他の投資商品と比較した場合、不動産は流動性が低い投資商品です。また、不動産は同じものが2つとない商品であり、売主、買主による相対取引となっていることから個別事情によって現金化する場合の不動産価格に大きな影響をおよぼします。今回は不動産の流動性に影響を与える特性についてお話させていただきます。
不動産の個別事情と価格の関係 |
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不動産はその個別性と相対取引という事情から、取引価格が他の投資商品に比べて把握しづらいと言えるでしょう。不動産を売却(現金化)する場合、価格に影響を与える個別性には大きくわけて物件そのものの個別事情と、売主、買主などの取引当事者の個別事情があります。 | |||||
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仮に同一地域での隣り合った不動産であったとしても、左記に掲げるような個別事情によって取引価格はおおきく違いが出てきます。また、不動産でも、中古マンションの一室など、すでに同一マンション内で取引の事例がある場合や、同一地域内に取引事例のある更地などを売却する場合などは、比較が容易なため、あまり左記のような個別の影響を受けないと言えるでしょう。 | |||
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物件の個別事情が取引価格に影響を与えるのは前述のとおりですが、それ以上に、売主、買主の事情が取引価格に大きな影響を与えるといっても過言ではないでしょう。 例えば売主の事情によって一日でも早く売却して現金がほしい場合などは、売却金額より、売却資金が手元に入るまでの期間が重要視されますので、当然、買い手には足元を見られ、相場より安く買い叩かれる事が想定されます。また、このように売り急ぎの場合、広く「買主」を探すことも時間的に限られてしまいますので、現実的には意思決定が早く、資金力も豊富なプロの不動産買取業者などが相場(エンドユーザーの購入価格相場)の70%~80%くらいで買い取る事が多くなります。 | |||
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逆に購入希望者が複数いる場合や、買主側に購入の希望が強い場合、例えば、隣接土地の所有者などで、その不動産を購入することにより所有している土地の価値が増す場合など、購入することによりメリットを受けられる人に売却する場合には、周辺相場と同等以上で売却できる可能性が出てきます。このように不動産は相対取引ですので、短期間で売却したいという希望が強い場合や、反対にどうしても、その物件を購入したいというような場合など、当事者の意向が価格に大きく反映するという特性があります。 | ![]() |
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相対取引によるリスク |
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前述のように不動産には流通マーケットはあるものの、他の投資商品に比べ、まだまだ閉鎖的であり、且つ、最終的には不動産会社が購入希望者を相対で探すというように、属人的な側面を多分にもっています。また、換金できるまでの期間も、不明であり、早くても1~2ヶ月、長ければ半年以上かかる場合もあります。しかも、売り急ぎの場合など、短期間で資金化しようとすれば、するほど相場より安くなる可能性がありますし、逆に時間をかけたからといって高い値段で売れるとも限りません。これが不動産特有の相対取引の難しさです。また、タイミングよく購入者が現れ、売却、資金化の目処が立ったとしても、購入者の事情(資金繰りや、周囲の反対など)の変化によって売買契約が解除となり、資金化できなくなるリスクも伴います。このように不動産投資を行う場合には、不動産特有の流動性を十分に理解する必要があります。 |
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不動産のタイプと流動性 |
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流動性が低いといわれる不動産の中でも、当然、流動性の比較的高い不動産と、流動性の低い不動産があります。不動産における流動性の高低は、株式投資と同じく、マーケットの参加者数に左右されます。不動産におけるマーケットの参加者とは不動産購入希望者層の事であり、多くの希望者層が集まる不動産ほど流動性は高いと言えます。 具体的な例をあげると、住宅が建っている土地と、何も建物が建っていない土地(更地)とを比較した場合、前者は住宅購入希望者に購入者層が限られてきますが、更地の場合は住宅購入希望者に限らず、店舗や事務所を建築したい人や、アパートを建築したい人、駐車場に利用したい人など、購入者の幅が広がります。したがって、建物付の土地と、更地を比較した場合は、更地のほうが流動性が高いといえるでしょう。 マンションの1室を購入する場合でも、ワンルームマンションと、ファミリータイプのマンションを比較した場合はどうでしょうか。ワンルームマンションは自分で住むというよりも人に貸して賃貸収入を得るという需要が強いため、購入者層は投資家に限られますが、ファミリータイプのマンションの場合は、賃貸収入を得ようとする投資家に加え、実際に居住するという実需としての購入者層がいるため、一般的にワンルームマンションに比べ、流動性が高いと言えるでしょう。 このように不動産の場合、物件の種類、タイプによって、購入者層が広がったり、狭まったりすることによって流動性は異なってきます。 |
