所有者がローンを支払えなくなった際、返済を目的として売却される任売(任意売却)物件。市場価格よりも安く購入できるケースもあり、興味をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
特に、コロナ禍による収入減からローンの支払いが困難になり、任意売却を選択する人も増えているため、不動産投資家の中でも注目が高まっているのです。
しかし、任売物件には一般の売却物件とは異なる注意点やデメリットもあります。トラブルや失敗のないよう、任売物件への投資に関する正しい知識を身に付けておきましょう。
任売物件とは?
任売とは「任意売却」を略した言葉です。ローンの返済が困難になった場合に、売却しても残債が残る物件を、金融機関の合意のもと売却することを「任意売却」といい、その該当物件のことを「任売物件」といいます。
居住用物件のみならず、投資用物件についても任意売却を選択することが可能です。
任売なら抵当権を解除できる
本来ローンを完済できない場合、物件の抵当権を解除することはできません。しかし任意売却の場合、ある一定の条件のもと、金融機関の合意によって抵当権を解除し、売却することができるのです。
ただし、売却後も残債を債権者に返済する必要があります。
任売の取引方法
取引は一般の物件同様、買主・売主の間に不動産仲介会社が入る形で行いますが、債権者が納得する価格が契約成立条件になります。
任売は法的な強制処分ではないため、金融機関が合意すれば、引き渡し日や売却代金の配分など、ある程度物件所有者の希望が通る可能性があることが特徴です。
任売物件の売買価格
任意売却が成功しなかった場合、その物件は競売にかけられてしまう可能性があります。競売は売主にとってデメリットが多いため、任売物件は通常、売買が成立しやすいよう市場価格よりも若干割安となることが多いです。
そのため、不動産投資家にとっては取得価格を抑えて高利回りを実現できると注目されています。
任売と競売の違い
任売と競売は、どちらも所有者がローンの支払い不能に陥ったときに取られる手段です。しかし、取引方法や取扱いが異なりますので、仕組みをよく理解しておく必要があります。
競売は法的な強制処分
先述の通り、任意売却は債権者である金融機関の同意を元に、売主の意思で売却を目指すものです。一方、競売は所有者の意思とは関係なく、債権者が物件を差し押さえ、裁判所の権限で法的な強制処分として売却されます。
引き渡し日など所有者の希望が通らないケースが多く、物件の所在地や外観などの情報も公表されてしまうため、売主への負担が大きいといえるでしょう。
売却にかかる期間
任売物件の場合、まずは任意売却ができる専門会社や不動産会社への相談が必要です。しかし、売買価格決定以降の取引に関しては、通常の不動産売買と基本的に変わりません。
専門会社への相談から価格決定までは1~2ヶ月程度であり、その後は買主が見つかれば売買が成立します。
一方、競売の場合は、競売開始決定通知から競売完了まで9ヶ月程度かかることが一般的です。
任売物件ならリースバックが可能
任売物件の場合、売却後に買主からその家を賃貸し、物件に住み続けることができるリースバックが可能です。
競売では誰が物件を購入するか分からないため、リースバックは難しいでしょう。
任売物件と競売物件の価格差
競売は裁判所が主導する強制売却で、情報を一般に公開し競争入札方式で取引する仕組みです。価格は一般的に市場価格の7~8割程度となることが多く、任意売却よりも安価になるケースが多いでしょう。
買主目線としては、価格面で競売の方が有利です。しかし、購入前に物件の詳細や内部を確認することができない、自身で占有者との立ち退き交渉を行わなければならないなどのリスクがあります。
任意売却と競売については、以下のコラム記事でも解説されています。より詳しく知りたい方は、ぜひ併せて読んでみてください。
競売とはどう違うの?知って安心「任意売却」の相談をしよう
知っておきたい「任意売却」とは?一般売却、強制競売以外の不動産売却における第三の選択肢
競売開始決定通知がきたあとの流れは? 考えられる3つの対処法を解
任売物件を投資対象とする際のリスク・デメリット
任売物件は、安価で購入できるメリットはあるものの、一般物件とは異なるリスクや注意点について理解しておく必要があります。
売主の瑕疵担保責任が免責される
任売物件の場合、通常の不動産取引で認められている瑕疵担保責任が免除されることがあります。ローンを返済できない債務者が、瑕疵に対応することは費用面から困難であるからです。
つまり、購入後に物件に問題が発覚した場合でも、買主が自身で解決しなければなりません。
比較的築年数の経過していない任売物件なら、状態が良好であるケースもあるでしょう。しかし、返済困難に陥っているという背景から、メンテナンスが適切に行われていないこともあります。購入前に物件の状態をよく確認することが必要です。
売主との協議に時間がかかる
任売物件の取引は、買主・売主のみならず債権者である金融機関が関係します。売却価格や契約条件について金融機関が合意した上で抵当権抹消という流れになるため、一般の不動産取引に比べて時間を要する可能性があるでしょう。
購入意思提示から取引完了までは1~3ヶ月程度見ておく必要があります。
また、債権者の合意が得られない場合は、取引は白紙となります。時間をかけて協議していても、結果として無駄になってしまうこともあるのです。
「購入できなくても構わない」というくらいのスタンスで取り組まなければならないでしょう。
指値や値引き交渉が難しい
任売は、債権者が債務を回収することを目的としています。一般の取引のような指値や大幅な値引き交渉は、債権者からの了承を得られなくなる可能性があり、難しいでしょう。
