資産管理会社とは、個人が資産を管理するために設立する会社です。
不動産投資家の中には、規模を拡大して高い収益を得ると同時に、高額な税金に悩む人も少なくありません。また、資産が増えるにつれて相続時の親族への負担も増えていきます。
実は資産管理会社を設立すると、そのような税金の負担を軽減することが可能なのです。今回は、資産管理会社を設立するメリット・デメリット、どんな人が資産管理会社を活用するべきなのかについて解説していきましょう。
資産管理会社とは?
資産管理会社とは、不動産や株、預貯金などの資産を持つ人が、資産を管理するために設立する会社のことです。事業を通した社会貢献や営業活動を目的とせず、個人の資産を保全することだけを目的とするため、プライベートカンパニーとも呼ばれています。
法人の設立は資本金1円から可能
2006年に新会社法が施行され、法人設立へのハードルが下がりました。以前は資本金制度が設けられており、株式会社を設立するためには最低1,000万円、有限会社では最低300万円の資本金が必要でした。
新会社法により最低資本金制度が廃止されたことで、現在は資本金1円から法人設立が可能です。株式会社であれば25~30万円程度、合同会社なら10~15万円程度の費用負担で設立できるようになっています。
法人化する場合の株式会社・合同会社の違いについては、ぜひ以下の記事を参考にしてください。
不動産投資で法人化するなら株式会社と合同会社どちらがお勧め?
資産管理会社を設立するメリット
資産管理会社を設立することで、所得税の節税や相続税対策など、税制面でさまざまなメリットがあります。
所得税の節税効果
資産管理会社を設立することで、所得税の節税につながるケースがあります。
日本の所得税は累進課税のため、所得が多いほど税率が上がる仕組みです。所得税と住民税を総合すると、所得金額により15%~55%の税率で税額が課されます。
一方、資本金一億円以下の法人の場合、法人にかかる法人税・事業税・住民税などを含めた法定実効税率は、所得金額800万円を超える部分に対しては一律約33%です。
例えば課税所得が4,000万円を超える場合、個人と法人にかかる税率は以下のようになります。
税率 | |
個人 | 55%(所得税45%・住民税10%) |
法人 | 約33%(法人税・事業税・住民税などを含めた法定実効税率) |
個人と法人では、税率が20%以上も異なります。このように、同じ所得でも法人として納税した方が税率が低くなる場合には、資産管理会社を設立すれば大きく節税することが可能です。
個人の所得にかかる税率が法人の所得にかかる税率を超えるラインは、所得金額900万円です。これを一つの目安として、個人と法人どちらのメリットが多いか、検討してみるとよいでしょう。
個人と法人の税率の違いについては、以下の記事に詳しく解説されています。ぜひ併せて読んでみてください。
【不動産投資】個人と法人の違いは?_法人化のタイミング・メリット・デメリット
所得を分散できる
設立した資産管理会社において家族を従業員とし、業務を手伝ってもらえば給与を支払うことが可能です。会社の所得をすべて自分の給与とするのではなく、家族への給与として所得を分散させることで、所得税を節税する効果があります。
先述の通り、所得税は所得が多いほど税率が高くなります。自分の所得を増やしてしまうと税率が上がってしまいますが、家族に分散することで低い税率を適用することができるわけです。もし家族一人当たりの給与額が103万円までであれば、その人に対して所得税はかかりません。
さらに、家族へ支払った給与は経費として計上することが可能なため、会社側としても課税所得額を減らす効果があるのです。
また、資産管理会社の従業員として家族に給与を支払うことは、相続税対策としても有効です。
個人として生前贈与する場合、贈与税の非課税枠は年間110万円。これ以上の贈与をすると、最高税率55%の贈与税の課税対象になります。
一方、法人から給与として支払うことで、贈与税よりも税率の低い所得税で、生前に資産を移転することが可能です。
家族の相続税の負担を軽減できる
2015年に相続税法が改正され、相続税の基礎控除額が引き下げられています。
・改正前:5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)
・改正後:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
この改正により、改正前は課税対象にならなかった人が、相続税の対象になるケースが増加しました。相続税をできるだけ抑えるためには、個人で相続する財産をできるだけ減らさなければなりません。
資産管理会社を設立するということは、資産そのものや資産から得た所得は法人の財産になるということです。会社の代表者が亡くなり、別の人が経営者になったとしても、単に会社が所有する財産を引き継いだだけであり、相続や贈与にはなりません。
