今後、公的年金だけで老後の生活費を賄うことは難しいといわれています。資産運用によって個人で資産を増やしていく必要性はより高まっていくでしょう。しかし、資産運用の知識がないのでなかなか一歩を踏み出せない方も多いかもしれません。この記事では、これから資産運用を始めてみたい方、または、資産運用を始めたばかりの方向けに、資産運用が必要な理由と、初心者でもできる資産運用方法について紹介しています
なぜ資産運用が必要か?
資産運用を活用すると、効率的に資産を増やすことができます。2019年6月に、金融審議会市場ワーキンググループより、65歳以降高齢夫婦無職世帯が一般的な生活を送るためには、2,000万円が必要という試算が発表されました。
しかし、2,000万円はあくまでも一般的な生活を送るための金額に過ぎません。旅行や趣味といった娯楽費や、家のリフォーム、医療費、配偶者の介護費用などの支出を考慮すると、余裕をもって3,000万~4,000万円は用意しておきたいところです。
さらに、日本の公的年金制度は、現役世代が納めた保険料が現在の年金受給者への支払いに充てられている賦課課税方式を採用しているため、少子高齢化が進む日本では将来的に年金財政は悪化し、公的年金額が縮小していくことが予想されています。
そのため、資産運用によってより効率的にお金を増やすことが必要となっているのです。そこで以下は、初心者でもできる資産運用について解説していきます。
普通預金や定期預金ではお金はほとんど増えない
普通預金や定期預金も預けておけば利息がつくため、資産運用の一種といえます。しかし、普通預金や定期預金の金利では、あまり大きく増えることは期待できない可能性が高いです。
元本100万円を普通預金0.001%と、定期預金0.2%で運用したケースを見てみましょう。
金利 | 10年運用後(税引き後) | 20年運用後(税引き後) | |
---|---|---|---|
普通預金 | 0.001% | 100万79円 | 100万159円 |
定期預金 | 0.2% | 101万6,054円 | 103万2,367円 |
普通預金は、必要なときにすぐに引き出しができる、普通預金・定期預金は金融機関が破綻しない限り(※1)元本割れすることはないメリットがあります。
そのため、利息が少なくても、ある程度自分で老後に向けた資金が準備できる方は、普通預金、定期預金はおすすめです。
※1 利息付きの普通預金や定期預金は、金融機関ごとに預金者1人あたり、元本1,000万円とその利息などは保護されます(ペイオフ)。
初心者におすすめ資産運用方法4選
ここからは初心者におすすめできる4つの資産運用方法の概要と、メリット・デメリットをご紹介します。
分散投資・積立投資・長期投資
資産運用は、分散投資・積立投資・長期投資の3つの投資手法を心がけるだけでリスクを抑えながら安定したリターンが得られます。ほとんどの運用商品で利用できる考え方で、それぞれの投資手法の詳細は以下のとおりです。
・分散投資・・・1つの商品だけで運用をせず、値動きの特徴が異なる運用商品を組み合わせることでリスクを抑える方法
・積立投資・・・毎月1万円、2万円というように毎月一定額を積み立てる方法
・長期投資・・・短期間ではなく、長期間にわたり投資を行う方法。プラスマイナスを相殺しながら、期間トータルでのプラスの成果を目指します。明確な期間の基準はありませんが、おおむね15~20年以上の運用期間であれば長期投資にあてはまります。長期運用とはどれくらいの期間かという明確な決まりはありませんが、15年~20年の運用期間なら長期投資に当てはまります。
先行きの不安解消には投資がおすすめ! 初心者にもできる投資手法
分散投資・積立投資・長期投資の3つの投資手法を用いれば、リスクを抑えることはできますが、運用期間として15年~20年は考えておかなければならないので、目標額まで資産を増やすためには、時間がかかる点はデメリットといえるでしょう。
ポイント運用を利用する
利用代金をクレジットカード決済すると、利用代金に応じたポイントが付与されますが、このポイントを活用して資産運用できるカードが増えています。ポイントは現金に交換できるため、ポイントで運用した結果資産が増えれば、実際にお金が増えたのと同等の効果があります。
