審査にプラスに働くことが期待できます。
まとめ
アパートローンは融資金額が高額なことに加えて長期の融資になるため、わずかな条件の違いで総返済額が大きく変わります。
融資審査の通過だけを目的とせず、事業計画の中でどう返済を行い、キャッシュフローを確保するかを考えながら、自分の状況にあったアパートローンを選択しましょう。
また、金融機関によって収益性の判断基準や融資金額は異なります。複数の金融機関を比較することはもちろんですが、個々のローン商品・融資条件も比較しながら、よりよい条件のローンを選択するようにしましょう。
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