つまり、個人が所有する財産を法人所有にすることで、相続税対策となるのです。
先述のように、資産管理会社を通して将来的に相続人となる配偶者や子供に資産を移転しておくことも、生前贈与と同等の意味を持ちながら、贈与税・相続税の節税につながっています。それらの資金を貯めておけば、相続時の納税資金としても活用できるでしょう。
使える経費が増える
法人は、個人に比べて経費計上できるものが多いため、収益からさまざまな費用を損金として差し引くことが可能です。
経費計上できる費用の例
・家族に支払う役員報酬
・退職金
・生命保険料
・自宅(持ち家)のローンの支払い利息
・自宅(持ち家)の減価償却費
・自宅(賃貸)の家賃
・所有物件訪問の際の日当
生命保険料は、個人事業主に認められる12万円の控除額上限より、法人が経費計上できる金額の方が大きいです。
また、法人名義で自宅を所有もしくは契約し社宅扱いとする場合、会社に適切な家賃を支払えば、ローンの利息や家賃、減価償却費などを経費として計上できます。
個人事業主であっても、自宅の一部を事業用として使用する場合、家賃や減価償却費を経費に算入することは可能です。ただし、事業に関わる部分のみを案分するため、比率としてはかなり低くなり節税効果が薄いことが多いでしょう。
その他、資産管理会社で旅費規程を作成すれば、妥当な範囲内で自分自身や法人役員に日当を支給することができます。さらに、支給した日当は経費計上可能です。
遠方の物件を見に行く際などに利用できるでしょう。
資産管理会社を設立する際に考慮したいデメリット
資産管理会社の設立には、主に税制面でたくさんのメリットがありますが、一方で気を付けたいデメリットもあります。
法人を維持するための費用がかかる
資産管理会社を設立する際には、維持費がかかることを考慮しておかなければなりません。
一つは税理士への報酬です。法人の会計は個人よりも複雑になるため、税理士へ依頼するための費用が必要になります。
二つ目は法人住民税の均等割額です。法人住民税の均等割額は法人の資本金額と規模によって決まるもので、所得が赤字の場合でも最低年間7万円を納める必要があります。
その他、法人化した場合、従業員は社会保険に加入しなければなりません。健康保険、厚生年金保険の半額は会社負担となります。
法人の資金を移転する際にコストがかかる
資産管理会社が保有するお金は、オーナーがプライベートのために使うことはできません。
オーナーが資産管理会社の資金を使う場合は、資産管理会社から個人へ移転する必要があります。資産の移転は役員報酬や配当として支払われるため、所得税・住民税がかかることに注意しましょう。
資産管理会社を設立するべき人とは?
資産管理会社は、多くの資産を保有する人ほどメリットを実感できるでしょう。資産管理会社を設立するべき人の年収の目安や、基準などを解説していきます。
年収900万円以上の会社員や資産家
先述の通り、課税所得額が900万円を超える場合、個人にかかる税率よりも法人にかかる税率の方が低くなります。本業の給与所得だけでなく、不動産所得などその他の所得との合算額が900万円を超えるかどうかが、法人化を検討する一つの目安といえるでしょう。
複数の事業を行っている人
複数の事業を行っている場合、資産管理会社を設立して法人化した方が損益通算によってより大きく所得税を節税できる可能性があります。
例えば、不動産投資以外の事業を行っている場合、その事業で損失が発生したら、不動産所得から赤字分を控除することが可能です。これを損益通算と言います。
損益通算で課税対象となる所得を減らせば、所得税や住民税を減らすことができます。
個人事業の場合でも損益通算は可能です。ただし、所得の種類によって損益通算できるものとできないものの制限がありますが、法人の場合はその制限がありません。すべての利益・損失を合算することができるため、個人よりも節税になるケースがあるのです。
多くの資産相続が発生する予定の人
多くの資産を保有する人は、資産管理会社の設立が相続税対策となり、家族の負担を軽減できるでしょう。
先述の通り、資産管理会社を設立して家族に給与を支払うことで、節税しながら資産を移転できます。多額の資産を保有する場合、相続税額が家族の負担となるケースもあるため、生前から対策しておくことが重要です。
また、個人所有の不動産を資産管理会社所有とし、相続時には法人の株式を分配することで、遺産相続時のもめ事を減らす効果も期待できるでしょう。
まとめ
一定の資産を保有している場合、資産管理会社を設立すると税制面でさまざまなメリットがあります。不動産投資の規模を拡大する際は、法人化を視野に入れることも選択肢の一つです。
ただし、法人を維持するための維持費や資産移転コストなどがかかるため、そのような費用も忘れずに考慮しておきましょう。