ポイント運用のメリットは、クレジットカード決済によって発生したポイントを活用した投資なので、万が一の損失に対しても心理的なハードルが低い傾向があるという点です。
一方、投資額が少額になりがちで大きな資産運用効果は期待できないというデメリットがあります。仮に還元率1%のクレジットカードを毎月約5万円利用している方がいた場合、ポイント投資できる金額は5万円×還元率1%で1ヶ月あたり500円です。
毎月、多額のカード決済をしている方でなければ、ポイントだけでは大きな資産運用効果を出すことは難しいかもしれません。
ロボットアドバイザーを利用した運用
資産運用初心者で、どのような商品で運用を始めてよいかわからない方は、ロボットアドバイザー(以降、ロボアド)の活用も検討してみましょう。ロボアドには、「アドバイス型」と「投資一任型」の2つのタイプがあります。
・アドバイス型・・・年齢や年収、資産状況、投資に対しての考え方(積極運用をしたいか、元本割れはなるべく避けたいなど)を入力するだけで、どのような商品で分散投資をしてくれるのか、その人にとってベストな方法を提案してくれます。なお、投資額をどのような商品でいくら分散投資をするか決めることを資産配分といいます。
・投資一任型…その人にとってベストな方法を提案した後、実際に提示した資産配分で運用までしてくれる商品です。
ロボアドは、アドバイス型・投資一任型いずれの場合においても、商品の選定から資産配分まで、適したプランの提案まではしてもらえるため、投資初心者でも商品選定に迷う必要はありません。
しかし過度に任せすぎると、運用商品を見る目がいつまでも養われなくなってしまうでしょう。
iDeCo(イデコ)を使った運用方法
iDeCoは個人型確定拠出年金の愛称で、老後の生活資金を準備するための制度です。毎月の掛金は所得控除となり、個人でも節税をすることができます。
サラリーマンで年収500万円の方が、30歳でiDeCoに毎月2万円加入した場合、どれくらいの節税効果があるかシミュレーションした結果が以下のとおりです。あくまでも目安なので、個別の効果については自身で改めて確認してください。
【前提条件】
年齢 | 30歳 |
iDeCo掛金 | 年24万円 |
年収 | 500万円 |
給与所得控除 | 年間144万円 |
社会保険料控除(※2) | 71万9,500円 |
基礎控除(所得税) | 48万円 |
基礎控除(住民税) | 43万円 |
所得控除は、給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみと仮定した場合
・所得税の課税所得金額
500万円-144万円-71万9,500円-48万円=236万500円
・住民税の課税所得金額
500万円-144万円-71万9,500円-43万円=241万500円
【iDeCo加入による税軽減効果】
iDeCo加入額が年間24万円なので、上記で計算した所得税・住民税の課税所得金額からそれぞれ24万円を差し引きます。
iDeCoに年間24万円加入 | iDeCoに加入しない | |
---|---|---|
課税所得金額(所得税) | 212万500円 | 236万500円 |
課税所得金額(住民税) | 217万500円 | 241万500円 |
所得税額 | 11万4,550円 | 13万8,550円 |
住民税額(※3) | 21万7,050円 | 24万1,050円 |
【iDeCo加入による所得税額と住民税額の軽減効果】
・所得税・・・13万8,550円-11万4,550円=所得税の軽減効果2万4,000円(年間)
・住民税…24万1,050円-21万7,050円=住民税の軽減効果2万4,000円(年間)
このケースの場合は、iDeCoに加入することで所得税・住民税でそれぞれ年間2万4,000円の節税効果があるため、30年合計の節税額は所得税・住民税それぞれ72万円となります。
iDeCoは掛金で運用もしますが、運用で得た収益にも税金がかからず、受け取り時も税金の優遇が用意されています。老後資金を準備するという用途で加入する場合は、非常にメリットの大きい制度ですが、一度掛金を支払うと、60歳までは引き出せないデメリットがあります。