ただし、全く交渉の余地がないわけではありません。指値や値引き交渉については、後ほど「任売物件を取引する際の注意点」の部分で解説します。
公簿売買になる
任売物件の場合、登記簿謄本に表示された面積に基づいて売却価格を設定する「公募売買」という契約方式をとることが一般的です。実際に土地の面積を測量し、実測面積によって価格を決める「実測売買」ではありません。
これは、債権者が事前に合意した売却金額を、後々実測面積の増減に伴って差額を清算することが困難であるためです。
また、任意売却の場合、現況有姿での引き渡しや、境界明示なしで取引するケースも多く見られます。
こうした取引の何が問題化というと、契約後、実測面積が登記簿よりも少ないことが判明した場合でも、売主に精算を求めることができない、ということです。資産価値に影響を与えることもあり、トラブルとなるケースもありますので注意しましょう。
現金取引が優先される可能性
任売物件であっても、ローンを利用した購入は可能です。しかし、任売できる期間には制約があります。そのため、もし物件の購入希望者が複数現れた場合、ローン審査に時間のかかる買主よりも、現金取引できる買主の方が優先される可能性があるでしょう。
期限を超えると競売になる
任売ができる期間には限りがあるため、通常競売開始前日までに取引を完了させなければなりません。
しかし、任売は先に述べたように、契約について債権者の承認が必要になるため、取引には時間がかかります。いい物件を見つけたとしても期限内に手続きが完了しなかった場合、競売に移行してしまい、売買契約が白紙になってしまうこともあるでしょう。
競売開始までどの程度時間の猶予があるのか、売主にきちんと確認しておくことが必要です。
任売物件の探し方
売主が事情を抱えている任売物件は、プライバシーの問題から物件情報が公開されないことが多く、一般市場に出回りにくくなっています。そのため、任売物件をターゲットに物件を探したい場合には、自ら積極的に情報収集を行うことが必要です。
ここでは、任売物件を探す方法を3つご紹介します。
不動産会社からの紹介
ローンの返済が困難になった場合、債務者はまず任意売却を扱う不動産会社もしくは弁護士・司法書士などに依頼・相談をして、金融機関との交渉を始めることになります。そのため、不動産会社には任売物件の情報が集まるわけです。
しかし、先述の通り任売物件は通常の取引よりも制約があるため、広く購入希望者に紹介されていません。そのため、自分から不動産会社に「任売物件を探している」と伝え、情報を回してもらえるような関係性を持っておく必要があるでしょう。
弁護士・司法書士からの紹介
任意売却を希望する売主の中には、多重債務を抱えて弁護士や司法書士へ債務整理や自己破産について相談する方も少なくありません。任売の相談が持ち込まれることが多いため、物件の情報が集まりやすいといえるでしょう。
ホームページから不動産関係や債務整理に強い事務所を探し、問い合わせてみるのがお勧めです。
任売専門の不動産取引サイトで探す
任売物件は、まれに不動産情報サイトに一般公開されていることもありますが、物件数は非常に限られたものとなります。
そのため、任売物件を探すなら、会員制・非公開で物件情報を掲載している任売専門のサイトを活用するのも一つの方法です。
ただし、運用元の信頼性については注意する必要があるでしょう。
任売物件を取引する際の注意点
任売物件は売主が経済的な事情を抱えていることから、一般の不動産取引にはない注意点があります。
ローン以外の滞納を確認する
ローンの返済が滞っている売主は、消費者金融や税金など他にも滞納を抱えている場合があります。他に滞納がある場合、債権者が差し押さえに入る可能性があるため、注意しなければなりません。
また、マンションなどの管理費の滞納があれば、買主が承継することになりますので、必ず状況を確認しておきましょう。
売主本人に直接確認するのではなく、不動産会社や弁護士などを通じて確認することをお勧めします。
手付金を直接売主に渡さない
売主に手付金を直接渡した場合、売主が他の支払いに充ててしまったり、手付金を持って逃げてしまったりするリスクがあります。手付金を支払う場合は、トラブルを避けるために不動産会社に預かってもらうようにしましょう。
任意売却の場合、こうしたトラブルを避けるため、売買契約と物件引き渡しを同日に行い、手付金の支払いをしないケースもあります。
指値を入れる場合は時期を見極める
先に述べたように、債権者が任売物件の値引きを認めないケースが多いです。
しかし、競売開始が近くなると、さらに価格の下がる競売は避けたいという心理が働いて指値が通ることもあります。
指値を入れたい場合には、競売までにどのくらいの時間があるのかを確認し、タイミングを見極めて交渉を行いましょう。
不動産投資における指値交渉について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
【不動産投資】指値の入れ方と交渉の成功率を上げる3つのコツ
残置物について取り決めをしておく
物件の明け渡し時に、売主が不要物の処理費用を捻出できず、残置物のある状態で明け渡されるケースがあります。
残置物は買主が勝手に処理する ことができないため、誰の負担でどう取り扱うかをあらかじめ定め、売買契約書に明記しておきましょう。売主側での対応が難しい場合、買主側が費用を負担して撤去することを売主が了承する取り決めとなることが多いです。
まとめ
任売物件は市場価格よりも安く購入できる可能性が高いというメリットがあります。一方、瑕疵担保責任が免責されたり、手続き途中で競売に移行し契約が白紙になったりするなど、一般物件に比べると注意しなければならない点もあります。
任売物件に投資する場合には、取扱い経験が豊富な不動産会社や専門家とともに、さまざまなリスク対策を行いながら進めていくとよいでしょう。