一般的に相続は、一生に数回しか関わることがないでしょう。にもかかわらず、知らないことが多いと気づかされ、かつ短期間で行わなくてはいけないので疲労困憊になってしまったなんて話をききます。執筆者自身も、1回相続を経験してますが、戸籍謄本を取り寄せたり、書類に記載したり、各所に連絡したりとかなりの労力を費やしました。
先日、50代の主婦の方からの以下のようなご相談がありました。回答とともに解説していきます。
Q:50代の主婦です。大学進学とともに上京し、そのまま就職、その後結婚し、東京都内に家族とともに住んでいます。兄弟も上京しており、それぞれ家を購入しています。実家には両親だけで暮らしていますが、両親が高齢になったため、今後、田舎の実家の相続について心配になってきました。不動産の相続の手続きや費用、不動産の活用について初歩的なことを教えてください。
不動産を相続したらまず行うことは名義変更
相続すると決まったら、法務局で所有権移転の手続きをします。登記申請書は、相続の仕方によって少し所有権の移転登記の様式が異なります。以下の図は法務局のホームページに掲載されています。相続の仕方を選び矢印に従って、クリックすると対象の申請書がダウンロードできます。
出典:法務局HP
また、所有権移転申請書以外に提出する書類は以下の通りです。
・ 固定資産税証明書
・ 遺産分割協議書
・ 戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍(出生から死亡まで連続したもの)(被相続人)
・ 住民票除票または戸籍の附票(被相続人)
・ 戸籍謄本(法定相続人全員分)
・ 住民票(不動産取得者となる相続人)
・ 登記事項証明書
なお、場合によって遺言書や相続人の印鑑証明、相続関係説明図などが必要となります。
費用について
登記をするときには、登録免許税が課税されます。登録免許税の金額は、固定資産税評価台帳に記載されている金額の0.4%になります。
つまり、固定資産税評価が1,000万円の40,000円の登録免許税となります。
また、所有者移転の登記を司法書士に依頼する場合は、司法書士の報酬が必要です。内容により金額は異なりますが、必要書類の取り寄せなどは自分で行う場合は、3~5万円が相場で、書類の取り寄せからすべて司法書士が行う場合は、7~15万円が相場のようです。
なお、不動産取得税は相続の場合、非課税となっています。相続人以外への特定遺贈や死因遺贈は、不動産取得税が課税されます。
そのほか費用は、相続後毎年固定資産税とメンテナンス費用がかかるでしょう。
所有者の移転登記はいつまでにやればいいのでしょうか?
相続税の申告は、相続発生を知った日から10カ月以内にと決まっていますが、所有権移転登記は期限が決まっていません。
社会問題にもなっている空き家問題はこの所有権移転が義務化させていない、期限が決まっていないことがひとつの原因です。
所有権移転登記する場合、前項でも紹介した通り費用がかかります。場合によっては、費用をかけられない方がいるかもしれません。また、親の家を相続しても、住まいが遠方であれば使用する必要がないからとそのままにしてしまうケースがあります。長年所有者を変更せず、子や孫世代になっても所有者移転の手続きを怠ってしまうのでしょう。
そして、所有者不明の不動産が増えていくのです。
国は、これ以上所有者不明不動産が増えないよう、2024年から相続登記を義務化することにしました。相続や遺贈により取得した不動産は、相続の開始や所有権を得たことを知った日から3年以内に所有権移転登記を行わなければなりません。行わない場合は、10万円以下の過料となります。
ここで、住まいと出身地、空き家のデータを見てみましょう。
2018年人口移動調査によると、東京都在住者の出身地が東京ではない人の割合は約54%となっています。東京以外に実家がある人が半数程度いるとも読み取れます。進学・就職・結婚・転勤などの理由で出身地に住んでない方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そのため、実家へ頻繁に足を運べなくなるという現象もおきてしまうのでしょう。
相談者のご実家も車で3時間半かかる場所のようですね。ご相談者さんのような方もいらっしゃることが予想できますね。
また、国土交通省の「令和元年空き家取得実態調査」によると、空き家を取得した理由の半数以上は相続となっています。
出典:国土交通省 令和元年空き家所有者実態調査
さらに、空き家から所有者の住まいまでの所要時間が1時間から3時間以内と3時間超と日帰りができない距離をあわせて全体の約28%になります。また、空き家の管理頻度は月に1回から数回と年に1回から数回の項目が大半を占める結果となっています。
相続で空き家を所有したが、頻繁に足を運べない方がいらっしゃることがわかります。
出典:国土交通省 令和元年空き家所有者実態調査
出典:国土交通省 令和元年空き家所有者実態調査
なお、適切に管理されていない空き家は、防災や衛生、景観などの点からも地域の住民の生活に影響を及ぼしかねません。空家等対策の推進に関する特別措置法により、空き家の所有者または管理者は周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないように管理しなければならないとさせているため、相続した実家の管理はとても大切になります。
実家を空き家にしないためにはどうしたらいいのでしょうか?
前項でお伝えした、管理されていない空き家にならないようにするためには、どうすればいいのでしょうか。
相続後に実家を売却・賃貸・解体など検討し、どの方法にするのかすぐに判断することは難しいでしょう。
まず、家族のライフプランに合わせて考えてみましょう。相談者は50代の主婦のかたと伺いましたが、同じ50代といっても家族構成やライフプランによってお金の使い方に差が生じます。すでに、お子さんが独立されている場合やDINKSであれば、老後の生活を中心にお金を使うことができます。例えば、退職後は、田舎に帰ってゆっくり暮らしたいと考えるならば、実家のリフォーム準備資金を確保しつつ、実家をそのまま残しておく。
この場合は、退職後移住するまでの期間も定期的なメンテナンスは必要となります。なぜなら、空き家の状態で放置してしまうと家は傷みが早いからです。
一方、近年の晩婚化の影響で退職直前まで子どもの教育費がかかってしまうご家庭もあります。相続した不動産の管理費用が家計を圧迫すると予想される場合は、売却するということも考えます。または、実家の家の状態が良ければ、賃貸にして利益を得ることも考えられるでしょう。
大まかに、実家を相続した場合の手続きや費用、実家の活用方法の考え方についてみてきました。
さらに、相続後の実家の活用方法・・・売却、賃貸、解体、居住のそれぞれの特徴を確認し相続する不動産の場所や環境、地形など様々な点から考えてどの方法が適しているのか検討することが重要です。具体的にどうしたほうがいいのかわからない場合は、不動産業者や工務店、不動産投資の業者など専門家に相談してみてはいかがでしょうか。