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不動産の収益性と流動性に着目した上場J-REIT |
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不動産は他の金融商品に比べ、収益性、利回りが高いと言われておりますが、投資の単位が大きく、流動性に乏しいことから一般の人が投資に参加することはなかなか難しいとされていました。そこで一般の投資家層を不動産投資市場に呼び込むことによって不動産投資市場を活性化させようという狙いから、投資単位を小額化し流動性を高めた、上場不動産投資信託(J-REIT)が登場しました。これによって流動性の低いとされていた不動産を不動産投資に特化した法人を通じて証券という形で小額化し、上場株式のように証券取引所にて取引できるようになり、一般の人も不動産投資に間接的に参加できるようになりました。 |
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不動産投資信託の仕組みは基本的に不動産投資と同じく、不動産から得られる家賃などの収益を出資分に応じて投資家に配当するという商品です。取引所で常に売買されており取引価格が表示されておりますので、現金化したい場合はその時々の価格で売却できる流動性の高い画期的な不動産投資商品といえるでしょう。 J-REITは不動産投資のプロが投資法人を通じて複数の不動産に投資しているため、結果的に空室などのリスクを分散する効果が得られます。このように上場J-REITは流動性が非常に高いため、流動性リスクとしては低くなり、現物の不動産投資に比較して一般的に利回りは低くなります。 ![]() ※不動産投資法人とは |
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2回にわけて不動産の流動性について解説いたしましたが、収益性や利回りだけに着目して投資するのではなく、いざというときに資金回収できるかという流動性と、投資した元本のことも頭に入れて投資をしなければ最終的に投資は成功したとはいえません。最も基本的なことですが不動産投資は投資元本が保証されていない商品なのです。この基本を頭にいれておかなければ、運用している期間は家賃収入が得られ、表面的には利回りが出ているように見えても、売却した時の最終的な利回りが計算より低下することにもなりかねません。特に現物の不動産に投資するには長期のスタンスが必要となります。自分のライフスタイルを見つめて流動性を重視するか収益性を重視するかじっくり検討してから投資に望むべきでしょう。
略歴
- 昭和44年
- 青森県出身
- 平成6年
- 公認会計士・税理士、山田淳一郎事務所(現税理士法人山田&パートナーズ)入所後、グループ会社である株式会社ユーマック(現TFP不動産コンサルティング)に出向。
おもに土地資産家に対する相続対策、底地借地の権利調整、物納、不動産投資、収用に伴う行政との交渉、買換え、土地活用、空室相談、固定資産税の軽減など、土地資産家の持つ、ありとあらゆる問題解決のコンサルティングを行う。また日本特有の借地、底地の問題に着目し、底地専門に投資する私募ファンドの組成に携わり、ファンドマネージャーの一員として1年間に13%の高配当を実現。 コンサルティング業務の傍ら、中立公正な不動産知識情報を配信するサイト「ホームナレッジ」を作成、運営し、コンテンツの内容が評価され多くのポータルサイトにコンテンツを提供する。 実務経験を生かし、FPの講師や金融機関・不動産会社などに対するコンサルティングセミナーや勉強会を数多くこなした。 平成14年同社取締役就任、平成16年8月同社退社平成16年11月ナレッジバンク株式会社を設立、代表取締役に就任
講演
りそな銀行、埼玉りそな銀行、三井住友銀行、野村證券、いちよし証券、東京海上火災保険、積水ハウス、兵庫県宅建協会、日税不動産、NPO法人日本地主家主協会 など
著書
大和證券資産管理読本、税会計法務の羅針盤(大蔵財務協会)共著、FPマニュアル96~98年(きんざい)共著 など
不動産投資の気になるTOPICS |
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