これから不動産投資を始めようと思っている方、不動産投資に興味のある方……皆さんは2018年~2019年ごろに問題となった「フラット35の不正利用」をご存じでしょうか?
事件に関与してしまった物件オーナーのなかには、一括返済に応じられず自己破産に追い込まれた人も。
この事件を通じて、投資初心者のなかには「住宅ローンは投資には使えない」という基本的な知識すら持っていない人もいることが明らかになったわけです。知識がないまま投資を始めることは、人生を壊す羽目になりかねないことを教えてくれる重要な事件でもありました。
このフラット35の不正利用事件を振り返り、ぜひいま一度、正しい知識・情報を身に付けることの重要性を確認しましょう。
フラット35の不正利用とは? 事件の全容
2018年9月に発覚したフラット35の不正利用について、まずはその事件の概要を見てみましょう。
居住用物件にしか使えないフラット35を投資用物件に不正利用
本来フラット35などの住宅ローンは、本人もしくは親族が居住するための物件購入にのみ利用可能な融資です。家賃収入を得るための投資用物件の購入にはアパートローンや事業用のプロパーローンを利用しなければなりません。
この原則に従わず、実際は投資用物件の購入であるにもかかわらず、居住用物件の購入であるかのように偽って住宅ローンを不正利用したのが「フラット35の不正利用」でした。
住宅ローンと不動産投資ローンの違いや投資用物件に住宅ローンを使ってはいけない理由については、以下の記事で詳しく解説されています。ぜひ参考にしてください。
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フラット35を悪用した不動産投資
物件価格・融資額の水増し
もう一つ、フラット35の不正利用として「物件価格・融資額の水増し」も見られました。
実際の物件価格とは異なる水増しされた価格で偽の売買契約書を作成し、融資額を水増ししようとしたわけです。
実際に物件購入に支払う額よりも多くの金額を得られるため「余ったお金で消費者ローンや自動車ローンが返済できる」などと勧誘され、つい乗ってしまった投資家が多かったのではないかと推測されます。
不正利用のほとんどのケースにおいて、投資目的での利用と物件価格の水増し両方の不正が同時に行われていました。
事業者グループの巧みな罠にかかった物件オーナー
フラット35の不正利用には、紹介者・売主・不動産仲介業者・サブリース業者などで構成される事業者グループが関与しています。
知識の浅い投資初心者であればなおさら、こうしたプロの事業者グループを相手に冷静に判断することは難しいでしょう。たとえ不正利用に当たると分かっていても「みんなやっている」「業界では当たり前」などと言われ、つい不正に加担してしまうケースも多かったのではないかと考えられます。
一方、書類の改ざんなどを物件オーナーが把握していないケースもあったようです。融資額が水増しされていることを知らされず「ただ署名・捺印すればいい」という言葉をうのみにして、知らない間に犯罪に加担してしまったと考えられます。
フラット35の不正利用に関する調査結果
フラット35の不正利用発覚後、住宅金融支援機構は事実確認のための調査を行いました。その結果を見てみましょう。
フラット35の不正利用は147件
フラット35の不正利用について、2018年10月~2019年12月までに住宅金融支援機構が行った調査の結果、不正利用の事実が確認された件数は以下のとおりでした。
融資申込み時点からの投資目的利用及び住宅購入価格の水増し | 144件 |
住宅購入価格の水増しのみ | 3件 |
合計 | 147件 |
参考:住宅金融支援機構「フラット35の不適正利用懸念事案に係る調査結果の公表」(2019年8月30日)
住宅金融支援機構「フラット35の不適正利用懸念事案に係る調査結果の追加公表」(2019年12月25日)
不正利用に関与した住宅購入者と物件の特徴
住宅金融支援機構「フラット35の不適正利用懸念事案に係る調査結果の公表」(2019年8月30日)
住宅金融支援機構が公表した調査結果によると、20代~30代前半の若い世代がターゲットになっていることが分かります。
これは本来マイホームを購入する平均的な世代よりは下の世代です。まだ住宅ローンなどに関する知識が乏しい世代かつ35年ローンが組める若い世代が狙われたのではと推測されます。
またほかに借金を抱えている人も多かったようです。「借金の穴埋めができる」「多めに融資額をとれば借金をまとめられる」といった誘い文句につられてしまったケースも多かったのではないでしょうか。
そのほか、年収が低くても年間の合計返済額が年収の30%以下(年収400万円未満の場合)であればローンが組めるフラット35の特徴が利用されたとも考えられるでしょう。
フラット35の不正利用が発覚するとどうなる?
残債務の一括返済
住宅ローンの不正利用は金融機関に対する契約違反です。借り手は分割で返済する権利「期限の利益」を喪失することになり、一括返済が求められます。
実際にフラット35の不正利用に加担してしまった物件オーナーは、住宅金融支援機構から残債の一括返済を求められることとなりました。
警察への通報
フラット35に限らず、融資を不正に利用することは詐欺罪に該当します。たとえ手続きをすべて事業者に任せていたとしても、融資契約者つまり物件オーナーが罪を問われるわけです。
悪質な場合は、こうした不正の案件が警察に通報されたり、刑事告訴されたりすることもあります。
損害賠償請求
住宅金融支援機構では、不正利用が発覚した際の対応として、不正に加担した住宅購入者や不動産会社などの事業者に対し損害賠償請求を行う可能性もあると示唆しています。
そのほか、ローンの不正利用については、ぜひ以下の記事も一緒に読んでみてください。
【要注意】住宅ローンを使って不動産投資をしていると、こんな時にバレる!
まとめ
フラット35の不正利用は、多くのケースにおいて事業者グループの主導により行われています。しかし、だからといって「物件オーナーには責任がない」とはなりません。「だまされただけ」といくら主張しても、一括返済を求められて大変な思いをするのは住宅購入者である投資家です。
だからこそ投資家自身がしっかりと自分で自分の身を守らなければなりません。
住宅ローンは投資にはNG! フラット35を使った不正な不動産投資って結局どうなった?【後半】では、本記事で説明したフラット35の不正利用が今現在どうなっているのか、事件のその後を見ていきます。
さらに、こうした不正利用に巻き込まれないために押さえておきたい不動産投資の重要なポイントについても解説しますので、ぜひ併せてご覧ください。