実家を相続することを考えてみるというテーマで、相談者の質問にお答えしています。
今回は、確定申告の時期が近づいてきましたので、実家を賃貸にした時の確定申告についてご相談者さんから以下の内容のご質問をいただきました。ご紹介いたします。
実家を相続した場合は、賃貸にしようかと検討しています。
現在会社員のため、確定申告は行ったことがありません。実家を賃貸にした場合は、必ず確定申告をするべきなのか?また、賃貸を開始した場合の経費の扱いについて教えてください。
A
相続したお家を賃貸にした場合は、不動産所得が発生します。会社員の場合は、副業で年間20万円以上の所得があれば確定申告が必要です。副業は、実家を賃貸にして所得を得る不動産所得も含まれます。確定申告を初めて行う際に、知っておきたいこと、相続した家を貸すときの費用についても解説していきましょう。
不動産所得がある場合、確定申告すべき?
冒頭にも説明しましたが、会社員が1月1日から12月31日までの1年間で、20万円以上の給与以外の所得があれば確定申告をしなければいけないとされています。また、専業主婦や年金所得者など給与所得者以外のかたが、実家を賃貸した場合、収入から必要経費を引いて、基礎控除や所得控除を引いた後に残額があれば、確定申告が必要になります。
まずは、どんな所得が不動産所得になるのでしょう。以下の3つが不動産所得とされています。
1. 土地や建物などの不動産貸付け
2. 地上権などの不動産の上に存する権利の設定および貸付け
3. 船舶や航空機の貸付け
(事業所得や譲渡所得の対象のものは除く)
所得の計算方法は、総収入金額から必要経費を引いた金額になります。
総収入金額には、貸付の賃借料の他に共益費や更新料、敷金や保証金などのうち返金しないものなどが含まれます。一方、必要経費は、固定資産税、火災保険料などの損害保険料、修繕費、減価償却費が思いつきます。詳しくみていきます。
必要経費の例
● 維持管理の経費
火災保険や損害保険の保険料
水道光熱費
修繕費
減価償却費
委託管理費
● 経営のための経費
広告宣伝費
旅費交通費
交際費
書籍費
● 借入利子(リフォーム費用など借入をした場合)
● 税金
固定資産税
登録免許税
印紙税
事業税
不動産取得税
注意したいのが以下の2点です。
火災保険料は、5年払いなど長期の保険料を一括で払っている場合は、支払った保険料を保険期間年数で割り、1年分を保険料として計上します。
修繕費は、1月1日からその年の12月31日の期間に修繕した費用を計上します。ただし、20万円未満であること、3年以内に修繕の周期があること、原状回復の費用かなどの一定の規定があります。それらの規定にいずれも該当しない修繕費用で、資本的支出に該当するリフォーム工事は、減価償却できます。
減価償却費については、言葉は聞いたことはあるけれど、「難しそう」「どのように計算するのか分からない」と思う方もいらっしゃるでしょう。次項では、減価償却費について詳しく解説します。
●減価償却について
減価償却費とは、例えば建物やリフォーム費用、自動車、パソコンなど長期間使用するものの費用全額をその年に一括で計上するのではなく、使用できる年数で経費を配分します。この使用年数が、耐用年数といい、配分する計算方法を減価償却といいます。
例えば、古い実家を賃貸にする場合には、外壁や水回り、耐震工事など必要になるかもしれません。このような場合には、工事費が耐用年数に合わせて配分されるのです。
減価償却の対象資産の主な木造建物の耐用年数は、以下の通り。(出典:国税庁HP)
一般的な木造住宅をリフォームした費用は、耐用年数は22年です。なお、実家を相続した場合(非業務用建物を相続した場合)で、相続後賃貸にするというようなときは、建物の法定耐用年数の1.5倍に相当する年数になります。相続した家が木造住宅であれば、耐用年数は33年になるということです。
減価償却の方法は、定額法と定率法があります。定額法は、減価償却費を毎年均等にする方法で、定率法は、初年度を多く計上し、年々減少する方法です。さらに、減価償却資産を取得した時期により、計算方法が以下の表のように異なります。
【取得日と減価償却資産と減価償却方法の関係】
取得年月日 | 建物 | 建物付属設備 及び構築物 | 左記以外の一般的な 有形減価償却資産 |
平成10年3月31日以前 | 旧定額法 又は旧定率法 | 旧定額法 又は旧定率法 | 旧定額法または旧定率法 |
平成10年4月1日から 平成19年3月31日まで | 旧定額法 | 旧定額法又は 旧定率法 | 旧定額法または旧定率法 |
平成19年4月1日から 平定28年3月31日まで | 定額法 | 定額法又は 定率法 | 定額法又は定率法 |
平成28年4月1日以降 | 定額法 | 定額法 | 定額法又は定率法 |
(出典:国税庁)
耐用年数や償却方法を紹介しただけでは、イメージがつかないと思います。
具体的な例をみていきましょう。(※工事の内容などによって異なる場合あり)
平成3年1月10日に新築した取得費5000万円の実家を令和3年1月に相続し、令和3年7月10日から業務用に転用し300万円の外壁や屋根工事と水回りの工事を行ったとします。
建物の償却率
22年×1.5=33年
償却率⇒0.031(出典:国税庁 減価償却資産の償却率等表 )
開業残高
5,000万円×0.9×0.031×31年※=4324.5万円
※非業務用の期間(平成3年1月10日~令和3年7月09日なので、31年)
5000万円-4324.5万円=675.5万円
未償却残高675.5万円
実家の取得日は、平成3年1月ですので、建物の減価償却費は旧定額法となります。
当初取得費用5000万円×0.9×0.031×6/12=69.75万円
リフォーム工事300万円の減価償却は、令和3年7月に行ったので定額法
300万円×0.046×6/12=6.9万円
となるのです。
したがって、
令和3年分の減価償却には、建物69.75万円とリフォーム工事6.9万円を計上します。
このように、一見少し難しい計算もありますが、国税庁の表などをみて計算できます。
事業をする場合、リフォーム工事の内容次第では、償却資産申請をお住いの自治体に提出が必要な場合があります。忘れずに確認しましょう。
●不動産所得が赤字の場合は?
相続した家を賃貸始めた初年度は、修繕費やリフォーム費用が掛かるでしょう。例えば、築30年の木造住宅の場合は、大規模リフォーム工事は、数百万円かかります。(施工会社や施工内容、住宅の状態によって金額は変動します)
また、すぐに借家人が見つからない場合、家賃収入より、経費の方が多くかかってしまうことも考えられます。このような場合は、不動産所得は赤字になってしまいます。不動産所得が赤字になった場合、他に所得があれば損益通算することができます。賃料が少く、経費が多くなって赤字になった場合は、会社員は給与所得がありますから、確定申告することで課税所得が減少し、所得税や住民税が軽減されるのです。
初めて確定申告を行うときは、わからないことが多いかもしれません。帳簿の記帳を面倒と感じることもあるでしょう。しかし、利益がある年はもちろんですが、前項で紹介したように赤字の年も確定申告は行いましょう。税務署では、相談窓口を開設していますので、電話相談やメールなどでも相談できます。細かな金額のことなど疑問なことがあれば、まず専門家に聞いてみましょう。