ミドルリスク・ミドルリターンの資産運用おすすめ5選
ここからは、初心者の方でも少しリスクの高い資産運用をしてみたい方向けに、ミドルリスク・ミドルリターンの資産運用手法を紹介します。
投資信託
投資信託は分散投資をプロにお任せできる運用商品です。ロボアドの投資一任型に近いですが、ロボアドは運用をする人の状況に応じて適切な資産配分を決めていきます。それに対して投資信託はあらかじめ資産配分が決まった商品が複数あり、資産を運用する側が、複数ある投資信託のなかから自分の投資方針に合ったものを選ぶというイメージです。
【今さら聞けない】REITってなんですか?~投資信託と不動産投資のメリット・デメリット比較してみよう~
投資信託は、あらかじめ資産配分が決まっていて、商品選定は投資のプロであるファンドマネジャーが行うので、初心者でも比較的始めやすい資産運用方法です。ただし、投資信託は資産運用をプロにお任せする商品なので、手数料がかかります。
ETF
ETFとは指数を基準に分散投資をする上場投資信託のことで、指数とは、日経平均株価やTOPIXといった経済指標のことをいいます。例えば日経平均株価は、東証一部に上場する主要225銘柄の平均株価指数なので、日経平均株価に連動した運用成果を目指すETFに投資をすれば、225の銘柄に分散投資をしているのと同様の運用成果が期待できます。
また、投資信託は、証券会社や銀行、郵便局などで購入しますが、ETFは上場しているのでリアルタイムで証券会社を通じて取得できるメリットがあります。一方、積立投資ができるETFは限られており、リスク分散がしにくいことがある、分配金が再投資されないので投資の複利効果が得にくいなどのデメリットがあります。
NISA制度を使った投資
NISAとは少額投資非課税制度のことです。一般NISAは投資元本が年間120万円まで、つみたてNISAは年40円までは投資の収益に税金がかかりません。
一般NISAは非課税期間が5年しかないので、長期投資のメリットは得にくいですが、対象商品は豊富です。一方、つみたてNISAの非課税期間は20年なので、長期投資のメリットが利用できますが、対象商品は金融庁の示した要件を満たす商品に限られます。
NISA(ニーサ)とつみたてNISA(ニーサ)の違いを分かりやすく解説
株主優待+配当金狙いの株式投資
株式投資は、銘柄にもよりますが一般的にハイリスクハイリターンの投資方法として知られています。しかし、企業は事業で利益が出ると、一定の要件を満たした株主に利益の一部を配当金として還元することがあります。株式投資でも、定期的な配当金狙いの投資方法であれば、比較的安全な運用ができるでしょう。また、株主優待も用意している企業であれば、企業の割引券や商品を受け取りながら配当金を受け取れるというメリットがあります。
ただし、企業の業績が悪くなると急に配当金がなくなり、配当金がなくなることで株価が大きく下がる可能性があるので注意が必要です。
不動産投資
不動産を購入し、入居者から家賃収入を得る投資方法です。不動産投資は、入居者がいる限り安定した家賃収入を継続的に得られる、世の中の物価が上昇したときも、家賃や物件価格も上昇する可能性があるのでインフレ時に強い資産であるというメリットがあります。
ただし、仮に入居者が退去してしまうと家賃収入がなくなり、ローンがあればローンの支払いだけが残ってしまう空室リスクがあります。
不動産投資入門者のための基礎知識~5つのリスクと初心者お勧め物件~
ただ不動産投資だけは唯一、資産運用をするために金融機関が融資をしてくれるという特徴があります。比較的短期間で安定した収益を得たいと考えている方は、不動産投資を検討してみるとよいでしょう。
まとめ
資産運用は、働いて収入を得ることができている時期はなかなか必要性に気がつかないかもしれません。しかし、コロナ禍や、定年退職後など収入が途絶えたり、減少したりすると、資産運用によってお金がお金を生み出す仕組みの大切さに改めて気がつくこともあります。初心者ができる資産運用を今回は紹介しましたが、短期間で大きな資産を生み出す運用方法というものはリスクが高く、リスクを抑えて安定したリターンを産み出すためには、少なくとも15年~20年の運用期間は見込んでおきたいところです。