今回の新型コロナ感染拡大の影響は未だ予測の域ですが、リーマンショック時の影響と良く比較されます。
財務的な観点から見ると、リーマンショックが資産(ストック)面のクラッシュであった事象なのに対して、今回の新型コロナ感染拡大は現金の流れ=キャッシュフロー(フロー)面のクラッシュであることを区別する必要があるそうです。
確かにキャッシュフローさえ潤沢であれば、赤字会社であっても倒産はしません。それが社会全体で起きた事象がリーマンショックです。いくら資産が目減りしてもキャッシュフロー(現金の流れ)さえ止まらなければ、返済も滞らず=世の中の経済活動は止まらないので、時間が解決してくれます。
ただ、今回は、キャッシュフローが止まっているので、明らかにそれとは違う状況です。各国政府も可及的速やかに社会全体のキャッシュフローを戻す必要があるので、早期に経済活動を再開したいわけです。
不動産投資で大事なのは会計上の収益よりもキャッシュフローの潤沢さ
不動産投資は、通常、借入を起こし一定のレバレッジを掛けて行う投資手法です。
具体的には借り入れて来た仕入れの金利よりも、賃貸収入や売却で得た利益の割合=利益率が高く、その差額が儲けになります。また、一定の節税も可能という投資手法です。利回りを重視した投資の視点からは、レバレッジ効果を高めるほど効率的な投資が可能になります。
ですから、今回の新型コロナ感染拡大で考えなければいけないのは・・・その逆になってしまう事象、つまり、仕入れ金利と運用利回り=利益率が逆転し、逆レバレッジになってしまうケースです。その要素を確認すれば良いと言うことになります。
収益=収入-支出ですから、
①収入である賃貸収入がどうなるか?
②支出=費用である業務手数料や税金、特に仕入れの金利がどうなるか?
そして、売却時の損得や利回り計算をする際の基準となる
③売却価格がどうなるか?
という3点を確認すれば良いということになります。
特に不動産投資は長期投資ですから、今すぐ売却する必要が無いのであれば、短期&中期的には、キャッシュフローの源泉の影響がどうなるか?見定める必要が高くなりますから、上記の①②について見ていくことになります。
今後の不動産賃貸市場に影響を与えること
まず、①収入面に視点を当てましょう。
【個人】雇用環境や所得水準 と 【企業】業績 の2点を確認する必要があるでしょう。なぜなら、双方とも前回のコラム「新型コロナウイルス感染拡大から考える 大家がすべき対応 No.2 景気判断を知り、対応方法を考えよう!?」でお伝えした通り、政府の経済見通し(見解)は当面、ネガティブ=弱いからです。
つまり、②費用である業務手数料や税金は政策的に一定の短期間は押さえこめますが、①収入に関しては一定期間減ることを覚悟する必要があります。
賃貸住宅に投資している場合、【個人】雇用環境や所得水準から直接的に影響を受けますが、その源泉は【企業】業績です。ですから、他の投資家より一歩先読みするためには、まず、オフィス需要にも直結する【企業】業績を見る必要があります。
オフィス需要に関連する企業業績は?
この【企業】業績については、今回の新型コロナウイルス感染拡大により年度末に掛けて経済活動が大きく停滞することを余儀なくされてしまったため、大きく崩れてしまいました。業容拡大意欲も減退する可能性があるので、遅かれ早かれ賃貸市場(実需)が悪化するのは避けられようがありません。
現在、入居中の物件については条件緩和などの対応もできるだけ行い、入居を継続して貰うようにしましょう。政策面のサポートも充実しつつあります。現在、空き家・空室になっている物件については、ご自身の財務状況を確認し、どれくらいの期間、未収入でも堪えられるか?など自ら見通しを立てましょう。実際に価値のある物件を投げ売りすることだけは避けたいので、体力が無ければ市場が動いているうちに早めに現金化することも一案です。そもそもこの機会に、手持ちの物件が売却可能か?しっかり見定めたいモノです。
さて、現在、企業の業容拡大意欲が既に悪化していることを明確に示す指標はありません。第四次産業革命の真っ只中という認識の下、政府は、狩猟社会(Society 1.0)→農耕社会(Society 2.0)→工業社会(Society 3.0)→情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会をSociety 5.0と定義し、官民一丸となって新技術の開発・導入などに邁進していることも影響しているかもしれません。
内閣府によると
・Society 5.0 で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。
また、
・人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。
・社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。
ということです。
その影響か?直近(2020年4月1日)に公表された日銀短観でも、2020 年度の企業の設備投資計画(土地を除きソフトウェアを含む)は 44.7兆円と集計され、現時点で大きな落ち込みはありません。ただ、今後、感染拡大が長期化すれば状況が一変する可能性があります。特にオフィス等の賃貸市場に対する悪影響は避けられません。
【個人】雇用環境や所得水準については、マインド面は急速に低下しています。
内閣府が毎月公表している「消費動向調査」を見ると、消費者の暮らし向きに関する考え方の変化や物価の見通しなどが「消費者態度指数」「1年後の物価の見通し」という形で確認できます。
2020年4月6日に公表された 令和2(2020)年3月実施分の消費動向調査を見ると、消費マインドを示す「消費者態度指数」は3か月連続で前月を下回り、「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時」の構成する4項目全てが前月から低下しました。「収入の増え方」は前月差マイナス4.9%、特に「雇用環境」については前月差マイナス11.6%と大幅な落ち込みを示しています。また、消費者態度指数の動きから見た3月の消費者マインドの基調判断は、悪化しており、2月時点の表現「足踏みがみられる」より下方修正されています。
消費者態度指数と各消費者意識指標の推移(二人以上の世帯、季節調整値)

出典:内閣府「消費動向調査」(令和2(2020)年3月実施分)
雇用や個人所得の数値は、前回お伝えした「景気動向指数」でも「きまって支給する給与」や「家計消費支出」、「消費者物価指数」や「完全失業率」など景気に遅れて動く遅行指数の分野の経済数値です。
一歩先読みするためにも、このような仕組みをまず、知って、定期的にリサーチしましょう。